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最終章:アフターサービス

天界の第3支部、レジス主任のオフィス。


エアコンがカンペキな温度の風を吹き出し、最高級の高山茶のいい香りが空気にただよっている。


「それでは、佐藤さん」


デスクの横に立つルシアンは、今まさにカンペキな「優等生」モードだった。金髪を自然に下ろし、メタルフレームのメガネをかけ、アンケート用紙を手に持ち、スキのないおだやかなえがおを浮かべている。

「今回のナンバー007世界線の『異世界転生お試しプレイ』について、感想をお聞かせください。もしよろしければ、星5つのレビューをいただけると大変たすかります」


「レビュー」という言葉を聞いた瞬間、おとなしく土下座していた俺のブチギレメーターが「プツン」と切れた。


俺はバネのようにとびおき、ルシアンの鼻先を指さして怒鳴りまくった。

「ふざけんな!これのどこが異世界転生だ!お約束の無双はどこ行った!ハーレムはどこ行った!俺はずっとワナを踏んで、火で焼かれて、毒のトゲに刺されてただろ!唯一の無敵チートもたったの1分だぞ!最後は打ち上げでボーイのマネしてバイキング食ってただけだ!ぜんぜん転生を楽しんでない!クレームだ!こんなのサギだろ!」


俺がほえまくっていると、横から弱々しいけど、ハッキリとした声が聞こえた。


「わ、私もそう思います!」


ガタガタ震えていたリリアが、涙目になりながらも勇気を出して、小さく手をあげて文句を言った。

「先輩のガチャスキル、本当に変すぎますよ!佐藤さんはすごくがんばったのに、いつもお笑い芸人あつかいで……それに、私だって見習い女神なのに、半分の時間はただのバイブマッサージ機だったんですよ!理不尽すぎます!」


俺は感動してリリアを見た。死にそうなメチャクチャな旅をクリアして、このサビた鉄剣が俺のために、このヤバい上司に文句を言ってくれるなんて。


俺たち2人の激しいクレーム攻撃を受けて、ルシアンの顔からえがおが少しだけ消えた。


彼は静かに俺たちを見て、なんの感情もない声でポツリと言った。


「……わかりました」


そして、ルシアンはゆっくりと手を伸ばし、メガネを外してきれいに折りたたみ、胸のポケットに入れた。それから、両手を金髪につっこみ、前に下ろしていた髪を、思い切りうしろへかき上げた。


スキがひとつもない、殺気だらけの「リーゼント」が一瞬で完成した。


オフィスの温度が、一気にマイナスまで下がった気がした。光や音の魔法エフェクトはない。ルシアンがただそこに立っているだけで、天界のえらい神様としての「極道のヤバいオーラ」が、重い石のように俺たちにのしかかってきた。


それは上の者が下の者を見る、ヤクザのボスが虫ケラを見下ろすような、ぜったい的なプレッシャーだった。


俺の足から一瞬ですべての力が抜け、さっきまで文句を言っていたリリアといっしょに、またカンペキなポーズで大理石の床に土下座してしまった。


ルシアンは冷や汗ダラダラの俺を見下ろし、氷のように冷たい青い目で、低くてこわい声でゆっくりと口を開いた。


「佐藤さん。あなた、何かカン違いしていませんか?」


俺はビビッて息もできず、ただ首をブンブンと横に振るしかなかった。


ルシアンは鼻で笑い、ヤバいオーラをさらに強くした。

「あなたが魔王城であの無限の魔力をテキトーに使ったせいで、ほかの世界の魔法少女たちにどれだけヤバい魔力ロスをさせたか、わかっているんですか?無事に帰ってこられたうえに、特別に神様までたおさせてあげたというのに、よくここで『体験がよくない』なんて文句が言えますね?」


「ご、ごめんなさい!俺が悪かったです!大満足です!星5つです!」

俺は極限の恐怖で生き残る本能をマックスにし、狂ったように頭を床にこすりつけた。


「まあまあルシアン、我らがヒーローをあんまりイジメないであげなさい」


デスクのうしろでニコニコと高山茶を飲んでいたレジス主任がやっとコップを置き、パンパンと軽く手をたたいて、息が詰まるような殺気を散らしてくれた。


「佐藤さんが今回の『体験版』に満足していないなら、天界もちゃんとアフターサービスをしないとね」

レジス主任は引き出しを開け、プラチナのまぶしい光を放つ巨大なガチャ箱を出し、デスクのハシにコトッと置いた。

「これがおわびの『正式版・転生プラン』です。行き先はまったく新しい世界線、もちろん王道のファンタジー世界をほしょうします。そして、あなたの専属ナビゲーターは、もちろんリリアくんです」


(なんでまた私なんですか!もう剣になるのはイヤですよぉ!)

