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第十七章:オリジナル魔王の逆襲

山をひとつ消しとばすほどのヤバい破壊ビームが、オリジナル魔王のキバだらけのデカい口の中で狂ったように集まっていた。まわりの空気はものすごい熱でゆがみ、魔王城のすべてがその純粋な悪意の前にガタガタと震えている。


そして俺の目の前、空中に浮かぶ「願いが叶いますように」の電子カードは、もうすけて見えなくなる寸前だった。


「ピーーッ」


最後の弱いシステム音が鳴ると同時に、現実をねじまげるほどの俺の巨大な魔力は、波が引くように一瞬で消えさった。


「終わった!魔力がゼロになる!」


撃たれる寸前のビームを見て、俺の頭は真っ白になり、消えかけのカードに向かって心の中で最後のみじめな願いをさけんだ。


「早くあのチート勇者たちを起こしてくれ!頼む!」


「パリンッ」


電子カードは完全にバラバラの光の粒になって、空気の中に消えた。


ほぼ同時に、俺が着ていたピカピカで12個の光の輪っかがついていた【超越者の神鎧】も、割れた幻のように一瞬ではがれ落ちた。冷たい風が吹き、俺はまた、オークの町で買った軽い革のヨロイとマントの感触を肌に感じた。


「カランッ!」


俺の手にあった長さ2メートルの、星空みたいに光っていた【創世の聖剣】も、見るまに暗くなっていった。ゴージャスな持ち手はもとの地味な鉄に戻り、ぜったいに折れない刃はまたオレンジ色の赤サビだらけになった。腰にあるあの高かったやわらかいレザーのサヤだけが、せめてもの救いだった。


(うわあああああっ!!!)


リリアが俺の脳内で、この世の終わりのような悲鳴を爆発させた。

(私の星の光が!私の女神のコアが!私の最高にカッコいい剣の姿が!伝説の神アイテムになってからまだ2分もたってないのに、なんでまた破傷風になりそうなガラクタに戻っちゃうんですかぁ!)


「生きてるだけでもマシだろ!見た目なんて気にしてる場合か、早く隠れるぞ!」


俺はまだブーブー文句を言って震えるサビた鉄剣を腰につっこみ、転がるようにして部屋のハシにある折れた黒曜石の大きな柱のうしろへ走った。


俺が柱のうしろの影に飛びこんだその時、部屋のど真ん中からまぶしい聖なる光が爆発した。


電子カードの最後のキセキのおかげで、倒れていた勇者ライアンとチートチームが、バッと目を覚ましたのだ。


彼らのそうびはボロボロになり、あふれていた魔力も半分くらいしか回復していなかった。もう前みたいな「魔王城ピクニック」のノンキな空気はゼロだったが、ライアンの目の光はあいかわらずものすごく鋭かった。


「グルルルッ!死ね!天界のイヌどもめ!」

オリジナル魔王がほえ、口の中の破壊ビームが太い黒い光の柱になって、立ち上がったばかりのライアンにおそいかかった。


「みんな、バトル準備だ!」


ライアンはさっきのメガネの金髪魔王がどこへ行ったのか考えるヒマもなく、俺がなんでまた貧乏くさいオッサンに戻ったのかを気にする余裕もなかった。彼は聖剣を抜き、まようことなくチーム全員の一番前に立って盾になった。


「何が起きたか知らんが、魔王は魔王だ!絶対ガード!」

2人のドワーフが怒鳴り、ボロボロのタワーシールドをかかげ、ライアンの聖剣といっしょにその世界をほろぼすビームを受け止めた。


「ドゴォォォォン!!!」


ものすごい爆発がヤバいあらしを巻き起こし、柱のうしろに隠れていた俺は吹き飛ばされそうになった。


煙が晴れると、これぞ王道RPGという熱いバトルが、いよいよスタートした。


今回ばかりは、勇者チームにも一方的にボコボコにする余裕はなかった。オリジナル魔王は純粋な悪意とルシアンのヤバいエネルギーの残りがまざったバケモノだ。そのすべての一撃が、命をうばうほどのピンチだった。


