試練(1)
かなり時間が空いてしまいました。
ですが、私のモットーはゆるゆると続けていくことなので文章を書くことが嫌にならない程度のペースで進めていきたいと思っております。
しかし、さすがにこれからはもう少し早いペースで投稿できるように頑張っていけたらな、とも思っております。
引き続き、コメント、感想等お待ちしております。
玲は体を起こし、辺りを見渡して、異変に気付く。
(……?ここ、施設の一室だよな?)
玲の眼前には、見渡す限りの草原が広がっていた。
(ていうか、なんで部屋の中に太陽があって、風も吹いてるんだ?)
頬を撫でるそよ風に吹かれながら立ち尽くしていると入り口が消えていることに気が付く。
(ドアが消えてる……?この施設は一体どうなっているんだ……?
まぁいい。そういえば、新人の教育に長けてる人がいるって言ってたな。
とりあえずその人を捜してみるか。)
玲は目の前に広がる草原に足を踏み入れる。
ところどころに花が咲き、野生と思われる動物も闊歩する草原をしばらく行くと、木々の生い茂る林の中に一軒の小屋を見つけた。
(小屋がある。誰かいるといいんだが……。)
玲は小屋に近づき、恐る恐る小屋の扉を叩く。
「すみませーん。誰かいますかー?」
……
返事はなく小屋の中からも人の気配はしない。
(……?誰もいないのか?)
玲は静かに扉を開け、小屋の中をのぞく。
(人が暮らしている形跡はあるな……)
小屋の中は、囲炉裏と畳からなる質素なつくりとなっていた。
(しばらくここで人が来るのを待とう。
こんな建物ドラマとかでしか見たことないな……
『教育に長けた方』ねぇ……いったいどんな人なんだろう……。
まぁ流石にあの二人よりは年上だろう。ひょっとしたら爺さんか婆さんなんじゃねぇか?)
考えを巡らせながら畳に近づき、腰を掛けようとしたその時、首筋に金属、刃物の冷たい感触がした。
「誰だ。」
年配の男性を想像していた玲の虚を突くように、高い、しかし気迫の感じられる脅し声が聞こえた。
玲は両手を挙げ、恐る恐る声を上げる。
「僕は暁月って人と月城って人に言われてここに来ました……早瀬玲と申します。」
「暁月、月城……つまり感情庁の新人か?」
「はい。」
玲がそう答えると、首筋を撫でてていた金属の感触はなくなった。
玲は恐る恐る振り返ると、深い緑の三つ編みを肩から垂らした少年が立っていた。
少年は刃物を持っている方とは逆の手で自分の顎を触り、怪奇なものでも眺めるかのように玲をねめまわした。
「ほぅ……お前、年は?」
「十七です。」
玲の返答が意外だったのか、少年は大きく目を見開く。
「十七ぁ?随分と遅咲きだなぁ。」
玲は自身が縛り付けられていた時のことを思い出し、答える。
「僕は後天性の人間らしくて……」
「後天性?あぁ、なるほど。お前が例の……」
「えぇと、新人の教育に長けてる方がいると聞いてここに来たんですけど、その方は今どこにいるんですか?」
玲は左右を見渡し、少年に尋ねる。
「おいおい、やめろよ。皆まで言うな。照れるじゃねぇか。」
「え……?」
ぽかんとした表情を浮かべ、玲は少年を見つめ返す。
「あぁ、自己紹介がまだだったな、俺の名前は三簾達良、感情庁のまぁ新人の教育係ってとこだな。」
(……こいつが?俺の教育係?俺の弟よりちょっと年上くらいの子供が?)
「暁月、月城……懐かしい名前だなぁ。あいつら、偉そうにしてるけどまだまだ若手なんだぜ?若いくせに頑張っちゃって偉いよなぁ。」
(一番若そうなのはあんただろ……)
「ええと、俺は一か月ここでイドの修行をしろって言われて来たんですけど、具体的にはどんなことをするんですか?」
「まぁ焦るなよ、とりあえず今日はもう遅いし飯にしよう。」
達良は何か言いたげなしたり顔でそう言って振り返り、小屋の外へ出る。
(この組織って変な奴しかいないのか……?)
そう思いながらも玲は達良の後を追い、小屋の外へ出る。
「早瀬、ここでのルールを教えてやる。これさえ守れば後は何をしてもかまわんぞ。」
小屋を後にしてしばらく歩いた後、達良が口を開く。
「毎日食材を自分で調達して、俺に飯を食わせること。
それと、毎日最低10時間は眠ること。
まずい飯作ったらキレちゃうからね。」
達良はそう言って振り返ると、玲に持っていた包丁を差し出す。
「……理解できません。これが本当に俺を一人前にする訓練なんですか?
俺は一か月以内にあの上司を納得させられるくらいに強くならなきゃいけないんだ。
もっと真面目な訓練をしてください。」
玲は差し出された包丁を受け取らずに、そう答える。
「俺はいたって真面目だが?」
「どういうことですか?この訓練の意図が分からない。ただ飯を作って寝るだけでどこが成長するっていうんですか!」
玲は声を張り上げる。
「自分で飯の材料を調達しろって言ってんだよ。
ここにはコンビニもスーパーもねぇんだぞ。
生きることの厳しさを知らない若者がよくも簡単そうに言ってくれるじゃねえか。」
ここは大自然のど真ん中を再現している。
自然で生きていくことができない人間が一人前を名乗る資格があると思うか?」
それと、睡眠は人間にとって不可欠な休息だ。休息のできない人間に人一倍の成果は見込めない。
休みの時間は活動の時間よりも成長を促進させるんだよ。」
「……」
達良の幼声の中の外見からは想像のできないほどの重い信念や責任を感じた玲は、差し出された包丁を受け取る。
「まぁつべこべ言わずに頑張ってくれや。じゃあ俺は先帰るぜ。」
そう言って達良は一瞬のうちに姿を消した。
「またこのパターンかよ……」
取り残された玲は包丁を持ちながら立ち尽くす。
「小屋、どっちだったっけ……」




