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感情論  作者: 笹崎幸


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刹那のダイアド(2)


感じたこと、思ったことは自分の中にためておくのではなく、発露してこそその輝きを放つものであります。

(コメント、感想等お待ちしております。)

 夜のバイトを終え、すっかり更けてしまった夜のコンビニで(さき)耀(よう)への詫びのスイーツを買い、自宅に着いた。これで機嫌が直るといいのだが、と思い、ドアノブに手をかける。


 掴んだドアノブがやけに冷たい。背筋をぞくぞくと悪寒が走る。心臓の鼓動が早くなり、吐き気がする。


(なんだ……? 働きすぎで体に限界が来たのか?)


 震える手でドアを開け、体にかかる重力が普段の何倍にもなった感覚に苛まれながら玄関に転がり込む。


(妙だ……何か嫌な予感がする……)


 静まり返った玄関一帯に(れい)の心臓の鼓動が響いているかと思うほど玲の鼓動は強く、そして早くなっていた。


(母さんも咲も耀もいる…。)


 玄関に並べられた靴のラインナップから、家族全員がいることを確認し、声を出す。


「母さーん?」


 返事はない。


(なんだ、もう寝てんのか?やけに早いな…。)

 

玲の左腕につけられている腕時計は午後十時を回っていた。

 靴を脱ぎ、壁を伝いながら水を飲むために台所へ向かう。



「‼」



 それを見た瞬間、この動悸も、悪寒も、嫌な予感も、この出来事を無意識に感じ取っていたのだろうと合点がいった。

 台所には、血だまりとともに腹部を(えぐ)られた母親が倒れていた。

「母さん‼」

 倒れている母親の首元に触れると、それはまるで先のドアノブのように冷たかった。



 



放心、動揺、不安、驚き、恐れ、嫌悪、拒絶、絶望、憎悪、悲憤





 頭の中に流れてくる感情が呆然としている自分を取り囲み、うなだれている自分を見下している。

 何も考えられない。五感が遠くなっていくのだけが分かる。



「ガタッ」

 



遠くなっていく聴覚の先で、玲は寝室のほうから物音がするのを感じ取った。


(咲、耀は?)


 玲は重い体を持ち上げ、遠い眼差しで音のしたほうへと向かう。

 寝室のドアを開けると、黒い光をまとった、人間というには少し人間離れしている異形の生命体が、黒く、尖った左腕でぐったりとした双子を抱えていた。

 右腕は、残酷なまでに赤々とした返り血で染まっていた。




 驚嘆、恐怖、激怒




 玲は全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、これまでに体感したことのないエネルギーが体の中にめぐるのを感じた。


「お、お前が……」

(母さんを…)


 言いかけると、その生命体はまるで空間を切り裂くように右腕をふるい、ゲートのようなものを開いた。


「待て‼」


 玲は、双子を抱えた異形を追いかけようと体を動かそうとしたが、


(動かないっ‼)

(クソっ‼クソっ‼)


 (よじ)る様に全身に力を入れるが、さっきまで自在に動いていたことが嘘であるかのように体は全く動かない。


 異形はその空間の中に入っていき、その空間が閉じるのと同時に、玲の体の束縛は解け、一寸前まで謎の空間が存在していた場所に向かって動き出した玲の体は勢いよく壁にぶつかった。

 

その痛みが、これは夢でも妄想でもないと笑っているようだった。


 言葉では言い表せないほどの負の感情が自身の頭と肩を押し付け、玲は立ち上がることさえできなくなる。



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