31 ぼくたち朝倉研究所
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「フ~フフ~ン♪ フ~ンフ~ン♪」
ハナウタを歌いながらだと、朝のおそうじも楽しくなっちゃいます。あと一部屋でカンペキです。
ぼくこと「朝比奈 星夜」がここ、朝倉研究所にやってきてから何か月が経過したのでしょうか。もうそれすら思い出すことができません。でも、まいにち気持ちよく過ごせているので、何もわるいことはありません。
のんびりと、それでいて、たいくつのしない日々をすごしてます。
「おやおや、朝は早いねえ」
「あ、朝倉さん! おはようございまあす!!」
「おはよう、アルト」
朝倉さんはこちらに来て、ぼくの頭をなでなでしてくれます。
「えへへ」
まいにちこうしてもらってます。とっても嬉しいのです。
朝倉さんことハカセは、世をハアクしきっているお爺さんみたいな喋り方をしていますし、髪と白衣も白いです。
ですが身長は子供の僕なんかよりも少し低く、歳も二十歳より下だとうかがっています。セイシンネンレーだけが上がって行ってしまったと本人はよくおっしゃります。
ハカセはどんなカガクやブツリガク、セイブツガクもお手の物で、どんな問題でも直ぐに解いちゃいます。本当にすごい人です。
今は『この世界』に隠されたヒミツを探ろうと研究しているんだそうで……。ぼくにはムズカしいことは分かりませんけれど、うしろでおうえんしています。
「一通り片付いてからでいいが、『カセット』君を起こしてきてもらえるかい?」
「あ、丁度いいので、いま起こしてきちゃいます」
「頼んだよ。それと、私は展望台にいるからね」
「はーい、わかりましたー」
ぼくはおそうじ用具をすみっこに置いて、起こしにむかいます。
カセットというのは、械斗さんのことを言います。この研究所のコウギョウ、キカイ担当です。とてもギジュツリョクが高くて、そのサイノウを、朝倉さんが買ったのです。
ハカセに出来ないことを、ギジュツシャ―言いにくいけどがんばります―さんがする。お似合いで、すてきなオートツコンビだと思います。
「械斗さん、起きてください!」
「んぁ……あと五分……」
「そんなこと言って、いつも一時間寝ちゃうじゃないですか」
ただ、そんな彼に一つ問題があるとすれば……。
「はぁ~……。お前なあ……技術者は寝ないと仕事にならねえんだよ~……」
「いつも十二時間も寝てるのに何言ってんですか!?」
ジダラク。
その一言に尽きます。
今でこそなれてしまいましたけれど、言葉づかいが荒くて少しコワイのです。だからこっちのキモチが勝たないと、械斗さんは動いてくれません。
「ちぇ~……アルトには敵わんなぁ」
「えっと、朝倉さんが呼んでましたよ」
「へいへい、今行きますよっと……」
彼は気だるそうに立ち上がって、ネマキのままフラフラとお部屋をでていきます。
「……って、せめて着替えてから部屋を出てくださいぃ!」
ほんと、困った人なのです……。
それから二人で中央のオーヒロマにつきます。着替えを渡したところで械斗さんは言うのです。
「で、朝倉はどこに居んだ?」
「テンボーダイに居るっておっしゃってました」
「へー珍しいな」
言われてみれば、確かにそうです。朝倉さんがそこに行くことは、指で数えても片手に収まるかいすうです。
「じゃ、俺はここで待ってるからよ、呼んできてくれよ」
「もー、人使いが荒いんですからぁ」
「悪かったなー」
オーヒロマを出て、階段を駆け上ります。転びそうになってしまいましたが、持ちこたえて、二階、三階……とこえていきます。
そしてテンボーダイにつくと、優しい、ささやかな風さんのお出むかえ。すずしくて、気持ちいいのです。
そして向こうがわに朝倉さんが……あ、いました。背中を向けているので、ぼくには気づいていないのでしょう。
「あーさーくーらーさん!」
「おぉアルト! 想定よりも早かったぞ、えらいえらい」
「械斗さんがすぐ起きてくださったからですよう」
「こちらに来たらどうだい? いい眺めだぞ」
「はーい!」
朝倉さんに近寄ると、あたりのけしきが良く見えます。
いつ見ても本当にいい眺め……。
ここは丘の上に立地しているみたいで、とおくにはお街が見えます。その風さんのささやかさも相まって、よけいステキに映るのです。
「あのお街に、いつか行ってみたいです……」
ひとり言のつもりでつぶやいたのですが、朝倉さんはそれを聞きのがしません。
「ほほう……。何かしたいことがあるのかい?」
「うーん、キョーミホンイではありますけれど、もっとお勉強がしたいのです」
「なるほど、学業を営みたいか」
「はい。テレビで見た、ガッコウっていうのに行ってみたいです」
キョウシツという所に並べられた、いくつもの机とイス。正面には緑色のボード―黒板というらしいです。緑なのに黒なんですね―があって、そこに先生が文字を書く。
そして説明を聞きながら、エンピツを走らせ、休み時間やキューショクの時には、おともだちと楽しくお話をしてすごすそうです。
「そのキューショクもとっても美味しそうで……」
「アルト、涎が垂れてるよ」
「ハッ……」
ポケットに入ったハンカチで、フキフキと口元をぬぐいます。ハンカチをつねに持っておいて良かったです……。
「と、ところで、どうしてここに?」
「ああ、もうすぐだ。じきに来るはずだよ」
「へ?」
「君と、同じ境遇の者がね」
「うーん……? どういうことですか?」
「すぐに分かるさ」