「回復バリア、マックスパワー!ライアン・リーダーのHPを減らさないで!」

4人のプリーストは顔を真っ白にして、体の中に残った魔力をしぼり出した。


「絶対零度フリーズ!メテオストライク!」

2人のエルフの大賢者も上品なポーズをすててツエを振りまわし、いろんな最高魔法をあらしのように魔王のデカい体にぶちこんだ。


ライアンは金色の流星になり、魔王が振りまわす無数の触手とツメの間をすり抜け、聖剣がぶつかるたびに耳が痛くなるような爆発音がひびいた。


俺は柱のうしろに隠れ、頭を半分だけ出して、部屋の真ん中で空間が壊れるほどのすごいバトルを見ながら、「ぼっち」という悲しさをココロの底から感じていた。


「これこそがフツウの異世界バトルだよな……俺、さっきまでこのサビた鉄剣であんなバケモノと斬り合ってたのか?」俺はつばを飲み込み、下を向いて腰のリリアを見た。


(佐藤さん、私たちどうしましょう?ここで彼らのバトルが終わるのを待つんですか?)

リリアの声には、神アイテムの姿をなくしたショックがまだ少し残っていた。


「ダメに決まってるだろ!もし勇者たちが負けたら、俺たちもいっしょに死ぬんだぞ!」


俺は歯をくいしばり、システムウィンドウを出した。そこに残っている、唯一攻撃できるスキルは、あのクソダサい――【百発百中のクシャミ】だけだった。


「決めたぞ、俺は物かげに隠れたスナイパーになって、一番いいタイミングで魔王にイヤガラセの一撃を入れてやる!」

俺はマジメな顔で宣言し、柱のうしろで「スナイプの準備」を始めた。


俺はまず指で鼻の頭を強くこすり、それから床にはいつくばって、何千年もそうじされていない黒曜石のホコリに鼻を近づけ、思い切り息を吸い込んだ。


(……佐藤さん)

リリアがドン引きしてつっこむ。

(今、床にはいつくばってホコリを吸ってるあなたの姿、外にいる触手だらけの魔王より百倍キモいですよ。このシーンが詩人によって歌にされたら、あなたのイメージは完全に終わりますね)


「だまれ!俺は今、弾丸をチャージしてるんだ!ハック……ダメだ、まだパンチが足りない!」

俺はむごいことに、自分で自分の鼻毛を2本ブチッと抜いた。一瞬で涙が吹き出し、ガマンできないほどの強烈なムズムズが脳天を突き抜けた!


「キタキタキタ!」

俺は鼻をおさえながら、顔を出してバトルを見た。


部屋の真ん中のバトルはもうクライマックスだった。オリジナル魔王もキズだらけだが、勇者チームも限界ギリギリだった。ドワーフの盾は完全に砕け、エルフの魔力はもうゼロ、ライアンにいたっては片ヒザをつき、聖剣をツエにしてハァハァと苦しそうに息をしていた。


「終わりだ、勇者!この世界といっしょに消えろ!」

魔王は狂ったように笑い、胸から巨大な口が開き、終わりのオーラを持つダークパープルのエネルギー玉がヤバい勢いでふくらみ始めた。もしこの玉が爆発すれば、この部屋にいる全員がチリになってしまう。


ライアンは歯をくいしばり、両手でもう一度聖剣を強くにぎり、最後の命のパワーを聖なる光に変えて、命がけの一撃をやろうとした。


「今だ!」


俺は柱のうしろからバッと立ち上がり、魔王の胸のデカい口にむけて、限界までチャージした生理現象を一気に爆発させた。


「ハックショォォォォン!!!!」


俺のウラミがたっぷりつまった、音の2倍のスピードのツバ水弾が、空中に白い雲のラインを描いた。それはバトル中のヤバい魔法のあらしを完全にムシして、ありえないほどのバカバカしさとよけられないスピードで、カンペキに広間を突き抜けた。


