20音*.♪❀♪*゜ 神の正装
淡い月の光が、人形めいた美しい双子に降り注ぐ。
銀の髪がさらりと揺れ、夜闇のなか煌めいていた。
まるで、月光が具現化したようだ。
絵になるようなその光景は夢のように儚く、息を呑むほど美しい。
佇む二人の少年は、ライトアップされた桜をぼんやりと見つめていたが……やがて宝石のような金の瞳がこちらを映す。
『こんばんは、マイナ。それに兄君方も。少し、妹君をお借りしても?』
ユウは優雅に微笑み、ふわりと首を傾げた。
。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。
兄と離れ、マイナはユウと庭園を歩く。
ふわり……と風が髪を撫で、花びらとともに夜に舞った。
咲き誇る花々を照らす小さな灯りは、闇夜のなかで色とりどりに揺らめき、幻想的な空間を作りだしている。普段なら思わず足を止めて、見入ってしまうだろう。だが、今回はそれどころではなかった。
(っ…………ど、どうして……私、今、ユウと、手を、つないでるのぉぉ〜)
不意打ちで繋がれた、手のひらから伝わる体温に……頬がじんわりと熱を帯びる。
ドキドキ鳴り響く鼓動が、やけに体内で大きく聴こえてきて、耐えるように目をつぶった。
しかし、恥ずかしさから一転……今度は心配になる。
(聴こえてない……よ、ね?)
鼓動の音が、相手にまで聴こえてないか不安になったのだ。意を決して目を開けるが、はたと気づいた。
そもそもどうして、兄と引き離したのだろう……。
率直な疑問に、いつの間にか鼓動は落ち着きを取り戻し、正常なリズムを刻む。
マイナは、そっとユウを見上げた。
優しげな金の瞳をじっと見つめるが……何も読み取れず、ただ宝石のような美しい瞳があるだけ。
(ユウが本気で隠すと、私でも読み取れない……。むしろ、わざと違う感情を読み取らせそう)
一瞬、黒いオーラを纏ったユウを思い浮かべて、次に二人の兄が頭をよぎった。
(よく、スイお兄様やユキお兄様が腹黒狸たちに使ってる技……)
社交会で待ち構える古狸を、嬉々として迎え入れて、相手の思い描く感情を誤認させる。そして、墓穴を掘った狸を撃沈させるのだ。
そうとは知らずに、自ら火の海に飛び込む狸が後をたたない。
(ヨウは、あんなに分かりやすいのに。やっぱり、一卵性でも性格は違うんだね……ヒヅキお兄様たちもそうだし、当たり前か)
それならば……と、ちらりと後ろへ視線を向けた。
一定の距離を保ちながら歩く、ヨウの姿が目に入る。
双子の兄と同じ、綺麗な金色の瞳。
だがユウとは違い、ヨウの瞳の奥には……感情が滲むことがあった。
もちろん上手く隠している為、相当洞察力に長けた人でなければ、そうそう気づかないだろう。
けれど、長年この双子の傍にいたマイナには、二人の感情を読み取ることは割と得意だった。
もっとも、ユウに関しては本人が意図的に隠そうとしていない場合に限るが。
ヨウの瞳から二人の意図を探ろうと、離れた距離から目を凝らす。しかし夜のせいか瞳は陰り、無機質のように見えた。
結局、なぜ兄から遠ざけたのか……理由は分からないが、おおよそ見当はつく。
マイナはユウに視線を戻すと、作りものめいた美しい横顔を眺めた。
銀の髪の下で揺れる、透明度の高いダイヤモンド。雫型にカットされた宝石には、強い力が込められている。この魔法石は特別で、神界を統べる神皇と次期神皇である皇太子のみが、つけることを許された神皇石だ。ピアスに加工された神皇石は、ユウの左耳で艶やかに煌めいていた。
(神衣……。どうして、二人とも正装?)
マイナは、風で靡くユウの服に視線を落とす。
真っ白な衣に織り込まれた銀の粒が、ほのかに光を帯びる。神秘的な模様の刺繍は金糸で施され、優美な装飾品には精緻な紋章が刻まれていた。
高位の神に相応しい、畏怖を抱かせるような神聖さを纏った装いだ。
そんな神威を宿した衣は、双子の神としての神衣であり、正装でもあった。
不意に、隣を歩いていていたユウが足を止める。
目の前には、大きな桜の樹がそびえ立っていた。
庭園で一番立派な桜は、満開に咲き誇り枝を揺らす。
絶え間なく降り注ぐ淡い花びらが、風に乗って舞い踊り地上へと降り積もった。
そうしてできた桜の絨毯は、一面をピンクに染め塗り替えたのだ。
どうやら……手を引かれるまま気づかぬ内に、赤い鳥居をくぐって相当奥の庭園まで来たらしい。
ふと、ユウの右手がマイナの頬を撫でる。
「んっ……ユウ?」
温かな手のひらに驚いて、マイナは小首を傾げた。
『今日の昼間、力を使ったでしょ……』
ユウの全てを見透かしそうな金の瞳が、僅かに細めらる。
(!……やっぱり、第十一真祖について……でも、それならお兄様がいても問題ないのに、どうして……)
すでに入学式で起きたことは、兄やミリアーナに知らせていた。だが今回の件は真祖に関する情報の為、どこまで神側に知らせていいのか、まだ決まっていない。
なんて言おうか迷っていると……ユウが神衣の襟に左手をかけ────ぐいっと引いた。
ゆるんだ首元から、透き通るような白い肌が覗く。
「ふぇっ!……ユウ?!」
突然の行動に状況が処理しきれず、考えた言葉が一瞬で飛んでいった。




