表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/28

第十六章:願いが叶うスパムカード

あの純粋なはめつのパワーを持つ黒い光の玉が、真っ直ぐに俺へと迫ってくる。


玉の表面から伝わってくる、魂を引き裂くようなヤバい引力をすでに肌で感じる。


「第5スキル発動!!!」


俺はギュッと目をつむり、最後の力をふりしぼって、のどがちぎれるほどの声でさけんだ。


ターボライターもハイタッチも、絶対的なパワーの前ではただのギャグだ。どうせ死ぬなら、ルシアンが最高ランクのガチャに仕込んだあのお正月の電子カードを投げつけて、この理不尽な異世界に最後の文句を言ってやる!


「ジャンジャジャーン!」


とつぜん、ものすごく空気が読めない、おめでたさMAXで鼓膜が破れるほどの大音量のお正月BGMが、静まり返った魔王の部屋に爆音で鳴りひびいた。


続いて、空中に「パンッパパンッ」という安っぽいデジタル爆竹の音とともに、七色のネオンみたいに光る巨大な半透明のウィンドウが飛び出した。ウィンドウの背景は真っ赤で、そこにはなぜか絵のタッチがキモい招き猫が2匹描かれている。


ウィンドウのど真ん中には、金ピカで巨大な立体文字がこう書かれていた。


『謹賀新年!あなたの願いが叶いますように!』

(下の方には極小のフォントで「ルシアンより贈る」と書かれている)


このバカバカしすぎる画面を見て、俺の頭には理性を焼き尽くすほどの強烈な思いがひとつだけ浮かんだ。


「やめてくれ!止まれ!俺は死にたくない!!!」


「ポンッ」


ものすごく小さな、シャボン玉が割れるような音がした。


俺はブルブル震えながら数秒待ったが、来るはずの破滅と激痛は来なかった。俺は少し勇気を出して、こっそりと片目を開けた。


目の前のけしきに、俺は息をのんだ。


分身ルシアンの指先にあった黒い光の玉が、消えていた。いや、消えただけじゃない。まわりの魔力の波ごと、完全に消しゴムで消されたように無くなっていたのだ。


そしてルシアン本人は、振り下ろそうとした腕が見えないコンクリートで固められたように、空中でピタッと止まっていた。あのいつもカンペキなえがおのエリート顔に、初めて「マジで驚いた」表情が浮かんでいた。


「……私の魔力出力が、世界そのものより上の絶対ルールに強制上書きされた?」ルシアンはメガネを直す手も空中で止めたまま、青い目にハテナを浮かべている。


俺は空中でまだ七色に光っている文字をポカンと見た。「願いが叶いますように」。


願いが叶う?

待てよ。これはただのお正月のあいさつじゃない。

文字通りの……心で願ったことが、現実のルールを曲げて本当に叶ってしまう「究極の願いごとチート」!?


俺はバッと首を向け、少しはなれたところで血まみれで倒れている勇者ライアンを見た。ものすごくズルくて、ヨクボウまみれのアイデアが俺の頭の中でふくらんでいく。


「願いが叶うなら……俺はあの金髪勇者よりも強くなりたい!あいつの無敵そうびの超進化バージョンが欲しい!あいつの全チートスキルの最上位バージョンをよこせ!!!」


「ドゴォォォン!!!」


言葉が終わった瞬間、太陽の百倍はまぶしい神聖な光の柱が、魔王城の天井をぶち破り、俺の体を包み込んだ。


俺が着ていた初期そうびは一瞬で灰になった。その代わりに、ライアンの「神聖ミスリルアーマー」の十倍は派手で、プラチナの光を放ち、背中に12個の神聖な光の輪っかが浮いている【超越者の神鎧】を身にまとっていた!


