古見岳 中腹
加藤2等陸曹は、佐藤のブーツを丁寧に脱がせ、足にできた水ぶくれを治療していた。抗菌性のドライパウダーをまぶし、乾いた靴下を履かせながら、静かに話し始めた。
「川をさかのぼった時に、濡れた靴下をそのままにして一晩過ごしたのが、やっぱりまずかったな。」加藤はふやけて化膿寸前の佐藤の足裏をじっと見つめながら、そう言った。
「すみません、曹長。自分の不注意です。」佐藤は申し訳なさそうに頭を下げた。
「気にするな。長期戦になると、誰だってこうなる可能性はある。」加藤は優しく答えた・
「それにしても、なぜ中腹にベースを設営するんですか?頂上付近なら見晴らしも良く、通信も安定するはずなのに。」佐藤が疑問を口にすると、加藤は一瞬考え込み、それから静かに説明を始めた。
「この作戦が秘匿作戦だからだ。目立たず、島民に気づかれることなく行動する必要がある。」加藤はそう言いながら、周囲の密林を見渡した。「そして、今回の相手がどんな規模で、どの国籍か、何の武装をしているのか、俺たちには全く知らされていない。」
「それが逆に怖いです。俺たちには、相手がどんな手を使ってくるか全く見当がつかない。」佐藤は不安げに呟いた。
加藤はその言葉を聞き、しばらく沈黙した後、静かに続けた。「確かにな。だが、それには理由がある。お前も察しがついていると思うが、今回の作戦は極めて高い機密性が求められている。情報が漏れれば、作戦が破綻するだけでなく、国際問題に発展するリスクもある。だから、俺たちにも最小限の情報しか与えられていないんだ。」
「さらに付け加えるなら、これは考えたくないことだが」と前おきして、加藤は続けた「もし捕まったとしても、俺たちが知っている情報は限られている。これが意味するのは、政治的影響を最小限に抑えるための措置だ。俺たちは国家のために動いているんだ。」
加藤は佐藤の目を見つめ、続けた。「情報が少ないことに不安を感じるのは当然だが、その裏には国家の安全を守るための理由があるんだ。」
「でも、それじゃ現場でどう判断すれば…?」佐藤が口を開くと、加藤は力強く答えた。「だからこそ、現場での判断力と即応力が試されるんだ。お前たちは訓練で何を学んできた?訓練で得た知識と経験、それが今、まさに生きる時だ。」
佐藤は少し驚いた表情で加藤を見つめた。「敵がどんなに大きな勢力でも、どんな装備を持っていても、俺たちはそれに対処する準備ができている。現場での状況を見て、判断し、行動する。それが俺たちの役目だ。」加藤は静かに、しかし確信に満ちた声で言った。




