亡霊女王
第1章 孤独な魂の目覚め
01:00 朝 ―― 2020年9月1日(火)
古の魔石が目覚めた時、それは闇に潜む妖魔鬼怪を呼び覚ましただけではなかった。千年もの間、眠り続けていた一つの魂をも揺り動かした。
彼女には実体がなく、誰にも触れられず、誰にも見えない存在だった。千年の間、彼女は忘れ去られたため息のようにただ存在していた。周囲のすべてが、彼女にとって異様で恐ろしかった。話しかけたい、叫んで誰かに自分の存在を知ってほしい――しかし返ってくるのは死のような沈黙だけだった。彼女は疲れ果て、倦怠し、極限の孤独に沈んでいた。
05:30 朝 ―― 同日
テヒモシン(Tehimosin)は太陽がまだ昇らないうちに目を覚ました。目の前に薄く光る一本の糸が浮かび上がる――それは新しい魂を救うべきしるしだった。
彼はいつものように静かに歯を磨き、朝食を作り、寝室を片付けた。その間、家にいる五人の少女(ネーベルゼレ、ファゼシン、ディーススワノ、ギギェウム、ダルジョアムーン)はまだ深い眠りの中にいた。
14:00 午後
その糸をたどり、テヒモシンはぼんやりとした影の前に立った。少女は動かず、虚ろな目で世界を諦めたように座っていた。
「今日は天気がいいね。でも、君の気分とはあまり合ってないみたいだ。」
テヒモシンが優しく声をかけた。
魂はゆっくりと首を傾げ、目を大きく見開いた。
「……私に、話しかけているの? 私が見えるの?」
「もちろん。」
テヒモシンは微笑んだ。
「本当? 私の声も聞こえてるの?」
少女は歓声を上げ、感情を抑えきれずに彼に抱きついた。
「やっと……やっと私の存在を認めてくれる人が現れた! 信じられる人、話せる人が……!」
彼女は堰を切ったように自分の気持ちを吐露し始めた。
「知ってる? 私はずっと、すごく孤独だったの。この世界に置き去りにされたみたいで、誰かと話す方法さえ忘れてしまった。みんな私を無視するの……。さっきあなたが話しかけてくれた時、本当に嬉しくて、幸せだった。」
テヒモシンは彼女を見つめ、目を細めた。
「そんなに孤独だったのか?」
少女は小さく頷いた。
テヒモシンは哀れに思って、ぼんやりとした彼女の髪を優しく撫でた。
「大丈夫だ。これからは、もう二度と孤独にさせないと約束するよ。」
その後、少女は彼と共に去った。
帰り道、彼女はテヒモシンのすぐ隣を歩き、まるで一瞬でも遅れたら彼が消えてしまうかのように、ぴったりと寄り添っていた。
「……ありがとう。私……少しだけ、孤独じゃなくなった気がする。」
「一緒にいよう。」テヒモシンは前を向いたまま言った。「どんな孤独も、どんな恐怖も、二人で乗り越えられる。」
「……ありがとう。」彼女の声が少し震えた。「あなたのおかげで……私は生き返ったみたい。」
「いつでもそばにいるよ。君が友達を必要とするときは。」
少女は唇を噛み、そっと言った。
「……ありがとう。本当に、会えてよかった。」
テヒモシンは小さく笑った。
「わかったよ、わかった。」
「ありがとう……」
「……ありがとう……」
やがてテヒモシンは足を止め、彼女の方を向いた。
「わかってるよ。」
「もう孤独じゃなくなったんだってこと。」
「だから、そんなに何度もお礼を言わなくていい。」
少女は彼を見上げた。目がまだ潤んで、感情でいっぱいだった。
そして何も言わずに、彼女はもう少しだけ彼に近づいた。
それだけで十分だった――もう一人ぼっちで置き去りにされることはないのだから。
第2章 魂のせいで家が大騒ぎ
2020年9月1日(火)
22:00 夜 ―― 拠点にて
ドアを開けた瞬間、テヒモシンは五人の少女がずらっと並んで出迎えているのを見た。
ネーベルゼレが真っ先に好奇心たっぷりに聞いた。
「今日の新しいお友達はどこですか? ご主人様。」
「今、俺に抱きついてるよ。」テヒモシンは平然と答えた。
ファゼシンがきょとんとした。
「誰も見えないんですけど……?」
ディーススワノが目を細めた。
「ご主人様、からかってます?」
テヒモシンはようやく気づいた。
「ああ、そうか。君たちには見えないんだな。」
途端に部屋の空気が一変した。「霊魂」という言葉を聞いた途端、五人の少女は血の気が引いて悲鳴を上げ、あちこちに逃げ散った。
テヒモシンはギギェウムに向かって尋ねた。
「一体何があったんだ?」
「……実は、さっきまでホラー映画を見てたんです……」ギギェウムがソファの後ろに隠れながら白状した。
