26 今度こそ襲撃
そんなこんなで朝ご飯を済ませたら出発の準備です。
昨日の襲撃騒動も大した影響はなく、予定通り出発
もうすぐ街へ近づいてきた実感があり、皆さん気分もだいぶ高まってきました。
久々の街。
美味しいものを飲んだり食べたい、という欲求はだいぶ高まってきています。
「街ついたら、思いっきり飲んでやるぅ」
テントの片づけをするルビーさん、気合い入ってます。
「ほどほどにしてくださいね、体に障りますから」
懐事情も決して豊かでないのでちょっと釘を指しました。
宿営地を片づけ荷台に諸々荷物を積んで再び出発。
「さて、そろそろ行くか」
馬に勇者様の鞭がはいり、ひひんと鳴きました。
そしてごろごろ動き出す馬車。
日もだいぶ上ってきました。
そして今日もひたすら広がる森の中を貫く道を馬車はゆきます。
少し時間が経過したでしょうか。まだお昼休憩も先。
腰に下げている水筒を取り出して乾いた喉を潤す。
「ふう……」
鬱蒼と生い茂った森は先が見えません。遠くから聞こえる鳥の声が聞こえるだけ。
「おーい、ルビー。また頼む」
「ほーい、勇者様」
時折倒木が馬車の邪魔をしていることがありますが、そこはルビーさんのお仕事。その都度えいや、と怪力を発して大木をごろん。そしてわたしたちが拍手。
それ以外は、のどかに時間が過ぎていきます。
馬車で揺られる、魔物の襲撃、撃退、また馬車で揺られる。時々休憩。
日が暮れたら野宿。ここ数日はもうずっとこんなことの繰り返しなので、早く街に着いてこの鬱憤を晴らしたいという空気が仲間内に満ちているのを感じます。。
魔王を討伐する勇者様の旅といっても、四六時中魔物と戦っているわけではなく、何日も遭遇しないこともあります。
元来平穏だったこの世界に魔物が出現するようになってから10数年。ちょうどわたしがこの世界で前世の記憶に目覚めた時期と重なりますが、まだまだ世界は落ち着いています。
魔界の侵略が深刻にならないうちに、諸悪の根元を断ってしまうというのが、現在の人間側の方針であり、わたしたちが旅をしている理由でもあります。
ルビーさん、シルヴァさんが会話で盛り上がっています。
「グラスタニア豆のスープ、ありゃ逸品だったねえ」
「はあ、あの香ばしい香り……また食べたいですなあ」
女性の傾向は似たようなもののようです。
「いいだろ? この腕輪ーー」
「似合いますよ」
とりとめもない時間が過ぎていったころ。
それは来ました。
「!?」
急に馬のいななき声と共に、馬車が止まりました。
「わっ」
「きゃあっ」
慣性の法則は一応この世界にもあるらしく、突然のブレーキに皆荷台の壁や梁に捕まってバランスを崩さないように受け身の姿勢を取る。
「おわっ」
わたしは盛大に前につんのめる。
どんと一回転して頭をぶつけた。
「いたた、な、なんですか?」
素っ頓狂な声をあげる私はよそに、さすが戦闘をスキルにしてる人たちです。緩んでいた空気が一気に引き締まります。
昨晩と同じくもう自然に剣や杖を握りしめています。
「きやがったぞーー」
勇者様の激が飛ぶ。鈴を鳴らすと合図です。
それで皆さん察したようです。
「また魔物!?」
「ああ! 今度こそ本物だ!」
外にいる勇者様を支援するべく、他の馬車内のメンバーが次々に飛び出してゆく。
「来るぞ! 頼んだぞ、皆」
それまでの緩いキャラとは、別人です。
「はい!」
「いいですよ」
外では三人の交わす戦闘直前の緊迫したやりとりが聞こえてきます。
「あいたたた……」
つんのめって頭ぶつけて瘤をつくったわたしも、頭さすりながらようやく起き上がり、自分用の剣の鞘を荷物の中からとりだして握りしめます。
いよいよわたしもこの時が来ました。
「皆、気をつけろ。空からも来てるぞ」
勇者様の声で、すぐそこまで来ているようです。
「久々だね、腕がなまってたところだからちょうどいい」
ルビーさん。流石冒険系ギルド出身の戦士。肝が据わっています。
来るならこい、とモンスターの襲来に恐れるどころか胸を躍らせてるようすが伝わってきます。
「ミニオークが三匹……いや四匹。それにブルードラゴンがいるな」
勇者様は敵を確認し、分析をします。
皆、勇者様の指示に従います。
解説します。
ドラゴンと大層な名前ですが、ブルードラゴンは小型翼竜です。
逆にミニオークというと可愛らしそうですが、真正のオークよりは小さめという意味で決して弱い相手ではありません。
体中毛で覆われていて、豚のような顔。
本来魔界にいるはずのこれら魔物は、あちらでは邪気をたっぷり取り込んで強大な破壊力を持つと言いますが、こちら世界にやってきた魔物は逆に瘴気を失っていくため、勢いが落ちるといいます。
ただし、今の私たちにとっては、なかなかに強敵です。
そして私エレーナは……特にできることはないので、一人そのまま馬車内に残ります。