リリアがぜつぼうの悲鳴をあげる。


「誰がこんなクソガチャ引くかよ!」

俺は口ではそう文句を言いながらも、そのおいしそうな光を放つプラチナのガチャ箱を見ると、オタクのガチャ本能がうずき、右手が勝手に伸びてしまった。


「今度お前がまたサビた鉄剣になったら、ぜったいに川に投げすててやるからな!」俺は歯をくいしばってリリアに言いながら、ガチャのボタンを思い切りバンッとたたいた。


(あなたこそ、またライターとか引かないでよ!このクソ運オッサン!)


俺と女神がまったく成長せずに文句を言い合っていると、目をツブすようなまぶしい金色の光がまたオフィスを飲み込んだ。


「うわあああああああ――」


俺とリリアのなつかしい悲鳴といっしょに、俺たちはまたムリヤリ、よくわからない異世界へと蹴り飛ばされた。


……


……


光が消え、オフィスはもとの静けさに戻った。


ルシアンは消えたワープ魔法陣を見て、手を伸ばして髪をテキトーにバラバラと崩し、ガチガチのリーゼントからもとのおだやかなフロントヘアに戻した。メタルフレームのメガネをかけ直し、フゥーッと長いため息をつく。


「ハァ、これでやっと、5年前に残したやっかいごとを解決できましたね」ルシアンはデスクのお茶を手に取り、ホッとしたえがおを見せた。「彼をあっちに放り込んで大正解でした」


「ホホホ、おつかれさまルシアン。君はいつもこういうトラブルをカンペキに処理してくれるね。さすが第3支部のエースだ」レジス主任は笑いながら、ルシアンのコップに高山茶を注ぎ足した。


「ほめすぎですよ主任。冬のボーナスの査定にひびかないなら、これくらい大したことありません」ルシアンはメガネを押し上げ、またあのカンペキなエリートの顔に戻った。


天界のトップ2人がのんびりとティータイムを楽しんでいると。


「ジリリリリリリンッ――!」


デスクの上のレトロな電話が、とつぜんうるさい音で鳴りだした。


レジス主任はノンキに受話器をとった。「はいはい、こちら天界第3支部です」


電話の向こうから、鼓膜を破るような、大泣きしてブチギレているリリアの声が飛んできた。


(主任!いったいどういうことですか!王道ファンタジー世界って言ったじゃないですか!なんで今回、私、剣ですらなくてリンゴをむく『フルーツナイフ』なんですか!!!佐藤さんが今、私でリンゴの皮をむいてるんですよ!たすけてええぇ!!!)


レジス主任の顔のえがおが1秒だけピタッと止まり、すぐにまたあのおだやかな、やさしいおじいちゃんの顔に戻った。


「いやいやリリアくん、これも修行のひとつだよ。フルーツナイフは一家に一本、旅行にもベンリな最高のツールじゃないか。しっかり佐藤さんをサポートしてあげなさい」


(ベンリなわけないでしょ!このハゲーー……ツーツーツー……)


レジス主任はまようことなく電話をガチャンと切り、ついでに電話のケーブルをスポッと抜いた。


彼は顔を向け、同じようにニコニコしているルシアンを見た。2人はピッタリのタイミングでお茶のコップをあげた。


「今日のお茶は、本当においしいね」

「ええ、主任。後味の甘みが最高ですね」

読まなくてもまったく問題ない裏設定


レジス主任がくれたプラチナガチャと送られた世界線は、ホントに本物のチートスキルと王道ファンタジー世界だった。

リリアは最初こそフルーツナイフだったが、冒険を進めるうちに「人間の姿」と「ナイフ」を自由にチェンジできるようになった。さらに、前の「体験版」をクリアした実績で、彼女は正式な乙級転生女神に昇格し、使える権限もすごく大きくなっていたのだ。


おっさんとナイフのコンビは、この世界でようやくちゃんとした大冒険の旅をやりとげた。色々な冒険をとおして、リリアのコミュ障もだいたい治った。

最後、佐藤は心から満足して、しあわせに寿命をむかえた。

彼を見送ったあと、ひとりで天界に帰ってきたリリアは、顔をぐしゃぐしゃにしてボロボロと大泣きしたのだった。

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