80 湖の国の姫
……。
一人残ったわたしはお茶を飲みながらゆっくり。
まあ、この方が気楽でいいんです。
のんびりと、お城の様子を眺めることにしました。
「お……地図がこんなところに」
廊下にすぐに出たところに世界地図が掲げられていました。
この世界の広さはいまいちわかりませんが四つか五つくらい大陸があって、わたしたちのいる大陸は最大の大陸、ユーラシア的大陸です。
そして西に帝国がずどんとあります。
さて、次の旅の旅程を確認することにしました。
この後は、通常の旅人も使っている道で魔物もいない。
目的地の帝国まではまだまだですね。
まだまだ西のずっと先。途中、砂漠越えもあります。
「あら、あなたたちが、今日の旅の勇者たちね」
元気な女の子の声が、しました。
ふりかえると、ちょっと小綺麗な女の子が従者を引き連れて廊下に立っています。
わたしと同じか、もしくはちょい上ぐらいの少女です。きれいな栗毛の長い髪を後ろに結んで、ちょっとそばかすがありますが十分可愛い子です。
「あなたたち、どこからきたのお?」
すると答えないうちに従者の方が耳打ちしました。
「グラスタニア王国の勇者一行です」
「ああ、あの辺境の魔法使いの末裔の国、ですね。へえ、あなたたちあんな遠くから来てるんだ」
わたしがまだほとんどしゃべっていないのに、説明してくれます。
どなたでしょうか。
目を丸くしているとーー。
「リディナ王の姫、アンナ姫にございます。エレーナ殿」
従者らしき人がわたしにそっと耳打ち。ついでに勇者一行がやってくると基本的に、王女が挨拶にくることも教えてくれました。
「し、失礼しました」
この方、姫様ですか。あわてて挨拶。
ティアラ首飾りとか、腕輪とか姫君定番のものを付けていないし、衣服もドレスではなくわたしたちが着るような、ラフなお姿なので、全くわかりませんでした。
「いいのよ。あたしは堅苦しいのが嫌で、いつもこんな感じだから」
もちろん、このお姫様はこちらの世界でも、珍しいタイプ。
部屋に戻り、椅子に座って雑談することになりました。
「それで、あなたたちが、例のエルフの加護を受けたとかいう一行なのよね」
お付きの方がお返事。
「そのとおりでございます」
わたしはほとんどしゃべっていないです。
「せっかくグラスタニアなんて遠いところから来てもらってるから、ゆっくりしてってよ。あ、あそこに甘いものを持ってこさせてるから」
「あ、ありがとうございます」
椅子に座って足を組んでお座りになられています。なかなかお上品。
「ご一行はシエレンから峠を越えられてきたそうです」
「あなたたち偉いね。今時、勇者を名乗る奴ら、結局安全なルートを通っていくのが多いからね」
リディナ隧道を経てシエレンの町からの峠では、結局どこの勇者一行ともすれ違ったりしませんでしたからね。
いっぱい勇者一行はいるのに不思議です。
結構うちのパーティーはくそ真面目にやっているということですね。
「だてにエルフの加護を受けているわけじゃないんだねえ」
「ありがとうございます」
「あなたたちは、ちゃんとやってるから立派だよ。あなたたちのような一行はもちろん歓迎だよ」
話は及び、西の帝国をはじめ、どこの国もお金もものも惜しみなく渡しているそうなので、各地で勇者が誕生している。
が、それもどうか。お金目当ての者も多く発生し、本来の魔王討伐の目的がどこかに行っているような気がする、と。
「結構大変だったろう? お城へ入るのも。前はもっと気軽に城に入れたんだけどねえ」
リディナ王国にも、勇者たちがあちらこちらから沢山やってきていますが、王様もそれを憂いていて、審査を厳しくしているんだとか。
「補助金が必ずしも上手くいかないのは、どの国どころかどの世界でも同じなんですね」
あの債務だらけの借金の国、今も上手くやってるのかな。
「あはは、なんだい、そりゃ」
「笑い話ではないんです……」
お姫様に、とある経済大国のお話をして差し上げました。
一生懸命人が通らない道路を作り続けてる、誰も使わないホールや会議場ーー。
でもまあ、好きでしたよ。そうはいっても暮らし易さはあっちの方ですし。
あはははは。そんな国あるわけないだろと姫様はお腹を抱えて笑っています。
異世界では、笑い話だな。
「あんたら、気に入ったよ。適度に力が抜けていて。そのぐらいがいいよ」
大抵、勇者なんてみんな暑苦しいぐらいに、力が入ってるんだそうです。そのくせ大したことをしていないパーティーが多かったりするので、うんざりしてるらしいです。




