第11話 王子の視点
視点:リオン王子
勇者・・恐ろしくほどの才能の塊だったな。ザインを超えるには早くとも1年はかかると思っていたが3ヶ月、いやもしかすると1ヶ月程やも知れん。無関係の、それも異なる世界の人間を勇者として召喚することには反対だったが、これは嬉しい誤算だな。だが、彼らは賢い。味方からしてみればこれほど頼もしいものは無いが、敵に回してしまえば・・・私の命だけでは済まないことになるだろう。幸いにも勇者タツヤとリアラはなかなか良い関係のようだ。王家に女として生まれた以上、政略結婚も致し方無いし、リアラ本人が惚れている男と結婚できる事は兄としても好ましい。ふむ、タツヤとリアラは良いとして、勇者リン・・か。・・美しい女性だ。姿形だけでは無く、なにより心が美しく感じた。王子として生まれ、絶世の美女と呼ばれる女は何度も見てきたが、心引かれた事は1度も無いし、引かれる心など持っていないと思っていたのだがな。・・ふっ、なるほど、今の私の胸に蠢く感情が恋というものか。さて、この感情をどうすべきなのか悩むところだが。しかし、それを考える前にやるべきことを済まさねばならない。
「従いまして後2、3ヶ月もあれば白銀の騎士ザインを超えるほどの実力を身に付けるでしょう。さらに、精霊の加護を得ることができましたら魔王討伐も可能となるはずです。なので初期の計画の一つでありました、魔王軍本体が我が国に来る前に勇者を魔王領へと差し向け魔王を討ち取る作戦が適当かと。いかがでしょうか、父上」
私は今、父、つまりはディアルク王国国王に勇者の様子を告げ、魔王討伐の計画を語っている。うつむいたまま話を聞いていた父は魔王討伐が可能という言葉に頭を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「魔王討伐・・・勝率はどれ程だ・・・」
「詳しくは分かりません。しかし、国内で魔王軍本体相手にしつつ魔王を討ち取るという、現在の計画と比べるとはるかに現実的です。魔王軍が宣戦布告どうり後1年で侵攻してくるとは限りませんし、奴らの軍備が整うまでこちらが待つ理由もございません。勇者の準備が整い次第、少数精鋭にて魔王領に忍び込み魔王を奇襲、討ち取ります。魔王さえ倒しさえすれば魔王軍は烏合の衆、我らの敵ではございません」
「・・・・」
「魔王討伐には2名の勇者、リアラ、ザイン、そして王国の中でも最も優れた騎士や魔術師達を同行させます。必ずや魔王討伐を成し遂げるでしょう」
魔王の早期討伐、これが今の情報で最も勝率の高いと思われる選択。勇者召喚する前までは魔王軍との大規模な戦争を予定していた。それは、勇者を過小評価していたための選択だった。しかし、召喚された勇者はリアラ、ザインを超えるであろう才能と魔力の持ち主。ならば、選択はこれのみである。
「・・・わかった、リオン・・・その計画でいい・・・詳細は将軍達と決めよ・・・」
「はっ!父上、お任せください」
よし、何とか通すことができたか。大筋の計画が決まれば後は将軍達のみ、今のところ問題無いな。
「ときにリオン・・・3人目は勇者となりうるか?」
「いえ、父上。3人目、カナメは2人の勇者の召喚に巻き込まれただけだと思われます。勇者の兄弟ゆえに可能性は無いとは言い切れませんが、彼の魔力の量と本人の証言から間違いないかと」
「勇者の兄弟・・利用価値はある・・・」
利用価値だと!?まさかカナメをスケープゴートにする気か!駄目だ、それは絶対駄目だ!今、タツヤやリンが勇者として協力してくれているのは、この国が魔王からの侵攻を受ける事に対して彼らが同情しているからだ。カナメの扱い次第ではその感情を直接刺激することになってしまうぞ!
「お、お待ち下さい。勇者らは事が終われば元の世界に帰ることを望んでいます。そのため彼らは利では動きません。感情を逆撫でさせてしまう事は慎むべきです!」
「・・・ふん。もうよい、話は終わりだ・・・下がれ」
「ち、父上、何卒っ!」
「・・・リオン、私は下げれと言っている」
「グッ・・・ハッ、失礼いたします」
クソッ、これでは下がらない訳にもいくまい。何も問題無いなど考えが甘すぎたか。父上がカナメを思い出す前に進言し、先手を打つべきだった。チッ、私がこんな基本的な事をしくじるとはッ!何よりまずはカナメの護衛だ。父上の息のかかっていない信頼できる者たちに任せねば。
「お兄様、お父様との話し合いはどうなりましたか?・・・大丈夫ですか、お兄様?」
「む、リアラか。すまない、考え事をしていて気づかなかった。ああ、大まかな計画は決まった。少数精鋭で魔王に奇襲する」
いかんな、リアラに心配されるとは。常に冷静にせねば最善は生まれない。冷静に、冷静に、だ。
「やはり、それに決まりましたか」
「ああ、勇者とザインそしてリアラ、お前たちが中心となり、魔王を討つ。・・すまないリアラ」
「いいのです。お兄様の考えたこの計画が最も可能性が高いことは私も理解しています。私は大丈夫ですよ、覚悟は出来ていますから。それより、お父様のご容体はいかかでしたか?」
カナメの事をリアラに言うことは出来んな。魑魅魍魎の王宮においてリアラはあまりにも優し過ぎる。
「焦っておられた。それもそうだろう。我ら人間が滅亡寸前まで追いやられたという600年前の魔王軍侵攻と同じ状況だからな。違う点を挙げるするならば、今回は異世界から召喚した勇者がいる事とディアルクの戦神と呼ばれた初代ディアルク王国国王様が居られない事だな」
「そうですか・・・」
後ろを振り向き、リアラの不安の色を残す目を見ながら言葉を紡ぐ。
「王宮は私に任せろ。リアラ、戦を頼む」
「もちろんです。お任せ下さい」
「うむ、もう夜も遅い。ではな」
「はい、おやすみなさい。お兄様」
リアラの返事に頷き、別れを告げて自分の部屋に足を向ける。
自分の部屋で椅子に座り、ふぅ、と息をついた後、自分と護衛の騎士以外誰も居ない部屋で呟いた。
「3人の様子はどうだ?」
その言葉に護衛たちは答えない。そんな中、黒い影が天井からリオンの前にシュッと降り立った。
「ハッ、タツヤ様とリン様は、やはりどんな手練を忍ばせても看破されました。周辺のメイドの話ではカナメ様を含めた3人だけで話し合いをされ、今は就寝されたのこと。カナメ様も影の存在を感づいた様ですが、確信に至っては無い可能性が高いとのこと。カナメ様も現在は就寝されています」
ふむ、私の影を看破したか否か、どちらにしてもカナメ自身も十分警戒しているか。
「影達は今どこにいる?」
「客室を遠巻きに監視させております。室内には誰も」
刺激したくは無いが仕方あるまい。リンとタツヤはおそらく自分より他人を優先するタイプだ。特にカナメに何か遭っては遅すぎる。
「リンとタツヤの方はそのままでいい。カナメの部屋には影を入れ、人数も増やせ。もはや見破られてもかまわん、その時は私が話をつける。・・・何よりも父上の影に注意せよ」
「!、ハッ、了解いたしました!」
以上だ、下がれ、と呟くと黒い影はまたシュッと天井へと消えていった。
これでもはや父上との対立は否めん。この国を守るためには私が消えるか、父が消えるか・・・是非も無し・・・か。