俺の目には、システムメッセージが滝のようにものすごい勢いで流れてくる。

【願いを受理中……】

【パッシブスキル獲得:全ステータス次元突破(レベル制限をムシし、数字は常に敵の一番強いやつの十倍で固定される)】

【パッシブスキル獲得:デスペナルティなし無限復活(残機:無限)】

【アクティブスキル獲得:全属性マスター(この世の全魔法と剣術が自動でレベルMAXになり、呪文なしで一瞬で撃てる)】


穴の中で倒れていたライアンが、ムリヤリ片目を開けた。自分がじまんしていた専用スキルが、この「貧乏くさいオッサン」にカンペキにパクられただけでなく、ゲームバランスを完全に壊す究極の魔改造チートになっているのを見て、彼は怒りでブルブルと震えた。


「それは……俺の専用設定……このパクリ野郎……」


ライアンは再び大量の血を吐き、白目をむいて完全に気絶した。


(佐藤さん!自分だけ気持ちよくならないでください!)


腰にぶらさがっていたサビた鉄剣リリアがやっとパニックから復活し、神そうびの俺を見て、大興奮で脳内にさけんだ。

(早く!願いが叶う効果がまだあるうちに、私も神レベルの聖剣にしてください!もううるさい音を出すだけのバイブマッサージ機はイヤです!)


「まかせろ!リリア、女神の本当の姿を見せてやれ!」


俺は剣を抜いた。リリアの剣の刃から一瞬で星空のようなキラキラした光が爆発した。サビた鉄の刃がパラパラとはがれ落ち、長さ2メートル、剣の中に宇宙の星の光がつめこまれ、持ち手に女神のコアがはめ込まれた【創世の聖剣・真理のリリア】が、俺の手ににぎられていた!


「なるほど、ベースのプログラムを直接書きかえるヤバいバグですか」


分身ルシアンは自分のものすごいパワーで、やっとストップ状態から抜け出した。彼はメガネを押し上げ、歩くチートみたいになった俺を見て、それでもおだやかでていねいな声で言った。

「いやあ、本体がテキトーにつけた電子カードが、とんでもない効果を発揮しましたね。でも、許可のないデータ書きかえはシステム崩壊をまねきますよ」


「崩壊でもなんでもしろ!今は、俺のターンだ!」


俺は創世の聖剣を両手で強くにぎり、呪文のとなえ方なんてぜんぜん知らないが、心の中で「一番カッコよくて、一番強い魔法」と念じた。


「ブォン!」


俺が軽く剣を振ると、ライアンが撃ったやつの何倍も太い「超・聖光魔王スラッシュ」が10発も、世界をほろぼすようなパワーで扇の形に広がり、ルシアンにむかって連続で飛んでいく!適当にドンッと足ぶみしただけで、空間すら燃かす「究極の地獄の神火」が床から吹き出した!


これはもうメチャクチャな魔法バトル、いや、ただの一方的なチート攻撃だ。


(アハハハハ!斬れ斬れー!天界でいっつも私にファイル整理ばっかりさせたうらみ!くらえ星くずの裁き!)リリアが俺の手の中で狂ったように震える。でも今回はマッサージ機の震えじゃなく、空間を切り裂く神聖なパワーの震えだ。


分身ルシアンは強いが、「願いが叶う」という理不尽なルールの前では、彼がじまんするガード魔法もただの紙切れだった。


しかし彼はボコボコにされながらも、カンペキなエリートのポーズをたもっていた。聖剣のオーラが肩をかすめた時でさえ、「この剣のパワーはすごいですね、でも角度が3度ズレてますよ、動きも少しモタついてます」とていねいにレビューしてくる。


「うるさい!消えろ!」


俺はパクった神レベルの全スキルをリリアにまとめ、天地を切りさく巨大な光にして、ルシアンに正面からぶち当てた!


「ドゴォォォォォン!!!」


まぶしい白い光が、王座の部屋全体を飲み込んだ。


光が消えると、分身ルシアンの体はすでに無数の金色の光の粒になって消えかけていた。彼には怒りもくやしさもなく、むしろ満足そうにネクタイを直し、俺に向かってカンペキなえがおを見せた。


「すばらしいパフォーマンスでした。どうやらこの世界のKPIはノルマ達成以上のようですね」

ルシアンの分身はゆっくりと消えながら、最後まで上品な声だった。

「それでは、私はこれで退勤させていただきます。よい旅を」


そう言って、彼は完全に空気の中に消えた。


勝った!俺は魔王(分身だけど)をたおしたぞ!


