96 魔界の影
「おはようございます……」
欠伸をしながら、ベッドから起きてみなさんに挨拶です。
今日も宿で相部屋。
「おうおはよう、エレーナ」
早速勇者様が声をかけてくださいました。
農家時代からの習慣か、常に早寝早起きの勇者様は、ふがいないわたしたちメンバーよりも先に目が覚めて既に居住まいを改めています。
朝の鍛錬でも終えたような健やかな口調です。
夜更かしのシルヴァさんはまだベッドですやすや。
魔術書を枕にして爆睡中です。
「いてててて……もう朝か……」
寝酒で深酒したルビーさんは頭抱えて、起きあがりました。
プライバシーなんてありません。
まあ、孤児院時代からそうでしたからね。
小さな部屋にベッドでぎゅうぎゅう詰め。
もう慣れっこです。
そしていつものメンバーで唯一ここにいないマリーさんは……別の部屋で、例の騎士さんの傍らで椅子に座って徹夜で看病中。
流石聖職者。奉仕に生きる職です。
わたしにはできません。
何か容態が急変したら、すぐに手当したいと申し出て、つきっきりで見守っていたのです。
昨日、老騎士さんを保護したわたしたちは、それから馬車に載せて小さな村の小さな宿にたどり着いたのです。
それから一晩たって夜があけたところです。
確かにあの老騎士さんは、一度目を覚ましました。
「おい、おっさん……大丈夫か?」
ゆっくりと血と泥にまみれた片方の腕をあげました。
「き、貴公らは……」
その手を勇者様が、しっかりと握りしめました。
「俺たちは旅の勇者一行だよ。魔王討伐のな」
「ゆ、勇者……?」
「森の中で倒れてたんだよ。でももう大丈夫だ」
しっかり励まします。
虚ろな目でわたしたちを見回しました。
どうやら安全な場所で保護されたということを理解したようです。
しかし、それに安心したのか、緊張が緩んだのか。
「おいっ」
勇者様が慌てて叫びます。
老騎士さん、また昏倒してしまいました。
このまま永遠の眠りにつく……なんてこともありそう。
「早く治療できる場所に運びましょう」
いそいそ出発の支度をして騎士さんは馬車に載せて勇者様とマリーさんが次の村の集落まで運ぶことになりまさいた。
そして後から残されたわたしとルビーさん、シルヴァさんは歩きで後を追うことに。
ついには日も落ちてしまいました。
戦士ルビーさんと魔法使いシルヴァさんがついていますので夜道に不安はありませんでしたが、夜通しで歩いて、ようやく夜も更けた頃に村に到着。
そのまま先に到着していた勇者様と宿で合流したのです。
そして歩き疲れたわたしたちはベッドで爆睡。
既に先に到着した勇者様は傷ついた老騎士さんを宿で寝かせ、村の人に頼んで薬草なども買い求めたそうです。
それが功を奏したのか、老騎士さんは快方に向かっているとか。
「まだ休んでいいぞ」
雰囲気的にもう一泊しそうですね。
しばらくして、わたしたちの部屋のドアがぎいっと開き手当をしていたマリーさんが老騎士さんの部屋から出てきました。
「老騎士様が、わたしたちの勇者様に、お礼を申し上げたいと……」
どうやらさきほど無事に目を覚ましたようです。
「そうでしたか! よかったですねえ。一体何があったのか……何にせよお疲れさまでした」
瀕死の騎士さんの無事とそしてマリーさんの労をねぎらうシルヴァさん。
「どうしたんだい、マリーちゃん」
何か浮かない顔をしているマリーさんにルビーさんが気づきました。
「それが……治療をしている最中に妙な気配を感じたのです」
「妙?」
曰く、魔の瘴気を感じた……と。
それを取り払うのに苦労した……とあります。
そしていつになくマリーさんの顔が曇っています。
「あの黒い気配、今まで感じたこともないぐらいにおぞましかった……」
マリーさんの震える言葉にシルヴァさんが、ガタっと立ち上がりました。
「まさか、煉獄」
シルヴァさんが震えるようにつぶやき、マリーさんは頷きました。
「なんだ、それは」
魔法、法術に縁のない勇者様、ルビーさん、わたしは驚愕している二人にきょとんとしたまま。
「わたしが魔法学校で学んだことです……魔界の煉獄魔術。魔界でも最上級に位置するものの繰り出す剣も魔法は、あらゆる生命を奪い、ほんの少し障気が掠めただけで、そのような禍々しい傷跡を残す……と聞いたことがあります、です」
そう語るシルヴァさんは少し震えています。
魔界の魔王やそれに並ぶ最高レベルの敵が繰り出す死に至る恐ろしい魔術。
魔界に攻め入ったいにしえの勇者が苦しめられたという。
それをなぜ、この人間の住む世界で、その痕跡を目の当たりにしているのか。
「もしそんな相手なら、この世界のどんな魔術や剣術の使い手も、ひとたまりもないはず。……まともに戦ったら到底助からない」
相手は魔界からきたとんでもない奴で、老騎士さんはそんな奴を相手に戦ったと。
魔法系のお二人が頭を抱えてしまいました。
あまりにも強大すぎる存在の影が見え隠れしているとともに、いったい何故そんなことが起きているのか、が理解できない。
ラスボス間近の敵がいきなりまだ中盤にも差し掛かっていないのに、出現した