18時から彼が帰るまで、五人は「勇気試し」をしていた。しかしその視聴方法が奇妙だった。幽霊が顔を出した瞬間にテレビを消して別の映画に切り替える、という方法で……。
テヒモシンは腕を組み、部屋の隅で縮こまっている五人を一瞥した。
「それが勇気試しか?」ため息をつく。
ダルジョアムーンが震える声で言った。
「幽霊、怖かったです……! 頭と内臓だけの人とか、いたんですよ……うう……」
ディーススワノが続ける。
「目も口もない、足も手もないのもいました!」
ネーベルゼレが青ざめた顔でトドメを刺した。
「一番怖かったのは……みんな、元は人間だったってこと……ううう!」
その時、ギギェウムが突然お化けのマスクを取り出して被り、また大騒ぎになった。
テヒモシンはため息をつき、霊魂の少女に説明した。
「ごめんね、驚かせて。彼女たちは過去の傷のせいで、人間恐怖症なんだ。」
彼は一人ひとりの過去を静かに語り始めた。ネーベルゼレは濡れ衣を着せられ、ファゼシンは焼き殺されそうになり、ディーススワノは神の名の下に暴行を受け、ギギェウムは裏切られて海の底に沈められ、ダルジョアムーンは電撃拷問を受けた――。
霊魂の少女は最初こそ怯えていたが、徐々に同情の眼差しに変わった。
「大変だったんですね……一人で五人もこんな女の子たちを育てて。」
「いや、そんなに大変じゃないよ。」テヒモシンは軽く笑った。「みんなちゃんと自立してるから。」
少女は驚いた様子だった。
「人見知りが激しいのに、どうやってお金を稼いでるんですか?」
「今は便利な時代だからね。家から出なくても稼げるよ。」
テヒモシンは誇らしげに説明した。ネーベルゼレはネットで有名なファッションデザイナー、彼とファゼシンは特産品の植物を育てて販売、ディーススワノは音楽の著作権で生計を立て、ギギェウムは天才的な技術者。そしてダルジョアムーンは、台湾ドラマのセリフに憧れて医者を目指しているという。
少女は再び驚いた。
「でも、人間が怖いのに……どうやって人を看病できるんですか?」
「知ってる人だけ看病できればいいんだよ。」
少女は一瞬固まった。
「……へ?」
「もう遅い。みんな寝なさい。」
「はい、ご主人様!」
テヒモシンは霊魂の少女に向き直り、優しく微笑んだ。
「今夜は俺の部屋で寝ていいよ。安心しろ、もう家族ができたんだから。」
彼女は頷いた。
第3章 魂の姿の秘密
09:00 朝 ―― 2020年9月2日(水)
朝の柔らかな日差しが庭の木々の葉を照らしていた。しかし拠点の空気はどこか異様だった。
ファゼシンが息を切らしてリビングに飛び込んできた。顔にははっきりとした不安の色が浮かんでいる。
「ご主人様はどこ? もう9時なのに、まだ庭のお仕事に出ていないなんて!」
ネーベルゼレがデザイン画から顔を上げ、眉をひそめた。
「もしかして、外出とか?」
「ありえません!」ファゼシンは首を強く振った。「ご主人様が外に出る時は、必ず部屋のドアにメモを貼るんです。でも今朝は……何もありませんでした。」
その不自然さに全員がざわつき始めた。ディーススワノ、ギギェウム、ダルジョアムーンも次々と姿を現す。誰も声をかけずとも、自然とテヒモシンの部屋に向かった。
カチッ――
ドアを開けた瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。
ご主人様が気持ちよさそうに眠っており、その隣にはとても美しい、気品と気高さに満ちた少女が横たわっていた。
「この子、誰!?」ダルジョアムーンが驚きとわずかな嫉妬を混ぜて叫んだ。
テヒモシンは目をこすりながら起き上がり、ベッドを取り囲む五人を見た。
「どうしたんだ、みんなこんなに集まって?」
「ご主人様……この女の子は誰ですか?」ネーベルゼレが少女を指差した。
「昨日紹介したリン魂だよ。」テヒモシンはあっさりと答えた。
全員が凍りついた。昨日まではただのぼんやりした霧のような存在で、誰にも見えなかったはずなのに、今ははっきりと人間の姿でそこにいる。
ギギェウムが目を細め、機械のような頭脳をフル回転させた。
「……どこかで見たことがあるような……データベースに似た記録が。」
「どうして昨日は霊魂だったのに、今日はこんなにしっかりした姿になっているんですか?」ネーベルゼレが疑わしげに聞いた。
ギギェウムが仮説を述べた。
