97 そろそろやばくなってきた?
「魔界の存在を確認したならば……教会にも報告しなければいけません」
マリーさんが呟きました。
魔界の影。
長い旅を続けてきて、ついにその片鱗をみせた魔界の存在に、わがメンバーはにわかにざわつきました。
わたしたちが旅を始めた理由は、もちろん魔王を討伐するため。
そしてそのきっかけは、ここ最近大陸中で、魔物の跋扈が始まり魔界がこの世界に、再び浸透しようとしているのではないかとささやかれたのがきっかけです。
でも、あくまでも推測でした。誰かがはっきりと魔界からの侵略を確認したわけではありません。
ある意味、今回マリーさんは、その存在をはっきり確認した発見者なのです。
「やっぱり俺たちは魔王と戦うことになるんだ、やってやろうぜ」
突然勇者様ががたっと立ち上がり、握り拳を作ってわたしたちを見回しました。
まだ見ぬ最終目標が思いもかけず、身近に迫ったことに勇者様がはやりたっています。
こ、これは。俺たちは仲間だアピール。
みなさんを見回すと……。
「わたしたちの想いさえあれば負けません。神様、わたしたちに力を……」
勇者様の檄に、感銘して信仰をより強めるマリーさん。
「きっと凄い敵なんだろうねえ」
強敵に相まみえることこそ、本望、と腕を鳴らす戦士ルビーさん。
「きっとまだ見ぬ魔術が存在するはず……」
眼鏡(伊達めがね)をずりあげるシルヴァさん。
伝説の魔法、古文書にしか存在しなかった魔術がみられるかもしれないと、学究心を高めています。
流石、臆することのない皆さん勇者一行の名にふさわしい。
「なあ、エレーナもそう思うだろう?」
勇者様にポンポン肩を組まれて叩かれました。
「え? あ、はい……まあ、そうですね」
しかし、わたしは、一人思ってしまいました。
そんなやべー奴がこの先うろちょろしてるんなら、そろそろわたし、離脱した方がよくない?
この異世界に転生してはや10数年。
走馬燈のようにどうでもいい記憶がよみがえってきました。
前世の平凡なサラリーマンの日々。
剣と魔法が存在するこの世界に転生したことで、ひょっとして特別な力を持っているかもしれないと期待し、チート能力を探すために、ステータス画像を出そうとしたり、召還や呪文を自作したり痛いことを繰り返した日々。
そして、悪魔つき少女だの嘘つき女だのと、称号を貰い封印した数々の黒歴史。
どうやらこちらの世界でも何の能力も授からず、王侯貴族のような恵まれた立場でもない孤児院暮らしの身分。
流石に、こっちの世界でも平凡人なのだと悟るに至りました。
潰しのききそうな職を選んだら、何故か辺境の勇者一行に加えられるという不可思議に見舞われましたが、明らかにこれがゲームなら途中でリストラされる職業です。
そんなわたしが魔界とやらと対峙できるわけがありません。
わたしもそのまま最後まで行きそうな雰囲気が出ていますけど……。
うーん、そしたらわたしはそろそろ抜けるタイミングでは?




