27 後方待機です
ドッカン、バッキン、剣戟が聞こえてきます。戦闘が始まりました。
ルビーさん、大斧を振るい、時折その怪力で突き飛ばすのでしょう。
「うりゃああ」
というルビーさんの声が聞こえてきます。流石戦士。
おそらくオークの攻撃を力業ではねのけたのでしょう。
直後に大きく振りかぶった一撃でゴキインっと鈍い音がしました。クリーンヒットしたようですね。
どしいんと地響きを立てて巨体が倒れる音がします。
そこを相手の反撃の好きを与えずに新たに抜いた剣を繰り出して相手の胸を突いてえぐります。
「ぶぎゅー」
という断末魔の声。
オークは堅い筋肉と皮で覆われていて、それを突き破るのはこんなんと言われています。しかし、胸と胸のほんの小さな隙間に、薄い部分があるといいます。
ルビーさんはもちろんその弱点を知っていてそこを素早い剣術でつきます。
対オークにも使える金属で作られた剣を持っているのは流石。あれをルビーさんに買ったのはわたしです。
堅い皮と強靱な肉体を持つオークも急所を突かれればひとたまりもありません。
つづいて魔法使いシルヴァさんの呪文を唱える声と同時にモンスターの悲鳴が聞こえてきます。
おそらく炎か何かを放出する技を使ったのかもしれません。
焼け焦げる音と臭いと魔物の断末魔。
敵は着実に数を減らしてゆきます。
でもーー私はそれでも外には出ません。
だって、戦闘ではまるで使いものになりませんから。アイテム管理とお金の保管の能力。
基本馬車の中で待機。ひたすら身を縮めて終わるのを待つ。
「出番がきませんように……出番が来ませんように」
自分の剣を祈りながら、後方待機要員です。
「マリー! 治癒魔法をどんどんやってくれ頼む」
「はい、勇者様!」
外で緊迫した声が飛び交っています。
結構相手からの攻撃も受けているようです。
するどい爪を使った切り裂きと、腕力によるパワーを兼ね備えた相手です。
そっと外を覗いてみました。
地上の敵については勇者様とルビーさんが、敵の猛攻を防いでいます。
剣戟と敵のわめき声。
さらに空からも多くの小型竜が次から次へとやってきます。
「シルヴァは上の奴らを頼む!」
「了解ですよ」
シルヴァさん、ゆったりと進んで行きます。そして空を見上げました。
「数が多いですね……。一気に片付けますよ」
頼もしい。
彼女はわたしと同じく体力を使うような攻撃はできません。けれどもその代わり魔法攻撃は強大。
持っている杖を地面に突き立てました。
そして、シルヴァさんは、わたしにはわからない言葉を唱えます。
空中に紋章が浮かび上がったかと思うと、そこからつむじ風が巻き起こりました。
これまでとは桁違いの魔術を発動させたようです。
周囲にぶわっと広がっていきます。
翼を持つ小型の竜たちをかまいたちのように鋭いつむじ風が切り刻んでいきます。
さらに四方八方へ。空といえどもこれはひとたまりもない。
「きええええ」
今度は再び地上から魔物の悲鳴が響きわたります。
ミニオークです。
オークでも下級タイプなので、全体的に戦略性もない攻撃です。見極めれば攻略は容易です。
勇者様と戦士様が先陣をきって切り込みます。
「あっ!?」
二人の凛々しい戦闘を見ていたら、まるで狙っていたかのように、一匹がすり抜けてこっちへやってきました。
「ぶぎゃあああああ」
オークの言葉なのかはわかりませんが死にものぐるいの、恐ろしく醜い顔でこちらへ。
「ひえっ」
びびって腰を抜かしてしまいました。
こっちへ一直線でやってきます。
あ、やばい、これは。と思ったその時。
「ぎゃあああ」
魔物の断末魔の声が耳をつんざきます。
「ひいっ」
うっすら目を開けます。
よくよくみると、倒れた背中に短剣が刺さっています。
倒れて絶命していいました。
勇者様が投げた短剣が一発必中です。
「ほっ」
安堵のため息。
ごめんなさい。
こんななので、今私にできることは何もありません。
「エレーナ!」
突然勇者様がわたしを呼びました。
「は、はい!」
わたしが出番? 道具とお金の管理しかできないわたしに一体何の用事でしょう。
「あ、ごめん。間違えた。マリー! またヒール頼む!」
そうですよね。
あーびっくりした。
勇者様、どうやらオークの体当たりを回避した際に少し接触したようです。
マリーさんがヒールの祈りを捧げます。
どんな強者も全くの無傷でいられるわけではありません。
多少なりとも傷を負います。
いかに致命傷を回避しつつ、軽く負った傷を順次回復をするかが重要です。
そういう意味でヒーラーさんも重要な役割を果たします。