「恐らく、眠っている間にご主人様の強力なエネルギーを無意識に吸収したのでしょう。それにより実体が凝縮され、仮初めの物理的身体を形成したと思われます。」
その言葉に他の少女たちは慌てふためいた。リン魂がご主人様の体力を奪っているのではないかと心配したのだ。
「じゃあこの子、危険なんですか!?」ファゼシンが青ざめた。
しかしテヒモシンは穏やかに微笑んで皆をなだめた。
「大丈夫だ。俺の力はまだまだ充実しているよ。ギギェウム、詳しく調べてくれ。」
「はい、ご主人様。」
ギギェウムがデータ収集と分析を始める中、全員の視線がベッドの上の少女に集まった。
ダルジョアムーンが小さな声で恐る恐る尋ねた。
「……彼女、どうやって死んだんですか?」
少女はゆっくりと瞬きをした。
透き通るような瞳の奥に、深い虚無が広がっていた。
「……覚えていません。」
誰も何も言えなかった。
ただ、朝の陽射しだけが静かに部屋を照らしていた――この少女をめぐる謎は、まだ始まったばかりだった。
第4章 亡霊女王の真実
2020年9月3日(木)
丸一日の徹底的な分析の後、ギギェウムが全員を呼び集めて結論を発表した。
「予想通りでした。」ギギェウムは専門家のような落ち着いた口調で切り出した。
「リン魂は元々、極めて低密度の生命エネルギー体です。しかしご主人様の強大なエネルギーを吸収したことで、人間の姿を再構築することができました。そしてもっと重要なこと……」
ギギェウムは一瞬言葉を切り、機械の瞳を輝かせた。
「彼女の本当の正体が判明しました。彼女はリア・ランバルド女王――通称、女王リアです。」
部屋が静まり返った。
テヒモシンが驚きの声を上げた。
「こんなに若いのに、すでに女王だったのか?」
「彼女は1000年以上前に亡くなっています。」ギギェウムは少し沈んだ声で語り始めた。「当時、彼女の国は深刻な飢饉に襲われました。リアは当時まだ王女でしたが、慈悲深い心の持ち主で、自分の食料を密かに貧しい民に分け与えていたそうです。それを両親にも隠し続け、ついに体を蝕まれ、飢えと病で亡くなりました。」
その献身的な物語に、人間を恐れるネーベルゼレやディーススワノでさえも胸を打たれた。
リアの死後、隣国たちはその話に深く感動し、国を救うために援助の手を差し伸べたという。王は偉大な娘を讃え、彼女を高貴なる女王として封じた。
「彼女の魂が成仏できなかったのは、恐らく肉体が今もミイラとして完全に残っているからです。」ギギェウムが補足した。「彼女は世界でも特に保存状態の良いミイラの一つです。」
テヒモシンは戸惑う少女の方を向き、優しく尋ねた。
「これからも昔の名前で呼ばれるか、新しい人生に合わせて新しい名前が欲しいか、どっちがいい?」
少女はしばらく考えた後、ぱっと明るい笑顔を浮かべた。
「新しい名前が欲しいです。ここに、新しい家族ができましたから。」
テヒモシンは頷き、力強い眼差しで言った。
「ではこれから、お前の名前は**ジョウセーレ(JoouSeele)**だ。『ジョウ(Joou)』は日本語で女王、『ゼーレ(Seele)』はドイツ語で魂という意味。お前は、この家族の『亡霊女王(JoouSeele)』だ。」
「はい、ご主人様!」ジョウセーレが嬉しそうに答えた。
「ジョウセーレ。」テヒモシンは続けた。「お前は1000年もの間、時の流れを見てきた。俺はお前を小説家にしたい。自分の目で見た数々の面白い物語を、ペンで世界に伝えてほしい。」
彼は真剣でありながら優しい口調で言い足した。
「ただし、俺に先に読ませろ。俺が許可したものだけ出版していい。世界には、お前が見た一番美しい部分を見せたいからな。」
ジョウセーレは恭しく頭を下げた。
「承知しました、ご主人様。」
第5章 戦争地獄の恐怖
22:00 夜 ―― 2020年10月1日(木)
「戦争地獄」と呼ばれる恐ろしい名を持つ土地で、凄惨な悲劇が起きた。
形も息吹もない不可視の勢力が、国中を蹂躙し始めた。
人々は震えながらひざまずき、これは過去の戦争の罪に対する神の罰だと信じた。一方、政府は狂ったように軍隊を動員した。戦車が咆哮し、戦闘機が空を切り裂き、最新鋭のミサイルが次々と発射された……しかしすべてが無意味だった。弾丸は虚空を貫き、飛行機は自爆し、兵士たちは敵の姿すら見ることなく倒れていく。
人類は苦く悟った。幽界の力の前では、最先端の兵器などただの玩具に過ぎないと。
07:00 朝 ―― 2020年10月2日(金)
テレビは一夜の惨劇の後、異常な静けさについての速報を流し続けていた。
