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19音*.♪❀♪*゜ 懐石料理店『四季』

口の中で、プチプチと弾けるいくら。

舌先に触れたところから、溶けていくホタテ。

磯の香りが広がる蟹味噌や、食感が楽しいつぶ貝。

とろけるようなねぎとろに、わさびが合うびんちょう鮪やいか。そして、魚介の甘みと濃厚な旨みが詰まった伊勢海老。


なかでも美しい器に飾られた────春を告げる桜鯛は、さっぱりとした上品な味わいで、お祝いに相応しい主役の一品。


どの料理も新鮮で、品質の良い食材だと一目で分かる。


昼は茶懐石、夜は寿司懐石だけをふるまう、老舗の懐石料理店『四季』。


イルヴェリーナ皇国の王族が経営しているお店の一つで、子孫であるカミノ家が管理していた。


「……!美味しい。茶懐石も良かったけど、夜の寿司懐石もやっぱりいいね。それに、お祝いの席だとより美味しく感じる」

「そうだね。改めて、入学おめでとう。今日は特別に料理人たちが特製のデザートを用意してくれたみたいだよ」

「ここの懐石料理は、低糖質低脂質で低カロリーだから嬉しいわ。デザートも楽しみね」

「肉やラーメンもあるのもいいよな!」


マイナとスイ、ユキはお寿司や刺身をゆっくり味わいながら堪能する。反対にショウは、肉寿司を中心に楽しんでいた。


「いや、本来はないわよ?それはあんたの為の特別メニューよ。それはそうと少しは魚を食べなさい、ショウ」

「食べてるぞ、アナゴ」

「……魚っちゃあ魚だけど、もうちょっと生っぽいのも食べなさい。せっかく料理人たちが作ってくれたんだから」


ユキはショウのお皿に視線を落とす。ショウが頼んだお皿には、肉や揚げもの、ジャンクフードの数々が並んでいた。どれもネタが油で艶めいている光景に、ユキはめまいを覚える。


「おー!もちろんあとで食べるさ」


その隣でショウは、さらにラーメンを注文した。





人間界に古くから続くこのお店は、上流階級の間では名の知れた名店だ。


今でも、旧華族の血を引く名家や財閥、政治家などの権力者たちに愛されている。海外の王族も虜になるほどに。


イルヴェリーナ皇国が経営してるだけあって、魔界でも有名なこのお店には、人間だけではなく当然魔族も足を運ぶ。


その為、仲居の半分はヴァンパイアなのだ。


食事を終て、座敷で家族と和やかな時間を過ごしていると……いつの間にか二十二時を回っていた。


「あら、もうこんな時間。時間が経つのは早いわね」

「みんなは先に戻っていなさい。私たちは、ミリアーナ様たちと会ってから戻るから……」


両親は、柔らかな眼差しを子どもたちに向ける。


どうやらこの後に大切な会合があるらしく、皇族直系として、カミノ家も参加しなくてはならない。


個室に両親を残したまま座敷を後にし庭園へ出ると、ひんやりとした風が頬に触れた。


銀色に染まった満月が夜空から光を溢し、綺麗な薄紅色の桜が月の光を浴びて舞う。


マイナは、その美しい風景に心奪われた。


なかでも……双子の片割れを思わせる、銀の月から目が離せない。


(ユウに、会いたい────)


ふと、優しい銀の髪の少年を思い浮かべて……胸が苦しくなる。


徐々に紅く染まっていく月に、マイナの瞳も真紅に色づいていくのがわかった。


溢れ出した想いは、毒のように広がり……痛みへと変わる。そして、世界は紅く染まった。


『どうして────私を封じるの?こんなにも、××なのに……』


心の中で囁く少女の言葉に、マイナは目を閉じる。


この想いは、今だけのもの……。ほんの一時にしかすぎない。『違う……!』と少女の声が聞こえるが、むりやりそう思いこむことで、苦しみが少しづつ和らいでいった。


自分とよく似た面影の少女は、一粒の涙を流し……また深い眠りへと落ちていく。


幾重にもそっと鍵をかけ、気持ちに気づかないふりをする。簡単に壊れて開くだろうと知りながらも、目を背けた。


その気持ちを手にした瞬間、きっと恋焦がれて望んでしまうから────。


月明かりのように優しく、夜のような冷たさを纏った美しい神の首筋に牙をたて、甘美なる血を全て飲み干し、永遠に一つになりたいと────。


ふっと頭に温もりを感じて、マイナはゆっくりと瞼を開ける。視線の先には、手慣れた手つきで優しく撫でてくるユヅキがいた。心地いい温もりに身を委ね、微睡そうな意識をとどめる。


「……アイス、買って帰ろう……」


無表情ながらもどこか弾んだ兄の声に、マイナは小さく微笑んだ。


「デザートの桜パフェ、美味しかったよね〜。特に桜のアイスが最高だった」

「ん……最高だった」


入学祝いに用意された特製デザートは、春をイメージした和の『桜パフェ』だった。甘い苺をふんだんに使い、桜味のマカロンと一緒に、真っ白なソフトクリームの上を彩る。

そしてその下には、桜の花や葉が入ったアイスクリームと抹茶のアイスクリームが層になり、お互いの甘さと苦味を抑えた絶妙なバランスに、皆気に入っていた。


「本当に好きなのね、桜のアイス」

「ユキお兄様」

「あんなに食べたのに食べ足りないなんて……」


食に無関心なユヅキを含め、いつも出された量しか食べない三つ子たちが、珍しくおかわりしていたことに、兄妹はもちろん両親も驚きを隠せずにいたのだ。


最終的にショウに負けないぐらいの、器のタワーが三つも出来上がっていた。


「私も桜のアイスは大好きだから、ヒヅキお兄様たちの一番好きな食べ物が桜のアイスで嬉しい」

「ん、一緒」


嬉しそうに頬を染めたユヅキによって、マイナはぎゅーっと抱きしめられる。


その微笑ましい光景に、ユキは静かに微笑んだ。




季節感溢れる庭園に目を奪われながら、石畳の露地を歩いていく。すると少し離れた先に、人影が見えた。

近づくと……美しい銀の髪を靡かせた、2人の少年が庭園を眺めていた。


(ユウ────?)




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