26音*.♪❀♪*゜ 秘めた心
22話あたりのユウ視点のお話になります໒꒱·̩͙⋆.*・゜
桜がふわりと天から、降り注ぐ────。
絶え間なく舞い落ちる花びらは、天蓋のごとく二人を包み、外界から隠し続けていた。
(このまま時間が止まればいいのに────)
ユウは、腕の中の温もりを確かめるように、マイナを抱き寄せる。伝わる体温と鼓動に、心が満たされていく。一秒たりとも離れたくなくて、眠る彼女を起こさないよう、ユウはゆっくりと腕に力を込めた。
密着した体から、お互いの体温が交わり……一つになる。僅かな隙間さえ無くしたかったのだ。
無防備にも、自分の腕の中で眠り続けるマイナが愛おしくて、ユウはその額にそっとキスを落とした。
『早く戻っておいで……悪い夢は、もうお終いだよ────』
すると────彼女の体内を巡る膨大な魔力の中で、小さく息づいていた神力の気配が大きくなる。
不安定だった魔力の乱れが、徐々に落ち着きを取り戻し、安定していった。
(綻んだ封印も無事、封じ直せたようだね……)
マイナの魔力と混じり合ったユウの神力は、やがて溶けていくように、ゆっくりと気配が薄れ……そのまま彼女の中で眠りについた。
強大な魔力の奥底で、寄り添うように────。
『……君は気づいているのかな?唯一、僕の心を縛ることができるのは、マイナ……君だけだ。君だけが僕の世界に色を残す』
ユウは柔らかな微笑みを浮かべながら、マイナの髪を撫でるように掬い、口づける。
そして、金の瞳を細めた。
『そうだろう……?────君の中で眠り続ける……僕の欠片が何よりの証だ』
問いかけた言の葉は、風に攫われ……静かな夜の闇へと消えていった。
桜の樹々が揺れる。
春といえど、夜の息吹はまだ冷たい。
だが、寄り添い合う二人の世界には、頬を撫でる冷気さえ届かなかった。
サァァァァァと風の音が鳴る。
髪が空に靡き、花びらが舞い上がっていく。
『いずれ────全ての封印が解き放たれる。そう遠くないうちに……』
ユウはマイナの頬にかかった艶やかな黒髪を、指先で優しく払う。
その表情は穏やかで、とても優しい。
『マイナの本来の力が目覚めるその時まで、必ず僕が守る。約束を違えたりしない』
ユウの金色の瞳が光り輝き、腕の中で眠るマイナを見つめる。
『だから安心するといい。君たちの心配は無用だ』
舞い散る花弁の隙間から差し込む月光が、二人に降り注ぐ。
静寂の中。幹の反対に潜む影が、ゆらりと揺れて消えた。
『目覚めた君の歌を、もう一度聴けるのは嬉しい。……だけど、封じられたあの日の痛みまで蘇ってほしくはない』
ユウはマイナの頬にそっと顔を寄せ、瞳を閉じる。
幼い少女が自らを犠牲にして、封じた世界の闇。
どれだけ辛い決断だったのか……その悲しみは計り知れない。彼女が払った対価は大きく、一人で背負うにはあまりにも重すぎるものだった。
『ごめんね……今度は絶対守るから』
微笑み以外、誰にも見せることのないユウの表情が、切なげに歪み……一粒の涙が零れ落ちる。
(もし再び、君を傷つけるものが現れるのなら……今度こそ、全て排除する。もう二度と、君が泣かずに済むように……。どんな敵からも、僕が君を守るよ。マイナ────)
ユウは彼女の目元にそっと口づけた。
揺らぐことのないこの決意は、どれほどの時が経とうとも変わらない。
────銀色に煌めく髪が、静かに揺れ動く。
少し離れた場所にいたヨウの気配が移動するのを感じ、ユウは視線を上げた。
目の前に現れたのは、自分と瓜二つの双子の弟。
ヨウは二人の姿を目にすると、ユウが腕の中で大切に抱いているマイナへ視線を向けた。そして再び、双子の兄を見て、ゆっくりと首を傾げた。
『……そんなに大切?オレよりも?』
冗談めいた弟の言葉に、ユウは小さく驚いて……微笑む。
『ヨウ……。僕たちは双子だよ。昔も今もこれからだって、変わらない。僕たちは、二人で一人。互いにとって誰よりも特別で、誰かと比べたりできない存在なんだ』
迷いなく言い切るユウの瞳は真っ直ぐで、大切に思う気持ちが滲んでいた。
ヨウは、最初から答えが分かっていたかのように、くすりと笑う。次いで、穏やかに微笑んだ。
『冗談だよ。ユウ。でも、良かった……兄さんの特別がまだオレで……。安心した』
『言っただろう?ヨウ。どんなことがあろうともこの先、君が僕にとって特別な存在であることは、変わらない事実だ』
生まれる前からずっと一緒だった。
離れていても分かる。互いの存在も、心さえも。
誰よりも近くて、深い絆で結ばれた大切な己の半身。
それは、お互いにとって決して変わることのない真実で、幸福な定め。
この先もずっと────。