なんのことやらさっぱり、です。朝倉さんは隠し事が多くて困ります。
「境遇と言えば、アルトが来てもう長いこと経つねえ」
「ろこつに話を変えられてしまいました」
「まあまあ。たまには思い出話もいいではないか」
「むー、わかりました」
これは何ヶ月か前、朝倉研究所が元の世界にあった時のお話です。
キオクは定かではありませんが、ある日の晩に、ぼくは朝倉研究所の目の前にリューセーのように落下したのだそうです。
傷は多かったものの、朝倉さんのちりょうのおかげでなんとか助かることができたのです。
それからしばらくして目が覚めました。
まさか解剖室でちりょうされるとは思ってもみませんでしたよ。しかも朝倉さんも冗談で「え、助けてると思うのかい?」なんて言ってくるものですから、悲鳴を上げてしまったのは言うまでもありません。
ただ、落ちたショウゲキなのか何なのか、じぶんがその落ちる前まで何をしていたのか、そのすべてを忘れてしまったのです。ただ一つ覚えていたのは、名前の一部ぐらいで……。
「ぼくは……『アルト』です」
先ほどから朝倉さんや械斗さんが、「アルト」と名前で呼んでくださっていましたが、本来はそれこそが自分の名前なのです。『朝比奈 星夜』というのは、朝倉さんが付けてくださった偽名にすぎません。
けれど、折角お名前を頂いたのですから、それをイチバンに使いたくなります。なので、新たなこの世界ですごしている間は、この星夜として生きていくことをえらびました。
それからずっと生活のじかんは流れて、今に至るというわけです。
「思い出に残るほどに、長いこと時間が経っていたんだねぇ」
「本当ですね。僕にできることは少ないですけれど、それでも居させてくださる朝倉さんに、とってもカンシャしています」
「何を言ってるんだい。アルトは居てくれるだけで安心できるんだ。いつもありがとうね」
そういって、彼はぼくの頭をまたなでます。
「えへへ……ぼく、がんばりますね……」
「おーい朝倉ぁ!! 俺に用事があったんじゃねーのかー!?」
テンボーダイの降り口から、大声が聞こえてきます。
……あ、そういえば、元々は械斗さんに頼まれて、朝倉さんを呼びに来ていたんでした。
「すみません……本当なら自分がいうべきことだったのに」
「私が長居させてたってことにすればいいさ」
ぼくに非があることには変わりありませんので、これからは気を付けないとですね……。
二人でテンボーダイを降りて、またオーヒロマへともどります。
「おおいアルトぉ、退屈だったから部屋の掃除やっといたぜ」
「んええ!? あ、ありがとうございます!!」
械斗さんが真っ先に言ってくるものですから、驚きました。普段はおそうじなんて手伝ってくださらないのに。
「でも、ぼくのやってないところ、どうして分かったんですか?」
「お前って目立つホコリ一つ許さないじゃんか。だからちょっとでもホコリがある部屋を掃けばいいんだよ」
ぼくなんかよりも、はるかにぼくを見てる人が近くに居ました。そこまで見られてるとは思わず、なんだか恥ずかしくなってきました。
「さて、朝食の準備にかかりたい……のだがその前にだな。少し今日は話をしてからにしようかな」
先ほどまでとは打って変わって、真剣なまなざしの朝倉さんがそこにいます。それを見て、械斗さんもぼくも、同じような表情になっていたと思います。
「先ほど、時空が歪んだんだ」
「は?」
「だから、微かに空間が歪んだ」
「は?」
「……なんか歪んだ」
「なんかって何だよ。いや意味は分かるんだよ。過去と今が混じり合ったんだろ? 何でそうなった」
ひとこきゅう置いて、朝倉さんは理由をのべます。
「まだハッキリとは分からないが、それによって何かが起きるだろうということは予想するまでもないことだ。
二人は難しいお話をずっとしています。ぼくにはよくわかりませんが、何かまずいことになってるようです。
「で、そりゃあ治せんのか?」
「私と君にかかれば問題なかろう」
「ほへー……」
思わず気のぬけた声が出てしまいます。彼らはそんな、よくわからないことでもお手の物なのだからすごいです。
「この世界に誤って来てしまった来客がいるかもしれない。物質やら生命を、正しい時間に転送した後に行うとしよう」
「なんか面倒になりそうだな」
「そんなことはない。研究室のレーダーによれば二桁もないからね」
えっと、もしかして、時間をこえてきた人たちを助けようってことですかね……?
ならぼくも、お手伝いしたいのです。
「その手のことは任すとして、俺にできる事……オーダーは?」
「転送装置のガワの作成だ。寸法は後ほど伝えよう」
「おっしゃ任せとけ! お前の思う通りに作ってやるよ」
械斗さん、とっても頼もしいことを言ってますけど、モノゴト全部をカンでやってるんですよね。ウデマエはあるので大丈夫だとは思いますけど……!
「さてアルト、君にもやってもらいたいことがあるんだ」
「はい、なんでしょう?」
朝倉さんがくださるお仕事なのですから、断る理由もありません。しっかりとコンセツていねいにこなしましょう。
「『夜天 流衣』と、そして『ベガ』。この二人が来るはずだ」
「ヨノウエさん……ベガさん……」
「彼らがやってきたら、しっかりとお出迎えをするんだよ」
「あ、はい!! わかりました!!」
お客さんが来るよていがあったみたいです。いつ来るのかなどは明らかでないらしいので、お庭でお散歩しながら、待つことにしましょう!!
今日は、どんな楽しいことがあるのでしょう。それを楽しみにしながら、お外に出るじゅんびを始めます。