テヒモシンは嫌な予感を覚え、行動を決めた。新しく自ら制作したジェット機のテストを心待ちにしていたギギェウムと共に現地へ向かうことにした。
ネーベルゼレとファゼシンも支援のために同行した。高い雲の上から、ネーベルゼレは絶技「雲騎行」を発動し、ファゼシンを連れて物資と医薬品を地上の被災民へと投下した。
11:00 昼
震源地に降り立ったテヒモシンの目に映ったのは、荒廃しきったが不気味なほど静まり返った光景だった。
「夜にしか出現しない可能性が高いですね」と、周辺をレーダーで走査しながらギギェウムが分析した。
一行は一日中、被災者の救護活動に尽力した。しかし時計が22時を指した瞬間、空が深紫色に染まった。巨大な霊的圧力が万物にのしかかる。
テヒモシンは呆然と空を見上げた。
「……あれは何だ? 百メートルを超える化け物か!?」
目の前に現れたのは、怨念が凝縮した巨大実体――異形の姿をした恐るべき存在だった。
ギギェウムが低い声で言った。
「ご主人様、この国が『戦争地獄』と呼ばれる理由をお忘れですか? ここでは無数の人々が命を落とし、その怨恨が今、一つの破壊的存在として具現化したのです。」
「ギギェウム、奴を倒す方法を探せ!」
「申し訳ありません、ご主人様……センサーが捉えられない相手はデータ解析ができません。」ギギェウムが悔しそうに答えた。
切迫した状況の中、テヒモシンは首飾りに触れ、瞬間移動でジョウセーレを召喚した。灰色の煙と共に亡霊女王が姿を現す。
「ジョウセーレ、あれが見えるか?」
「はい、はっきりと見えます。」
ジョウセーレは即座に攻撃を放ったが、その一撃は巨体の怪物をすり抜けるだけだった。彼女の力では、まだこの巨大な怨霊実体に有効なダメージを与えられなかった。
突然、闇の中から小さな鬼たちが現れ、巨体を襲おうとした。しかし大鬼はただ腕を振るっただけで彼らを捕らえ、貪り食った。同じ種族を飲み込むたび、その巨体は数十メートルずつ巨大化し、圧倒的な力を増していった。
見過ごせなくなったテヒモシンは危険地帯に飛び込み、最後の二匹の小鬼を大鬼の牙から救い出した。その瞬間、奇妙な現象が起きた。小鬼たちはテヒモシンの体から猛烈にエネルギーを吸い取り始めた。
瞬く間に、ぼんやりとした霊体から実体を持ち始め、質量のある存在へと変化した。
テヒモシンの頭に大胆なアイデアが閃いた。
「ギギェウム! 俺があの巨体にエネルギーを注ぎ込んで実体化させたら、攻撃できるか?」
「ご主人様! それは自殺行為です!」ギギェウムが慌てて止めた。「あれは数百メートルの巨体です。それを物質化させるのに必要なエネルギーは膨大すぎます。形になる前にご主人様の命が尽きます!」
テヒモシンは瓦礫の真ん中に立ち尽くした。周囲に響く家屋の崩落音と人々の絶叫。救済の力をもつ彼が初めて、目の前で世界が壊れていくのを前にした無力感に苛まれた。
【テヒモシンの視点】
一人の力には限界がある。しかし戦争の痛みは果てしない。……別の方法を見つけなければ。この土地が永遠の地獄になる前に。
第6章 夢の中の戦い
2020年10月3日(土) 朝
「戦争地獄」の地に、異様な静けさを伴った夜明けが訪れた。
テヒモシンは瓦礫の只中に立ち、昨夜の巨大実体が残した惨状を黙って見つめていた。並外れた力を持っていても、彼は今、溢れんばかりの無力感に襲われていた。今できることといえば、残された住民たちを必死に避難させることだけだった。
22:00 夜 ―― 同日
巨大な怪物が再び出現し、恐怖をまき散らした。テヒモシン、ギギェウム、ジョウセーレは懸命に救護活動を続けた。しかし人間の肉体には限界がある。過労と前夜の徹夜で、テヒモシンはついに力尽きて倒れ、激しい熱にうなされた。
意識が朦朧とする中、彼は奇妙な空間に迷い込んだ。そこで巨大怪物はもはやぼんやりした霧ではなく、はっきりと醜悪な姿を晒していた。
身長わずか175cmのテヒモシンは、迷わず手を振り上げ、絶技「ライトスラッシュ」を放った。一閃の光の斬撃が夜を切り裂き、巨大実体を一瞬で葬り去った。
すると、虚無から低く冷たい声が響いた。
「……私の夢を、壊さないでくれ……」
テヒモシンはハッと目を覚ました。
「おめでとうございます、ご主人様! あの怪物、倒しましたね!」ジョウセーレが喜びの声を上げた。
「……お前にも見えていたのか?」
「はい。ご主人様はまるで魂だけを抜き出して、直接あれと戦っているようでした。」
