第13話 2組のカップル+1
「リオン王子、カナメ様をお連れしました」
場所は昨日と同じ訓練場を一望できるテラス。すでに達也たちは訓練を始めているようで、剣同士がぶつかり合う音や魔法を詠唱する声などが聞こえてくる。
そしてテラスに備え付けられたテーブルには王子がすでに席について待っていた。
「ああ、よく来てくれた。わざわざすまないな」
「いやいや、全く問題無いぜ。ん、どうかしたの?もしかして勇者の儀とやらで問題発生?」
手を振りながら答えるが、よく見るとリオン王子の表情が昨日に比べて少し曇っている気がしたので聞いてみた。
「・・・・顔に出したつもりは無いのだが、カナメは意外と鋭いのだな。ああ、勇者の儀は関係無いのだが、少し・・・いや、君にとってはとても大きな問題が昨夜起きてね」
一瞬驚いたような表情をとった後、それを隠すように左手で口元を覆いながら王子は言葉を紡いだ。悪い知らせがあるらしい。
ちなみに俺は人の感情に結構機敏である。達也と姉貴がよくトラブルを起こすおかげでどんどん磨かれていったのだが・・・まあ、残念なことにそれでトラブルを回避できたためしは無い。
「言うべきか言わざるべきか考えていたのだが、どうやら隠し通すのは難しいようだ。カナメ、座ってくれ。全て話そう」
王子の正面に座ろうとしたら、隣に座ってくれと言われた。何でだろうと疑問に思っていると王子は数名の護衛だけを残して人払いをした。
王子という地位にいる人間が他人に聞かれたくない話をする。どうやら悪い知らせどころじゃ無いなと思いながら席に着いた。
「ここにいる彼らは信頼できる。大丈夫だ」
少し緊張して周りを警戒していると王子に声をかけられた。もう腹をくくるしかない様だ。
「さて、まず結論から言おう。カナメ、君は勇者の兄弟という立場から我が父、国王に狙われている」
ぶっ!?最高権力者から目を付けられるとかヤベーじゃねぇか!
「不味いじゃん!」
「ああ、非常に不味い事になった。最悪なのは父がそれを悪手であることに気づいてない事だ」
あれ?もう分かんなくなってきたぞ。
「俺が言うのもあれだけど、それって悪手なの?」
「もちろん状況によるがな。例えばカナメを人質にとり勇者たちに魔王を倒せと命令するとしよう。驚くほどの才能を持つ彼らのことだ、カナメを救おうと必死に鍛え、いずれ魔王を撃破するだろう。問題はここからだ。魔王を倒した後、王は人質を解放するか?答えはノーだ。王は人質を手放すことが出来ないからだ。人質という手綱が無くなれば勇者は思うがまま行動することが出来る。それは王に対して報復も可能になるということだからだ。もし、君たちが我が国の人間だったならば、人質という手綱を放しても報酬や地位、名誉などの新たな手綱を持つことが出来た。だが、そんなものに元の世界に帰りたがっている君たちを縛ることは出来ない。魔王を倒したのに王は報復を恐れ人質を帰さない。そんな状況が続き、いずれ勇者の怒りは限界を超える・・・どうだ?カナメを人質にした場合に迎えるであろう結末の一つだ」
「うわぁ、そう言われると確かにヤバイわ。下手すりゃ戦争に発展するレベルじゃん」
「最悪の場合はそうなるだろう。しかし人質となったとしてもカナメ自身はある程度安全だ。王にとっては最後の切り札だからな」
じゃあ、狙われているけど一応安全なのかと思っていると、だが、とリオン王子は続ける。
「だが、カナメにとって最大の問題は命を狙われた場合だ。勇者の血縁であるということはそれだけで大きな権力と影響力を持つ。勇者が魔王を倒したとすれば、それはそれは凄まじい物となるだろう。しかし、それが気に食わない奴らも王以外にも大勢居るということだ。政治の世界で暗殺は珍しいことではないからな、カナメが狙われる可能性は十分ある。リアラや私自身も何度も狙われたことがあるほどだからな」
「王子やお姫様を暗殺しようとするとかマジかよ・・・そのときの首謀者は捕まえたの?」
「目星はついていたが証拠が不十分でな、お咎め無しだ。基本的に暗殺者は失敗を前提とした情報しか持ってないからな。そんなものだ」
恐ろしい話を事も無げにする王子。改めてとんでもない世界に来ちまったなぁ。
「君の話しを続けよう。カナメが国王の暗殺者から狙われてるということをタツヤとリンが知ればどうなるか、だ。彼らは情に厚い、それも自分よりも他人を優先する善なタイプだ。違うか?」
「うん、その通り。姉貴は意外とドライなところもあるけど、困ってる人を見捨てるような性格じゃないし、馬鹿達也に至っては言わずもかな。確かに2人は自分より他人を優先するね」
