第10話 就寝
「はいはい、とにかく家族会議の続きをするわよ。とりあえず要がまだ知らないと思う事を言うわ」
確かに俺がまだ知らないことは多い、というかほとんど知らない。情報が有るに越した事は無い。
「まず、日本語が通じる。この世界の人が喋る時の口元を見た?明らかに口の開き方と発音が違ってるわ。これはリアラの魔法の一つよ。私たちは聞くも話すも言葉が勝手に翻訳されるわ。この世界の言語は統一されているらしく、翻訳が可能なのは魔法のかけられた者の言語とその統一言語のみ、それ以外の言語は翻訳できないということよ。」
少し違和感があった気がしたのはそれか。つまりは相手からも俺たちはそんな風に見えている事だろう。気をつけなければいけない時もあるかも知れないな。
「魔法ってのは便利だな。それがあれば元の世界で英語なんて勉強しなくていいな」
「ただし、文字の読み書きには適応されないから、それは覚えるしかないね。ちなみにアルファベットじゃなくて変わった形をした文字だけど文法は英語に似ているから、単語さえ覚えれば何とかなりそうだよ」
ゲッ、英語自体あんまり理解していない俺にとっては耳が痛い話だな。すぐに帰れるのだったら覚えなくても問題無いけど。
「後、分かってると思うけど、私たちは部屋で休んでいる時以外は監視されているわよ。うっとうしいけれど暫くは仕方ないわね」
護衛の騎士やらメイドさんやらチラチラこっち窺っていたからな。
「気配云々以前の露骨な視線だよな。俺にも分かるわ。」
「問題はその視線に気配を隠して、密かに監視している人達なんだよね。さっき言っていた昨日まで俺たちの部屋を監視していたのは多分そいつらだよ。少し魔力を感じたからその気配ですぐ分かったけど」
マジか。それには気づかなかった。
「監視者全員が一般人よりも遥かに少ない魔力の持ち主よ。魔力の気配が無かったら私たちも気づけないわよ、あれは。・・・たぶん、元々魔力の少ない人間にそういう特別な訓練した隠密のプロだと思うわ。でも、どんなに魔力量が少ない人間でも0という事は無いらしいから、知らぬ間に監視されているって事は無いはずよ」
いやそれ、チート級の奴らにしか分からない事だと思うぞ。高密度の魔力以外に反応出来なかった俺が分からないのは当然か。というか、未だにすごい魔力量を持っているという姉貴達の魔力すら、まだ感じる事が出来てないし。とはいえ、無属性魔法のおかげで魔力がどんな物かは何となく分かったから、これからに期待するとしよう。
「他に何か気をつける事は?」
「そうね、貴方には直接関係無いかもしれないけど・・・ここの王様には注意した方がいいかもね」
うわぁ、王様がやばいとか洒落にならないだろ。
「一応、聞いていた方がいいよなぁ。注意ってのは?」
「昨日一度だけ会えたけど、正直に言って見た目は初老の男性よ、ただ威厳を身に纏ったね。ああ、王様なんですか、へぇ~、て思う程度の人物だったわよ。リオン王子の方が王としての気概は有ると私は思うわ。それだけなら注意する事も無いけれど、ただ、ちょっと、王様の目ね」
王様の目、とな?
