81 エレーナは頼まれる
「ところでさ、悪いんだけどエレーナに、ちょっとお願いしたいことがあるんだよね」
「というと?」
「これまで多くの勇者たちが、この国を後に、帝国に向かったんだけど、……その後の消息を聞かないんだ」
姫が、なるべく訪れた勇者たちに会って会話を交わし、旅の幸運を祈念する。
その後の消息を帝国から帰ってきた商人旅人に尋ねても、わからない、知らないという返事ばかり。
「なんか変だと思ってね……、それで頼みなんだけど、あたしの知ってる奴でさ、帝都にやっぱり行った奴がいるんだ」
「リディナ王国でも勇者を派遣したんですか」
「いいや、リディナ(うち)はまだ派遣していないよ。うちがやらなくても今は後から後から、勇者がきてるからねえ」
まったくです。
「馬鹿な奴でさ、この国をひっきりなしに訪れる勇者たちに刺激されて、俺もひとかどのやつになって帰ってくる、それまでは帰らないって飛び出しやがったんだ」
その方は、冒険話に心躍らせて、いつの間にかその気になってしまったという。
男の子なら、まあそういう傾向はあるでしょうね。わたしも、昔は、夢溢れる少年時代がありましたから。
このファンタジー世界、冒険への夢だけは無限にあります。
「もちろんあいつの両親家族も反対したさ。あたしもあんたには無理だって笑ってたんだ」
笑ったな、アンナ。見てろ、俺はみんなが驚くような戦士になってやる。
立派になった姿をアンナにもみせてやる。
「ところが、この国を訪れた勇者パーティーの一つにこっそり混ぜてもらってそのまま旅に出ちまいやがったんだ。帝国に行ったことまではわかってるんだけど、やっぱり連絡が途絶えてちまって……そいつに伝えてやって欲しいんだ」
「何という方なんですが?」
「ルシオ……あたしの幼なじみでさ……エレーナ、途中で奴に出会ったらあたしが……アンナが心配してるから帰ってこいっていってくれないか?」
なるほど。事情はわかりました。
せっかくの姫様からのお願い。本来勇者様に頼むべきところですが、あんまり自慢できるお話でもないので、おおっぴらに頼むことができない。勇者様ではなくお供のわたしに、耳に入れたということでした。
「会うことができたら伝えておきます」
「頼むよ、エレーナ」
道中ルシオ君に出会ったら、ということにしておきましょう。
まあ会うことはないでしょうけどね。
どういうご関係なのでしょうか。話からさっするに。
「いいや、そんな関係じゃないよ。本当に単なる幼なじみってだけだから」
顔にでていたようです。手を大きくぶんぶん振って否定されました。
「あ、失礼。てっきりロミオとジュリエット的な何かかと思いました」
「ん? ロミオならそこにいるよ」
いたのか。
「おーい、ロミオ、なんかあるって」
側に仕えている従者の男を手招きします。
「ああ、いいです、別に、こちらの独り言……失礼しました」
手で制止します。きっとジュリエットさんもいそうです。
確かにファンタジー的世界観ならいてもおかしくない名前だよな。
「ただ身分が低いのは気にしてたみたいで……あたしはそんなの気にしないけど」
やはり……。
「不安でねえ……。あいつ、性格はいい奴なんだけど、歴戦の強者たちに混じって、傭兵まがいのことがやれるそんな器量じゃないし」
結構手厳しい評価なようです。
「今頃、きっと脱落したり、良いように使われた挙げ句に、捨てられて、どっかの宿か酒場で愚痴ってるんじゃないかって。そのうち路用の金もつきたら帰ってくるんだろうけどさ」
アンナ姫、結構辛口です。だから一丸発起してしまったのかもしれません。
「あるいは、悪い女にひっかかってなきゃいいんだけど……」
「わたしもそう願っています」
もし出会ったときにルシオ君が妙なのを連れていないように願うばかりです。