ギギェウムが腕を組んで呟いた。
「なるほど……つまりあの怪物は自然発生したものではなく、誰かの『夢』によって生み出された存在だったのですね。」
力尽きたテヒモシンは高熱にうなされながら、皆に支えられて家に連れ帰された。
2020年10月4日(日)
テヒモシンは「医師」ダルジョアムーンの献身的な看護で目を覚ました。そして隣にいるジョウセーレが、再びぼんやりとした霊魂の姿に戻っていることに気づいた。
「どうしてまた霊魂の姿に戻ったんだ?」
「ギギェウム姉さんが、そうした方がいいって……」
ギギェウムが部屋の隅から説明した。
「霊魂状態のジョウセーレの方が戦闘効率が高いんです。ご主人様が敵の夢の世界に侵入する危険を冒さなくても、彼女だけであの怪物を倒せます。」
テヒモシンは数秒考え、静かに言った。
「……わかった。」
彼はジョウセーレの方を見て、優しく続けた。
「人間の姿に戻りたくなったら……いつでも俺から直接エネルギーを受け取っていい。」
「はい、ご主人様。」
ジョウセーレは小さく、しかし力強く答えた。
その夜、「戦争地獄」での新たな攻撃のニュースが流れた。民家は全壊し、住民の財産は瓦礫の山と化した……
誰も口には出さなかったが、全員が理解していた。新たな怪物が現れたのだ。
テヒモシンが起き上がろうとすると、全員に止められた。
ギギェウムが前に進み出た。
「ご主人様、どうかご心配なさらず。この件は……もうジョウセーレが対応しています。」
テヒモシンは拳を軽く握った。
「彼女を一人で行かせるのは……心配だ。」
「ご主人様はジョウセーレを信じてあげてください」とダルジョアムーンが諭した。
テヒモシンは言葉に詰まり、長い息を吐いた。そして小さく頷いた。
「……そうだな。皆を守りたいなら、まずは仲間を信じることを学ばなければ。」
第7章 夜の温もり
03:00 朝 ―― 2020年10月5日(月)
ジョウセーレが夜風と共に帰還した。
「おかえり。」
彼女は驚いて立ち止まった。テヒモシンがリビングでまだ起きていて、自分を待っていてくれた。ダルジョアムーンは彼の膝の上で眠りこけている。
「ずっと待っていてくれたんですか……?」
ジョウセーレの声が震えた。主人の温かいエネルギーを受け取ると、彼女の姿が徐々にくっきりと実体化していく。
ダルジョアムーンがびっくりして目を覚まし、目をこすりながら文句を言った。
「もう寝なさいって何度も言ったのに、頑固なんだから! 本当にご主人様には困っちゃう!」
テヒモシンは優しく微笑み、誠実な眼差しで言った。
「俺は約束したからな……お前をもう二度と一人ぼっちにさせないって。」
亡霊女王の心が大きく揺れた。千年間忘れ去られていた一つの魂が、今ようやく自分の居場所と、待っていてくれる人を得た。
ダルジョアムーンはジョウセーレを見て、当然のように小さな声で言った。
「そんなに驚かなくてもいいよ。ご主人様はみんなにいつも優しいんだから。」
03:30 朝 ―― 同日
拠点は静かに眠りについた。
その夜、ジョウセーレとダルジョアムーンはご主人様と同じベッドで眠った。
余計な言葉はいらない。新しい約束も必要ない。
ただ——とても久しぶりに、ひとつの魂が「置き去りにされる」恐怖を感じることなく、目を閉じることができた。
夜は、穏やかで不思議なほど平和に過ぎていった。
08:00 朝 ―― 同日
「昨夜はよく眠れたか?」
テヒモシンは朝の陽光の中で目を覚まし、自分のベッドで眠るダルジョアムーンとジョウセーレに声をかけた。
「はい! すごく気持ちよく眠れました!」ジョウセーレが満面の笑みを浮かべた。
「ご主人様の体調はどうですか?」ダルジョアムーンが伸びをしながら小さくあくびをした。
「すっかり良くなったよ。さすが『お医者さん』のダルジョアムーンだ。」
その時、昨夜ジョウセーレが助けた二匹の小さな霊魂が、おずおずと姿を現した。
テヒモシンは迷わず手を差し伸べた。
「こっちにおいで。俺がエネルギーを分けてあげる。」
主人の手のひらの下で、二匹の小さな霊魂は徐々に明確な姿を得て、触れられる実体を持った。
見捨てられた者たちの家に、また新しい家族が増えた。温かく、希望に満ちた朝だった。
第8章 終わらない悪夢の連鎖
22:00 夜 ―― 2020年10月7日(水)
「戦争地獄」と呼ばれる土地の空が、再び妖しい紫色に染まった。