たった数日で2人の性格を見極めるリオン王子ってスゲーな。きっと王子という立場上、観察眼を磨かざるを得ない人生だったのだろう。ちょっと共感した。
「だからこそ、そのような性格の持ち主が勇者として召喚されたのかもしれん・・・まあ、それは置いておこう。私はカナメに率直に聞きたい。君が国王の暗殺者から狙われてるということをタツヤとリンが知れば・・・彼らはどのような行動をとると思う?」
それは間違いなく・・・
「国王をしばきに行くと思う」
「・・・・では、もし君が殺されでもしたら?」
「この城が瓦礫の山になるくらいで済めば、かなり良い方だと思う」
「・・・・私の予想を遙かに超えるな。やはりカナメに話して正解だった・・・」
頭を抱える王子。その気持ちよく分かる。俺もあいつらには苦労させられたから。
「でも、この王様に狙われているって話は俺にしてもよかったの?俺、多分達也たちに言っちゃうよ?」
疑問に思っていた事を口にした。命が関わってくるのだ、多分どころか間違いなく話してしまうだろう。そうなると2人は王様をしばき倒しに行くことが目に見えている。王子はそれでもいいのだろうか。
「その疑問は最もだ。だから2人には私が全てを正直に話して謝ることにする、誠心誠意な」
「王子が?いいのかよ、そんな役回りで。なんかこう、もっと策略みたいのがあるのかと思ってたんだが」
「彼らが情に厚いのは君が一番よく知ってるだろう?ならば小細工は怒らせるだけだ。2人が許してくれるまで謝り続ける。他人には効果が薄いだろうがタツヤとリンは分かってくれるだろう。これもある意味策略ともいえるな」
そう考えると確かに効果が有りそうだな。姉貴に嘘ついても何故かすぐばれるからな、謝るのが一番かも。
「実はカナメにも謝らなければならない事がある。昨夜、表沙汰にすることが出来ないような仕事をこなしてくれる私の部下たち、私は影と呼んでいるが、彼らをカナメの部屋に潜ませていた。誤解をしないでくれ。もちろん君の身を守るためだったのだ。だが、君たちに不快な思いをさせてしまったことは事実だ。本当にすまない」
「いやいやいや、全然問題無いから!王子が謝ることじゃないし、むしろ俺にとって護衛はありがたいことなんだから!」
頭を下げて謝られたので逆に驚いた。最早俺にはオロオロする以外のことは出来ない。
「そう言ってくれるとありがたい。感謝する、カナメ。・・・クハハ、実は今日、それでリンに叱られてしまってね」
「姉貴に?何で!?」
王子を叱るって・・・姉貴あんた何て事を・・・
「今朝、カナメの部屋に居た影たちにリンが気づいたようでね。勇者の儀が終わり、周りに人が居なくなったときを見計らってリンに謝りに行ったんだ。そうしたら、私に謝るのではなく要に謝りなさい、それが筋でしょう。と言われてしまってね、ぐうの音も出ない正論だったよ。フッ、よく考えれば女性に叱られるなんて10年前に亡くなられた母上以来だな・・・懐かしいものだ」
王子は微笑を浮かべ空を見上げていた。俺はそんな王子を見ながら、この人は多分Mなんだろうな、と失礼な事を考えていたのは内緒だ。
俺が狙われていることについてだがリアラには内緒にしてくれと言われたので了承した。リアラに出来るだけ負担はかけたくないらしい。
その後は王子と適当に談笑して過ごした。王子の話の中心は姉貴についてだったので、リオン王子は姉貴に惚れたのかもしれない。
空が夕日で真っ赤に染まる頃、達也たち勇者ご一行の訓練が終わったのを見届け、王子に別れを告げて部屋に戻った。
王子はその場に残り、リアラが居なくなる時を見計らって2人に謝り行くと言っていた。
それにしても、リアラは達也に、リオン王子は姉貴にってか。ナイスカップルだと思うけど、俺は少し寂しいな。リア充爆発しろ。
王子に可愛い子を紹介してもらおうかなと他人任せな事を考えてると凄い事に気づいた。
リアラと達也、リオン王子と姉貴の仲が良くなる
↓
俺たちは元の世界に帰れるか分からない
↓
この世界に永住決定
↓
リアラと達也、リオン王子と姉貴がついにゴールイン
↓
俺、王族の一員に
↓
王族ニート生活に加え、貴族出身の可愛いお嫁さん(願望)
↓
勝ち組end
こ、これだぁ。み、見えた!俺の人生プランが見えたぁ!光輝いてるじゃないか!ヒャッハー!
暗殺の危険さえなければ最高だったのだが・・・この問題は王子たちに任せるしかないだろう。俺には手も足も出ないからな。
さ~て、俺はあの2組のカップルのために動くとしますか。ふひひ。




