28 来訪者の正体
★☆★
「あ、居た居た。ちょっと待って!!」
次の家へ向かおうとした時、格子状の門の奥からヒカリの声が聞こえてきた。
何やら焦っているような声色だ。
「僕達も居るよーー!!」
「ルイ、ベガ!! あなた達も居たのね!!」
言うなりこちらに駆け足で向かってくる。
急いでくれる気持ちはありがたいが、靴が上手いこと履けていないじゃないか。こんな調子だと転びそうだ。それに、自分たちは今時間に困っているという訳でも無い。だから落ち着いて、良ければ歩いてほしいなとも思うんだけどな……。
「ひゃっ!」
ほら躓いた。いや、でもこんなにも早いとは思わなかったな……。
しかし地面が芝生で良かった。これならきっと、怪我もないことだろう。
「怪我はないー!?」
「ええ、平気!」
ルイは大丈夫だろうと分かっていても、念には念を入れて聞いたのか。
相変わらず、細かいことに気配りできる彼が素敵だと思う。尊敬するし、一緒にいて安心する。自分の気付かないことだって、彼が気付いてくれている。
彼が居なかったら、自分は今不自由な生活を送っていたかもしれないしな……。いや、それ以上に、下手をすれば野垂れ死んでいたかもしれない。
思えば、あの星屑ヶ原という場所。あそこが本当に存在する場所なのかも分からないな。いやいや、ルイが見ているのだから本物なのかもしれないけれど、仮にその間、ルイが幻を見せられていたとすれば、何となく合点がいく。
単なる樹海に自分は落下したのだと、そう考えれば。
この数日だけでも多くの超常現象らしいものに遭遇してきた身として、その線を考えていこうと思う。
待てよ。
だとすると、今ここに居る自分は何なんだ?
幻……――。
――これ以上考えるのはやめよう。
「ベガ、どうしたの? 顔強張らせちゃって」
「……いや、何でもないよ。それよりも話聞こう」
「え、あ、うん……分かった」
ルイは納得のいかない顔をしているが、それよりも今は聞くべきことがあるんだ。その話の方が優先だろう。
「あたし達の天ノ峰とは、また別の天ノ峰……なるほどね、ルイにそっくり」
「でも、俺の本当の名前はルイじゃないぜ?」
一人の方を見て喋る。その目はルイのそっくりさん、ただ一点を見つめていた。時折自分たちの方に目線が来ることはあれど、絶対にもう一人の方に目を合わせることは無かった。
「貴方達はちょっとここで待ってて」
そっくりさんともう一人にそれを告げると、彼女は自分たちを少し遠くに誘導する。
「なーるほどね。仮説の信ぴょう性が高まるってものよ」
「仮説?」
ルイが咄嗟に尋ねる。自分たちも先ほどちょっとした考えを持っていたため、照らし合わせるためにもしっかりと聞きたい。
「そう、仮説。多分貴方たち、彼らの一連の流れを、別世界から来たって解釈してる気がする」
「う……鋭いね……」
「伊達に私学の統率をとってないわよ」
恐らく詳しいことは何も話されていないだろうに、よくもまあここまでルイの行動や考えを読めるものだ。分析する力が猛烈なのだろうか。というかそれで私学の統率が果たして取れるのか……? いや取れるか。思考が読めるのだから。
ボケているようで実は真相を突いているのか。
……ツッコミ所が無いのが何だか寂しいな。いやそれも何だかおかしいけど。
完全にボケな立ち回りを見せたフェーリエントのせいだな……。今度あいつが戻ってきたら文句の一つや二つ言いたいものだ。
「その世界の自分が来たって、心の中では喜んでたでしょう?」
「やめてぇ、恥ずかしいからぁ」
「ルイは弄り甲斐があって面白いわ」
ルイが真っ赤な顔をしている。耳たぶまで綺麗に熟れたトマト。
心で恥ずかしいことを考えていて、それが読まれたのだ。枕に数回顔を打ち付けたい衝動に駆られているだろう。
「冗談はさておいて、予想は違っていると思う。合っていたとしたら、私の中にあるモヤモヤが解消されないから」
「モヤモヤって?」
またもルイが尋ねる。単に違和感を擬音で例えたのだろうか。それとも別の何かが……。
「ええっとねえ……恥ずかしい話なんだけど、あなた達、あたしが親父に取ってた行動を覚えてる?」
「罵詈雑言の嵐だな。時折暴力も振るって」
「見てて鬼かと思った」
「もう少し言い方を考えてほしかったわ……」
「あぁ……」「ごめん……」
流石にストレートに言い過ぎたな……。
何というか、自分の中で印象に残り過ぎていたのが大きいかもしれない。ヒカリが父親にしていた行動の、その全てが嫌悪に満ちていたし、いずれその真相は知りたいと思っていた。それが強く出てしまったんだな……。
「まあいいわ。それで、さっき来たあの子に対しても、同じ行動を取りたくなったの。こんなこと初めて」
「……なるほどな、やっぱりだ」
「僕らもさっき考えてたよね、その説」
自分たちは意気ぴったりに頷き合う。そこまで話してもらって、自分たちが新たに立てた仮説と、彼女の言うそれが全く同じものであると理解したのだから。
時間の移動。世界線を辿ってきた訳でなく、単に、時間だけを飛び越えてきたのだ。
彼女が彼を見てイライラするのは、正に彼こそが父親張本人であり、その過去の姿だからだ。
ルイと別の彼がそっくりなのも、これに同じ。
若い父親の姿を見ても、判別はし辛いだろう。だから分からなかったのだ。
「なあんだ。貴方たちも分かってたのね」
「ああ、時間を飛び越えるなんてことがあるのか、不思議な話でもあるけどな……」
「世界線を飛び越えてきた連中も居るんだけどね。その人らによれば、無条件に移動してくることは不可能」
「なるほどな。だから彼ら二人が世界だけを飛び越えて来ることは無いってことか」
「いやちょっと待って!? 本当に世界線を飛び越えた人が居るの!?」
さらっと言っていたから流してしまったが、ルイのセンサーはビンビンな様子。
本当にそんな人たちが居るのなら、会ってみたいものだ。
「待って。まだ待って。その話はまた追々する。ここに居る二人で、この時間にやって来たのは全員なのかしら?」
「ううん、まだ居るみたい」
「そう。じゃあまずは、彼らにその人たちを集めてもらいましょう。そうしたら会いに行きましょう。きっと彼らならどうにかしてくれる」
「彼らって、いったい誰?」
興味のある話をしっかりと聞けなかったルイは不満げに聞いていたが、次の瞬間、その表情が一変する。
「貴方の気になってる、別世界からの来訪者にね」
ルイの目は輝きに満ちていた。探求心と、冒険心に満ちた、幸せそうな顔だった。
それを見た自分も、きっと笑顔になっていただろう。