虚空から巨大な怨霊実体が姿を現し、山のような怨念の塊となってそびえ立つ。夜を引き裂く咆哮と共に、凄惨な虐殺が始まった。怪物たちは人間だけでなく、弱い小鬼たちをも貪り喰らい、力を増大させていった。
混乱の中、テヒモシンは素早く動いた。彼は手を伸ばし、さらに二匹の小鬼を大鬼の爪から救い出した。
そして彼は、天才の脳を持つ少女の方を向いた。
「ギギェウム、この戦いはお前に任せる。」
ギギェウムは一瞬固まり、機械の瞳を激しく点滅させた。
「私が……ですか? ご主人様、それは……不可能では?」
「ただ眠るだけでいい。」テヒモシンは落ち着いた声で、絶対の信頼を込めて言った。「俺はあの怪物の正体を深く知りたい。どこから来たのか。誰が夢の中であれを操っているのか。」
主人の意図を理解したギギェウムは迷わず頷き、深い眠りについた。夢の世界で彼女は卓越した分析能力を発揮し、怪物の幻影を素早く撃破した。
しかし勝利の瞬間、低く冷たい不気味な声が空間に響き渡った。
「……消えろ。他人の夢を、壊さないでくれ……」
強烈な霊的反発がギギェウムの意識を夢の世界から弾き飛ばした。彼女は冷や汗を浮かべて飛び起きた。
「……やはり……」ギギェウムは息を荒げながら言った。「この夢の主を倒すことはできない。『夢は見る者の中で最強である』という、絶対の法則です。」
22:00 夜 ―― 2020年10月10日(土)
残酷な連鎖は終わらない。再び新しい怪物が出現した。
テヒモシンはいつものように二匹の小鬼を救い出した。
今度はネーベルゼレに声をかけた。
「怖い、怖いよ! ご主人様、あんな怖いものと戦いたくない!」ネーベルゼレは震えながら彼の服を強く掴んだ。
テヒモシンは彼女の目を見て優しく言った。
「恐怖より好奇心を勝たせてみろ。」
その言葉が彼女の背中を押した。ネーベルゼレは深呼吸し、夢の世界へ入った。しかし怪物のおぞましい姿を見た瞬間、すぐに飛び起きた。
彼女は泣きながらテヒモシンに抱きついた。
「怖かった……本当に怖すぎたよ!」
ネーベルゼレが失敗したのを見て、ファゼシンが燃え上がった。
「今度は私にやらせて! ネーベルゼレ姉さんの仇を取る!」
しかし「怖がり」の呪いは誰にも平等だった。怪物と対面した瞬間、ファゼシンも真っ青になって飛び起き、「うわああん、怖いよぉ!」と泣き出した。
テヒモシンはため息をつき、二人の震える少女を両腕で優しく抱きしめた。
結局、ジョウセーレが霊魂状態で出陣し、怪物を見事に片付けた。
22:00 夜 ―― 2020年10月13日(火)
同じ出来事が繰り返された。また二匹の小鬼が救われ、今回はディーススワノが選ばれた。
心の中では気絶しそうなほど怖がっていたが、ディーススワノはご主人様の前で勇気を振り絞った。しかし怪物と対峙した瞬間、本能的な恐怖が爆発し、彼女は目をつぶって全力で叫んだ。
それは普通の叫び声ではなかった。強力な霊的エネルギーを帯びた「超音波」だった。
怪物はその恐るべき音圧によって瞬時に崩壊した。
目を覚ましたディーススワノが周りを見回すと、テヒモシンをはじめ全員が耳を塞いで苦しそうな顔をしていた。
「みんな……どうしたの?」ディーススワノがきょとんとして聞いた。
ジョウセーレがため息をついた。
「あなた……叫びすぎよ!」
「え? 夢の中で叫んだだけじゃないの?」
ギギェウムが部屋の音響データを確認しながら説明した。
「睡眠中は自我が抑えられるので、現実での行動を自分で制御できないんです。」
テヒモシンは痛ましそうに彼女を見つめた。
「そんなに怖かったなら、ちゃんと言ってくれればよかったのに。無理に戦わせるつもりはなかった。」
優しい言葉に触れ、ディーススワノは急に甘えたくなり、彼にすり寄った。
テヒモシンは少し慌てて頭をかいた。
「……どうしたんだ? 急に甘えてきて。」
22:00 夜 ―― 2020年10月16日(金)
怪物の出現はもはや疲れる日常になっていた。また二匹の小鬼が家に連れ帰られた。
テヒモシンはダルジョアムーンに尋ねた。
「怖いか?」
「……はい。」ダルジョアムーンが小さな声で答えた。
「わかった。ジョウセーレ、今回はまた頼む。」
ジョウセーレは無言で霊魂となり、一瞬で怪物を消滅させた。
その素早さにダルジョアムーンがぽつりと言った。
「……意外と弱いんですね、化け物って。」
テヒモシンは微笑んで彼女の頭を撫でた。
「奴らが弱いのじゃない。君たちが強くなったんだよ。」
22:00 夜 ―― 2020年10月19日(月)
