24音*.♪❀♪*゜ 会合
(世界の巫女としての私も、純血のヴァンパイアの姫としての私も、並行して進めなきゃ。どちらも世界に関わる大切な役目。けれど……求められる役割は違う。巫女の正体は秘匿され、調律者の中でもごく僅かしか知らない。慎重に動かないと……!)
決意を胸に、マイナはユウの服を無意識に軽く握る。
添えていた指先に力がこもり、白い布は濃い影を作った。
(万が一に備えて、先手を打っといて良かったぁ〜。後回しにしていたら、余計に仕事が増えるところだった……絶対!ただでさえ忙しいのに、これ以上は増やせない。備えあれば憂いなし。頑張れ、私!)
そっと心の中で、自分にエールを送り励ます。
放課後に仕掛けといた魔法が、役に立ちそうだ。
そう考え、張り巡らせた魔法の数々に思わず意識を向けていた。
────だから気づかなかったのだ。
心を乱す不意打ちに。
(ユウも一緒だし、二人でこなせば早く終わるはず)
そう思っていると────ふにっ。
(ふにっ?)
頬に、何かが触れた。
ぱちりと瞳を瞬せる。
先の展開を読み、最適な対処を幾つか組み立てていたマイナは、前触れのない感触に現実へと引き戻された。
「え……?」
一拍遅れてその正体に気づき、視線を上げる。
すると────美しい金の瞳と重なった。
穏やかな微笑みは、いつものユウと変わらない。
優しくて柔らかい笑み。
神々しいほど整った美貌と、月をそのまま嵌め込んだような煌めく瞳。
────誰かが言っていた。
畏怖さえ覚えるその微笑みに、誰もが目を離せない……と。
今まで、ユウから畏れを感じたことは一度もない。
もちろん、今もだ。
時々見せる黒い笑みも、貴族ならば当然のものだろう。兄だってそうなのだから。見慣れている。
けれど。
今のユウからは、それとは別の……どこか危険な香りがした。
まるで蜂蜜を溶かしたように甘く、獲物を狙う捕食者のような気配が、金色に煌めく瞳の奥にひそかに潜んでいる。
『妬けるな……僕が目の前にいるのに、別のことを考えている余裕があるなんて』
フッと……こちらを見下ろしていた瞳がさっきとは違って、楽しげに細められた。
気づけば、ユウの指先に絡め取られた髪の束が、弄ばれている。
そして、するり……と指先から髪が零れ落ち、新たに一束掬い上げられた。
『僕に、夢中になって』
意味は分からなかったが、神々が使う言葉────神語で何かいうと、ユウはマイナの髪に口づける。
「っ……!ユウ……」
至近距離で行われた流れるような動きに、ようやく抱きしめられていることを思い出した。
見下ろす金の瞳はどこか熱を帯びているようで、愛おしさすら感じさせる。
美しい狼に見つめられた子兎とは、きっとこんな気分なのだろうと、ふと思った。
『……なーんてね。驚いた?』
穏やかな声音が落ちる。茶目っ気を含んだ仕草で、首を傾げたユウの瞳の奥を読もうとするが、結局その意図は読めなかった。
マイナは抱きしめられたまま、わずかに上体を起こしずらす。そして、銀色に輝く美しい髪へと顔を寄せた。
『マイナ?』
微かに……驚いたような、ユウの声が聞こえてくる。
名前を呼ばれ、一瞬動きを止めたが……やめるつもりはなかった。
視界いっぱいに広がる────優しい銀色。
横に流れるようにまとめられた、左サイドの一部の三つ編みは、優美な意匠のヘアピンで留められている。
銀の髪に唇を寄せ────マイナもユウの髪へと、口づけた。
それから、ゆっくりと身を引き……顔を上げる。
「ふふ……お返しだよ」
マイナはふわりと、ほんのり頬を染めながら微笑んだ。
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世界の管理を許され、均衡を守り維持する役目を与えられた存在を、【世界の管理者】または────【調律者】と呼ぶ。
神は────生命を創造し、祝福を与え、魂を管理し、導く。
悪魔は──── 対価と引き換えに望む運命を与え、契約者には運命に抗う力と過酷な試練を課す。
精霊は────世界にマナと呼ばれる原初の力や、魔力・神力といった力の源を満たし循環させ、自然を育む。
世界の巫女は────次元の綻びや歪みを正し、影を祓い清め、均衡を乱す敵を討ち、全ての悪から世界を守護する。
それが、世界の管理者として役目であり、世界に選ばれた巫女の役目だった。
真っ白な空間には────大きな円卓が置かれ、囲むように27個の椅子が並べられている。
世界の狭間で開かれた会合は、9人のヴァンパイアの真祖と同じ数の神々が座っていた。
その後ろには、それぞれの後継者または代理人が控えている。
ユウはヨウとともに皇子として、父である神皇の背後に立ち、静かに彼らの話に耳を傾けた。
『それで、どうするつもり?オルゼオールのように、ルクスも狩るの?』
第三真祖イデアが怠そうに首を傾げ、揺れた青紫の髪がさらりと肩から落ちる。興味なさげに細められた瞳は、静かに第一真祖レイフィスへと注がれた。