俺は大興奮でメチャクチャかっこいい勝利のポーズを決め、勇者チームが目を覚ましたあとに俺をあがめるのを待とうとした。


しかし、その瞬間。


「ピ……ピ……ピ……」


空中で七色のネオンみたいに光っていた「新年カード」のウィンドウが、とつぜん激しく点滅しはじめ、スマホの充電切れみたいな警告音を鳴らした。「願いが叶いますように」の文字のフチがぼやけて、うすくなっていく。


俺の心に急にイヤな予感が走った。体にあふれていたものすごい魔力が、ヤバいスピードで抜けていくのを感じる。もともと少なかった俺の魔力タンクは、さっきの「究極魔法」のムダづかいで、すでに空っぽになっていたのだ!


カードの絵が半透明になっていくのと同時に、ルシアンが消えた場所でヤバい変化が起きた!


ルシアンの分身が消えた後、その強い金色のエネルギーは空に消えず、何か古くて邪悪なパワーにムリヤリ引っぱられ、部屋のど真ん中に狂ったように集まっていったのだ!


「グルルルオオオオオオッ――!!!」


はてしないウラミと怒り、そして純粋な悪意のさけび声が、エネルギーのうずの中から爆発した。


黒いモヤが空に吹き上がり、無数の気持ち悪い触手とヤギの角を持つ巨大で恐ろしいバケモノの影が、空中で一気にホンモノの体になっていく。


(な、なんですかあれ!?)リリアの声が一瞬で恐怖に染まる。


「ご、5年だ……俺はついに……ふっかつしたぞ……!!!」


その恐ろしいバケモノは耳をつんざくようなほえ声をあげ、狂った殺気だけで魔王城の石の柱を粉々に砕いた。


俺は一瞬で理解した。こいつ……5年前にルシアン本体が「うっかり」蒸発させた、本物のオリジナル魔王だ!なんとルシアン分身が残した巨大なエネルギーを吸い取って、ここでそのまま生き返りやがった!


目の前のオリジナル魔王には、ルシアンみたいな底の知れないエリートのプレッシャーはないが、純粋に世界をほろぼすような狂ったオーラが、もっと息を詰まらせる。


「天界の神々め……そして憎き勇者め……お前たちをぜんぶ引き裂いてやる!!!」生き返った魔王は目を赤くして、俺をギロリとねらみつけた。


俺はゴクリとつばを飲み込み、本能でもう一度、手の中の【創世の聖剣】をかかげようとした。


「ピーーッ」


空中の電子カードが最後の弱い警告音を鳴らし、絵がほとんど見えなくなった。


俺が着ていたピカピカの【超越者の神鎧】が、チカチカと2回点滅した。


そして目の前では、ブチギレたオリジナル魔王が血まみれの大口を開け、山をひとつ消しとばすほどの破滅のビームが、その口の中で狂ったように集まり始めていた。

読まなくても全く問題ない裏設定


もしこの第5のガチャを佐藤ではなく、神の魔力を持つリリア(剣)が開けていたら。彼女なら「願いが叶う」チート状態を、なんと最低でも1週間はキープできたはずだった。


しかし、佐藤がこのバトルでチートを使えた時間は、わずか「1分20秒」。

(ちなみに、もし彼が10時間ぐっすり眠って、お腹いっぱいご飯を食べてから挑んでいたとしても、せいぜい「1分30秒」が限界だった。万全のコンディションでもたった10秒しか伸びないという、悲しすぎる燃費の悪さである)


5年前、ルシアン本体に消されたオリジナル魔王は、本当にチリひとつ残らないほどカンペキに消滅していた。

今回彼が生き返ることができたのは、王座の部屋にこっそり隠していた10年に1度の魂のバックアップと、ルシアンの分身が散らしたエネルギーの欠片を吸い取ったおかげである。


しかも、ルシアンのエネルギーの欠片に残っていたキオクのせいで、生き返ったオリジナル魔王の頭の中は「5年前に理不尽に消された瞬間のブチギレ状態」で完全にストップしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