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感情論  作者: 笹崎幸


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3/3

刹那のダイアド(3)

感じたこと、思ったことは自分の中にためておくのではなく、発露してこそその輝きを放つものであります。

(コメント、感想等お待ちしております。)

どれくらいの時間がたっただろうか。

一瞬しかたっていないような気もするが、何年もの時がたったような気もする。


(……?)


家の外から何やら話し声が聞こえる


(まぁ、もう全てどうでもいい……)

(ずっとこうして死ぬのを待とう……)

(⁈)


衣擦れの音がしたのと同時に、玲の意識は途切れ、深い眠りについた。






「―ぃ、―ぇい、(れい)!」


聞き慣れた声がする。

(さき)の声だ。


「咲?」


倒れている自分をのぞき込む咲に玲は抱き着こうとするが、(はかな)くもその願いは届かない。

玲の腕は咲の体をすり抜ける。


「咲!」


「……私たちは大丈夫。自分を信じて。」


いつになく大人びた笑みを浮かべる咲は玲の腕から離れ、まるで夢が覚めるように消えていく。


(咲と耀(よう)は生きているのか…?)


「咲!絶対に助けに行くから!絶対に俺がお前たちを助けるから!」


朧げになる意識の中で、玲は頬を涙が伝う感触を噛みしめ、決意する。


(あの怪物を、何としてでも殺し、咲と耀を取り返す……!)



(……?)

玲は(まぶた)を開け、いつもと違う光景が自分の目の前に広がっていることに気づく。

視界は塞がれ、何も見えなかった。


(どこだ?ここは…?)

(……⁉体が…動かないっ!)


玲は精一杯力を込めて身を(よじ)るが、びくともしない。

玲は自身が椅子に縛られているであろうことに気づく。


(体が縛られてる!……にしても硬すぎる!伸縮してる感じもしない!)。

(クソ!!ここはどこだ!早く母さんを殺し、咲と耀を連れ去ったあの怪物を殺して妹弟(きょうだい)を助けないといけないのに!)



「起きたか。」


見知らぬ女性の声がする。


「今のお前の状況を説明する。」


女は、さも当たり前かのように言い放つ。


「お前はこの世界でほんの一握りの者しか持たない力に目覚めた。」


「…は?」


動揺


「動揺するのも無理はない。ただ、お前も見ただろう。現実世界ではありえない現象を。」


「…‼」


玲は怪物が空間を切り裂き、その中に消えていったことを思い出す。


「そこでだ。」

女はより声のトーンを低くして続ける。


「今ここで私に殺されるか、生きて私の部下になるか選べ。」


(…は?)

(…何を言っているんだこの女は?)

(何も見えないし、体も動かない。……これは夢か?)


玲の思考が、これは夢であるとの結論を出そうとしたその時、


「これは夢ではない。」


女の低い声が玲の思考を遮った。


「まだ夢見心地というのであれば、夢から覚ませてやる。」


女は玲の顔に手を当て、続ける。


「お前は謎の力を使う怪物に母親を殺され、双子の妹と弟もどこかへ連れ去られた。」


玲の顔に触れたその手は、まるで玲の神経を逆撫でするかのように顎から頬へと伝った。

玲は動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。


「その怪物は、『イド』と呼ばれる力を使っている。」

「我々はその力を使い、悪事を働く者を『反感者(はんかんしゃ)』と呼び、それらと日々戦っている。」


女は淡々とした口調で続ける。


「イドは、感情をエネルギー源とするいわゆる超能力で、お前のように後天的にイドに目覚める者は珍しい。ただ、後天的に目覚めた者は、自身の感情の制御がつかず、まるで獣のようにイドを使うため、反感者となることが多い。だから、お前が反感者になる前に私に殺されるか、イドの使い方を学び、私の部下となって死ぬまで戦うか選べ、と言っている。」


「そんなこと、はいそうですかって信じられるわけないだろ!」


「そうか。」


そう言って、女は玲の目隠しを外す。

玲の眼前には、薄暗い部屋の中に、黒いスーツを着て、眼鏡をかけた長い黒髪の女性が立っていた。


紫苑(しおん)!入ってこい!」


女の呼びかけに応じて、刀を持った白髪の女が壁をすり抜けて部屋に入ってきた。


「…‼」


玲は今目の前で起こったことに、目をしばたたかせる。


「これを見て、今自分が置かれている状況が呑み込めないような馬鹿はこっちから願い下げだ。」


黒髪の女は、白髪の女から刀を受け取り、鞘から刀身を引き抜く。


「現実を受け入れて戦うか、現実から目を背けて私に殺されるか、選べ。」


黒髪の女は、刀の先端を玲のあごに突きつける。


「いいか?これは提案ではなく、命令だ。拒否権はない。」



「俺の妹も、弟も、その反感者とやらに連れ去られたんだな?」


玲は声を震わせて尋ねる。


「あぁ。」


女は答える。


「そうか。」


玲が続ける。


「だったらやってやるよ。そいつを殺して、妹弟を助けるためならなんだってしてやる。俺の感情が尽きるまで、思う存分戦ってやるよ…!」


玲は決意の眼差しで女を見上げる。


女はしばらく玲を見つめた後、口を開く。


「そうか。」


女は、手に持っていた刀で玲を縛っていたロープを切断した。


「私は国家機密部隊感情庁(かんじょうちょう)諜報課(ちょうほうか)長官、暁月夕(あかつきゆう)だ。こいつは副長官の月城紫苑(つきしろしおん)。」


「…早瀬玲(はやせれい)。」


玲は紫苑からの冷ややかな視線を感じながら、不貞腐れた表情で立ち上がり、自身の名を名乗る。


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