テヒモシンの忍耐もついに限界に達した。また怪物が現れ、彼はさらに二匹の小鬼を救った。
「このゲリラ戦を続けても意味がない。」テヒモシンは低い声で言った。「ギギェウム、根本的にこの問題を終わらせる方法を考えろ。」
ギギェウムは腕を組み、真剣な表情で答えた。
「方法自体はもう計算済みですが……実行できるかどうかは別の問題です。」
「どんな方法?」ジョウセーレが身を乗り出した。
「夢の主を直接倒すしかありません。しかし先ほども言ったように、『夢は見る者の中で最強』です。相手の領域で“神”を倒すのは、ほぼ不可能に近い。」
議論している間も、遠くの巨大怪物は狂ったように破壊を続けていた。家屋が崩れ、公園が消え、千年もの歴史を持つ建造物が灰となっていく。
「もう待てない! 今すぐ倒さないと、この土地は完全に消えてしまう!」テヒモシンが命令した。「ジョウセーレ! 奥義『魂の審判(Soul Judgement)』を使え!」
ジョウセーレは夜空高く舞い上がった。彼女は詠唱を始め、巨大な灰色の魔法陣を描き出した。それは世界中の無数の怨魂が集う、冷たい審判の輪だった。
審判の力の下、怪物はすべての「罪」を暴かれ、怨念の鎖に貫かれ、内側から霊的な業火に焼かれた。怪物は苦痛に咆哮し、最後には光の粒となって砕け散った。
しかし全員が理解していた。これは一時的な勝利に過ぎない。
「夢を見る者」がいる限り、この悪夢はまだ終わらない——。
第9章 悪夢の先にあった真実
22:00 夜 ―― 2020年10月22日(木)
「戦争地獄」の夜空が、深く濃い闇色に震えた。新たな怨霊実体が姿を現したが、その存在感はこれまでとは比べ物にならないほど圧倒的だった。高さ500メートルを超える巨体は、灰色の雲に頭を突き刺す破壊の神のようだった。
テヒモシンは遠くからその姿を眺め、周囲を見回したが、小鬼たちの影はどこにもなかった。胸に失望が広がった。あの弱い霊魂たちは、彼が到着する前にこの巨大怪物に完全に喰い尽くされ、力を増大させる糧にされてしまったのだ。
その脅威的な巨体も、亡霊女王の前ではただの混沌としたエネルギー塊に過ぎなかった。
「ジョウセーレ! 奥義『魂の引き裂き(Soul Rend)』を使え!」
テヒモシンが鋭く指示を出した。
ジョウセーレは頷き、ぼんやりとした姿が一瞬で消え、黒い閃光となって怪物の後頭部に現れた。無駄な動作は一切ない。細い両手を怪物のエネルギー核に突き刺し、力強く一回転——巨大実体を紙を破るように真っ二つに引き裂いた。
大鬼は最後の咆哮を上げ、霊魂の塵となって消滅した。
戦闘後、ジョウセーレがテヒモシンの傍に降り立った。彼が無言で立ち尽くし、哀しげな目をしているのに気づき、彼女はそっと尋ねた。
「ご主人様、どうかなさいましたか? なんだか嬉しくなさそうです。」
「……惜しいな。」テヒモシンはため息をつき、虚空を見つめた。「今日は一匹も小鬼を救えなかった。」
ジョウセーレは目を伏せ、声を低くした。
「あの怪物の力は強大すぎました。あの子たちは……私たちが間に合う前に、すべて喰われてしまったんです。」
22:00 夜 ―― 2020年10月25日(日)
連鎖は再び繰り返された。新たな怪物が出現した。
しかし今回は、テヒモシンはより大胆な計画を立てていた。
「ジョウセーレ、あの怪物はお前に任せる。俺は直接、夢の世界に潜入してあの謎の存在と対峙する。」
ギギェウムが心配そうに彼の手を握った。
「ご主人様、それは敵の領域です。あの夢の中では相手が絶対的な支配者なんですよ! どうか気をつけて……!」
テヒモシンは微笑んで皆を安心させた。
「大丈夫だ。俺は奴を倒す方法をもう見つけたから。」
彼は目を閉じ、心を解き放ち、意識を深い夢の領域へと滑り込ませた。目の前にぼんやりとした人影が現れる。
テヒモシンは力強く宣言した。
「俺が勝ったら、お前はすべてを話せ!」
四方から冷たくも好奇心を含んだ声が響いた。
「……いいだろう。約束する。」
瞬間、周囲の空間が激変した。謎の存在はテヒモシンを恐ろしい悪夢へと引きずり込んだ。9歳の頃の記憶——村を襲う銃声と爆音、侵略軍による無差別殺戮、倒壊した病院と学校、幼稚園児から大学生までの子供たちの死……血と涙が夢の世界を染め上げた。
謎の存在は彼の心を折ろうとした。しかしテヒモシンは揺るがなかった。
「想像力の力は……」彼は小さく呟き、純粋な光を瞳に宿した。「この苦痛に満ちた現実を、飲み込んでみせる!」