「私達を見てはいなかったわ。見ているのは勇者としての価値、あれは物を見ている目よ。良い気分にはなれないわね。あと・・・脅え、というか焦っているかのようにも見えたわ、まぁ、これは私がそう感じただけなんだけどね」
「うん、俺も普通に偉い人って感じた。でも、確かに好きになれそうな目では無かったけど、王権制だし王様ってそういうものなのかな?って思ってた。他の王様とか会った事も無いし」
勇者としての価値、物を見ている目、か。確かに姉貴達にしてみれば嬉しくは無いのだろう。
「達也の言うとおり王様は国のトップなんだし、価値とか利益とかで見てしまうのは当然かもな。焦るのも魔王が誕生したからとかなんじゃないかな?」
「・・・そうね、少し考えすぎたかも。勇者として形式上会えただけでまともに話をした訳でもないし。少し酷評しすぎたわね」
何か姉貴らしくないな。なんというか・・キレが無い。
「姉貴、もしかして疲れてる?少し、調子がおかしい気がするんだが」
「そうかしら?でも、魔力をだいぶ使ったし、今日は色々あったから疲れたかもしれないわ」
「それに、こっちに来てから初日は寝てないし、気を張っていた状態がずっと続いたからね。実は俺も少し疲れが残ってる気がするんだ」
こいつらが弱音吐くのは珍しいな。たぶん監視がずっと続いていたせいだ。なまじ気づいてしまうから、気を張ってしまい疲れてしまうのだろう。
「それならもう休んだ方がいいと思うぞ。他に言っておかなくちゃいけない事はまだあるか?」
「いえ、私達も知らないことばかりよ。他は・・・そういえば要、腕は大丈夫?」
ありゃ、そういや言ってなかった。
「全然問題なし。リオン王子の言ってた魔力循環とやらも大丈夫。達也、別に心配する必要無いぞ。ほら完全復活だ」
心配そうにこちらを窺っていた達也の背中を右腕でパシン、パシンと叩きながら笑ってみせる。2人もそれにつられ笑っていた。
うん、さっきのように泣かれるのは勘弁だからな。現に腕はまだ違和感が残っているが痛みはもう完全に無くなっているから嘘じゃないしな。
「よし、もう他には無いな。時計が無いから時間はわからないが、疲れてるならさっさと寝ることに越したことは無いだろ」
「そうしましょうか。ああ、ちなみに時計が無い訳ではないみたいよ。昼は太陽みたいな星の光を利用して日時計とか、夜は月みたいな星のわずかな光を利用した月時計とかもあるらしいわよ」
へぇ~、月時計なんて物もあるのか、と言いながら、席から立ち上がり窓の外を見上げるように眺めた。
「月みたいな星・・・ね。確かに月では無いな、すげぇなこれ」
その星の見た目は円を描き、直径は元の世界にある月の5倍程、色は青白く輝いていた。だが今は夜、辺り一面は闇に覆われている。それでも真っ暗闇とまではいかないのはこの星の、いわゆる満月の月明かりのお陰だろう。
「綺麗だよね、怖くなるくらい・・・ふわぁぁ、俺も早く寝るよ。姉ちゃん、おやすみ」
「俺も部屋に戻って寝るよ、おやすみ」
「ええ、ゆっくり寝るといいわ。おやすみなさい」
あくびをする達也の後に続いて部屋を後にする。達也の部屋は姉貴の隣、そして俺の部屋はその達也の隣だ。隣といっても1部屋1部屋が大きいのでそれなりに歩かないといけないが。
「じゃあ達也おやす・・・ち、ちょっと待った」
「ん、何?」
「あの明かりの魔道具ってどうやって光消すんだ?」
魔道具なんて触ったことも無いからな。
「ああ、あれね。普通に部屋の入り口にスイッチあるよ」
「へぇ、そういうのは万国共通なんだな。ありがとよ、んじゃ、おやすみ~」
「うん、おやすみ」
自分の部屋に入る達也に別れを告げて一人で廊下を歩く。廊下の明かりは魔道具ではなく、蝋燭のせいか少し暗い。あまり知らない場所を歩くのは怖いとまではいかないが、やはり寂しいものがある。自分の部屋に入ると最初から明かりはついていたので、扉近くのスイッチを押して明かりを消した。そして月明かりの中、ベットの傍まで歩き、
「そぉーい」
ベットにダイブ。ぼふん、と音を出し着陸。やわらかいこのベットだからこそ出来る芸当。そのままごろごろしながら考える。
そういや、俺の部屋も監視されてるのかな?魔力の気配なんて分からないし、視線も感じないけど。ふむ、とりあえず・・・
「貴様っ、見ているなっ!」(キリッ!)
天井に指と顔を向け、言い放つ。・・・なんの反応も無い・・・
「ふっ、今日のところは見逃してやろう。だが、他の2人程俺の気は長く無いぞ」(キリリッ!)
・・・なんの反応も無い・・・何か悲しくなってきた。厨二乙だな、もう寝よう。あ、でも、ずっと寝込んでた訳だから、もしかして・・寝れない・・か・・も・・・スピースピー・・・
何事も無く夜は更けていった。