そして。


「ベチャッ」


ものすごく小さくて、でもやけにハッキリとした音が響いた。


そのマッハ2のクシャミ水弾は、オリジナル魔王の顔面にクリーンヒットしたのだ。


この「スナイプ」は魔王のHPをたった「1」しか減らさなかったが、そのマッハ2のショックと、言葉にできないほどの「ねっとりした気持ち悪い湿り気」が、魔王の動きに致命的なストップをかけた。


「おえっ?な、なんだこのネチャネチャしたものは!?」

魔王のデカい体がビクッと震え、思わずまばたきをした瞬間、胸の「終わりの玉」は魔力が途切れたせいで、無害な紫の煙になってフワッと散ってしまった。


この急すぎるキモいハプニングに、部屋の全員が0.5秒フリーズした。


うしろにいたエルフの大賢者2人が一番早く気がつき、魔王の顔のあやしい水てきを見て、ドン引きした顔を作った。


「ヒィッ……キモい」

1人のエルフがきれいな眉をひそめ、イヤそうに鼻をおさえた。「今の、生物兵器かなにか?誰が魔王にツバを吐いたの?不衛生すぎない?」


「ぜんぜんエレガントじゃないわ。あんなバイ菌だらけの攻撃、魔王の触手より吐き気がする」

もう1人のエルフも文句を言った。


(ほら見なさい、エルフにもキタナイって言われてますよ)

リリアが俺の脳内で冷たく笑う。


「大技をキャンセルできたんだからファインプレーだろ!」

俺は恥ずかしくなって柱のうしろに縮こまった。


この技は魔王のパニックとエルフのドン引きしか生まなかったが、勇者ライアンにとって、この0.5秒のスキは、それで十分だった。


「さっきのキモい水玉がどこから来たかは知らんが、よくやった!名もなきサポートよ!」


ライアンはこの最高のチャンスを逃さなかった。彼はほえ声をあげ、体の中に残ったすべての聖なる魔力を、1ミリも残さず聖剣に流し込んだ。


「これこそが本当の――超・聖光魔王スラッシュ!!!」


純粋で、まぶしくて、魔王城すべてを突き抜ける巨大な金色の剣の光が、ものすごい勢いで、まだ顔のツバを嫌がっているオリジナル魔王に正面から直撃した。


「ギヤアアアッ――!!!」


耳が痛くなるほどの爆発音の中で、オリジナル魔王は最後の悲鳴をあげた。そのデカい体は聖なる光に浄化されて粉々に砕け、最後は空いっぱいの黒い灰になって、空気の中に完全に消え去った。


バトルは、ついに終わった。


力を出し切ったライアンはドサッと床に倒れ、エルフの大賢者やプリーストたちもつかれきって赤いじゅうたんにへたり込んだ。広い部屋には、みんなの苦しそうな息の音だけが残った。


俺は折れた柱のうしろに隠れ、クシャミで赤くなった鼻をこすりながら、下を向いて腰のサビた鉄剣を見た。


俺と剣が一匹ずつ、この静けさの中で、同時に心の中で、助かったぁという長いため息をついた。

読まなくてもまったく問題ない裏設定




もし勇者チームがHPもMPも満タンの状態で、ルシアンのエネルギーを吸っていないフツウのオリジナル魔王と正面からバトルしていた場合。


勇者チームは、あくびをしながらよゆうで勝てたはずだ。(だいたい、前の魔竜王を10匹いっぺんにあいてにするのと同じくらいの楽勝レベルである)。




しかし今回は、勇者チームのパワーが半分しかなく、逆に魔王はルシアンのパワーで超強化されていた。


もし佐藤のあのキモいクシャミがなかったら、結末はどうなっていたか?




その場合のエンディングは、ライアンが自分の命を燃やして魔王をたおし、チートの【絶対復活】スキルを1回消費して生き返る、という熱くてシリアスなラストになっていたはずである。


つまり、佐藤のあの汚い水弾は、結果的に勇者の残機を1つセーブしてあげたという、とんでもないファインプレーだったのだ。エルフにはドン引きされたが、ライアンは彼に心から感謝すべきである

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