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感情論  作者: 笹崎幸


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決意

玲は夕に連れられて部屋の外に出る。


殺風景な薄暗い廊下にコツコツと夕の靴音が響く。


「この施設はイドを扱うことができるようになるための訓練場だと思っていい。お前には一人前の感性官として戦えるようになるまでこの施設で訓練をしてもらう。」

「期限は今から一か月だ。」


夕は歩きながら説明をする。


「訓練ってなにすんだよ。」


「まずは物理的な肉体の強度を高め、自分の能力に耐えうる体になってもらう。そして、自分の感情の流れや強度を制御できるように精神的なトレーニングもする。その後に自分の能力と向き合い、それを扱って実戦で戦えるようになるための修行もしてもらう。」


「能力の扱いに慣れるのが先じゃないのかよ。イドを制御できずに反感者になるやつが多いんだろ?というか、そもそも自分の能力すらまだわかんねーんだし。」


「確かにそうだ。だが、イドが危険だからこそ自分の肉体や精神を鍛え、それに耐えうる素養を身につけなければならない。さもないと……」


「さもないと?」


「お前は自分の能力によって肉体を蝕まれ、それこそ獣になるだろう。」


夕は諭すような口調で玲を制する。


「お前の能力は、そうだな……」


夕はかけていた眼鏡をずらし、深い黒目で玲をのぞき込む。


「まぁ、そのうちわかるようになるだろう」


夕は前に向き直り、すたすたと歩きだす。


(本当になんなんだこの女……)


玲も夕に続いて歩き出す。

しばらく行くと突き当りに扉が見えた。


「私たちはここまでだ。修業はこの中で行ってもらう。この中には新人の教育に長けた方がいらっしゃる。その方に修行をお願いしろ。」


「一か月後に成長の見込みがないと判断された場合、どうなるかわかるな?」


「……あぁ、わかった。」


玲はドアノブに手をかけ、力を入れる。


「あぁ、忘れてた。」


夕はわざとらしく思い出したようなそぶりをして、口を開く。


「先天的にイドを持つ子供がその能力を自覚し、制御できるようになるまで、3~5年かかると言われている。」


「……は?」


玲は間の抜けた声を上げ、振り返る。


夕と紫苑は、示し合わせたかのように目を合わせ、玲に近づく。


「問答は無用だ。このことがなにかお前に不都合なことでもあるのか?」


「いやいや‼おかしいだろ‼後天性の俺が先天性の奴が3年以上かかることを一か月でやらなきゃいけないんだよ‼」


「当然だろう。私たちだってイレギュラーのお前を3年も不安定なまま抱えておくわけにはいかない。それに、家族を救いたいんじゃないのか?」


「……っ‼」


「いいか、期限は何としても一か月だ。それ以内に私たちにお前の存在価値を見せつけられるように成長しろ。」


玲は深呼吸をし、覚悟を決める。


「……やってやるよ‼」


「そうか。なら行ってこい。」


玲は再び扉に向き直り、ドアノブをひねる。


「……?開かない……?」


振り返ろうとしたその時、


ドン……


玲は紫苑に強く突き飛ばされ、扉に激突すると思われたが、玲の体は扉をすり抜け、そのまま部屋に転がり込む。


一瞬何が起こったか理解できなかったが、すぐに起き直り、


「クソ上司め……」とつぶやく。



夕と紫苑は、玲を突き飛ばした後、来た道を戻っていた。


「期待してる?」


紫苑は夕に尋ねる。


「……さぁな。」


夕はにやりと笑みを浮かべる。


「珍しいね。」


紫苑がつぶやく。


「……そうかもな。」


夕は俯きながら答え、歩みを続ける。


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