彼は想像を始めた。青い空、果てしない花畑、愛する人々の笑顔——輝かしい世界を心に描き上げた。強い平和への願いとポジティブな想いが爆発し、敵が作り出した闇と負の感情を一掃した。
悪夢の世界が砕け散った。謎の存在は膝をつき、完全敗北を喫した。
「夢の世界では……」テヒモシンは相手を見下ろした。「より強い想像力を持つ者が勝つ。」
浄化された柔らかな光の中、謎の存在の姿が徐々に明らかになった。それは怪物などではなく、ただの小さな少年だった。
「僕の名前はA、7歳だよ……」少年は嗚咽しながら語り始めた。「この土地は……ずっと戦争ばかりだった。独裁者の指導者が領土拡大のために国民を苦しめていた。ある日、超音速ミサイルが落ちてきて、僕は魔法の石を見つけた。石は僕を守って、願いを叶えてくれると言った。僕は願ったんだ……『この国を消してしまえ』って……」
幼い少年が奪われた幼少期への憎悪と絶望が、怪物たちを生み出していた。
「今、その魔法の石はどこにある?」テヒモシンは優しく尋ねた。
「あの遠い山の奥深くにある洞窟の中だよ。」Aが遠くの山を指差した。
テヒモシンは少年の頭を撫でた。
「約束を守って正直に話してくれてありがとう。Aはいい子だ。」
「……褒めてもらえて嬉しいよ……」Aは小さく答え、長い間憎しみに染まっていた瞳に、わずかな純粋な光が戻った。
テヒモシンは少年の痛ましい姿を見て、穏やかだが深い声で言った。
「この夢から出る手伝いをしようか?」
少年は肩を震わせ、夢の世界の果てを見つめ、ゆっくり首を振った。悲しい微笑みが浮かんだ。
「……ありがとう。でも、僕はこの夢の中にいる時だけ幸せなんだ。目が覚めて外の惨めな現実を見ると……どうしても泣き止まなくなっちゃう。」
テヒモシンは静かに立ち尽くし、小さな心にのしかかるあまりにも大きな痛みを理解した。
「……わかった。じゃあ、さようなら。」
Aとの別れを終え、意識が現実に戻った。テヒモシンは目を開け、冷たくも強い決意を宿した瞳で遠くの山を見つめた。少年が指差した方向——魔法の石が眠る場所へと、彼は迷わず歩き始めた。
最後の秘密が、そこに待っていた。
第10章 魔石の洞窟での対決
2020年10月28日(水)
山奥深くに隠された古代魔石は、近づく人間の気配を感じ取った。自らの尊厳と秘密を守るため、激しく振動し、数千年分の岩石を集めて高さ60メートルの巨大な石の守護者を生み出した。
その巨大な障害物を前に、ギギェウムが決意の炎を瞳に宿して前に出た。
「この巨人は私が相手します!」
言い終わるや否や、ギギェウムは30メートルのメカを召喚した。輝く合金の機体に素早く乗り込み、システムを起動。石の巨人と正面から激突した。その隙に、ディーススワノ、ジョウセーレ、ダルジョアムーン、そしてご主人様は洞窟の奥へと急いだ。
しかし魔石の力は想像以上だった。石の巨人は山の重みすら乗せた拳を振り下ろし、数合でメカを叩き伏せた。機体に亀裂が走り、原子炉爆発の警告が赤く点滅する。コックピットの中でギギェウムは絶望に叫んだ。
「ご主人様! 助けて——!」
その叫びと同時に、山腹で爆音が響き渡った。テヒモシンが厚い岩壁をぶち破り、光の矢のように飛び出した。メカが巨大な火球となって爆発する寸前、彼はギギェウムを抱き上げて安全な場所へ着地した。
地面に降り立ったテヒモシンは微笑みながらも、少し厳しい声で言った。
「危ない真似をするな。まさに卵で岩にぶつかるようなものだ。次からはもう少し慎重にやれ。」
まだ動揺の冷めやらぬギギェウムは彼にしがみつき、涙を溢れさせた。
「死ぬかと思いました……。でも、ご主人様はどうして洞窟の奥にいたのに私の声が聞こえたんですか?」
「君たちが危険に陥った時は、いつも感じ取れるんだ。」テヒモシンは優しく答えた。
「わあ……ご主人様、最高です!」ギギェウムは彼を崇拝の眼差しで見上げた。「ますます尊敬しちゃいました!」
その時、石の巨人が咆哮を上げ、トドメの拳を振り上げた。テヒモシンはただ人差し指を突き出すだけだった。一筋の「破壊光線」が指先から放たれ、石の巨人のエネルギー核を貫通——巨体は瞬時に数万の破片となって崩れ落ちた。
ギギェウムは彼に抱きついたまま背中を向けていたため、その光景を全く見ていなかった。後ろで響いた乾いた崩壊音だけを聞いた。
二人はすぐに洞窟に戻り、ディーススワノたちと合流した。
「ご主人様、なんで急に山をぶち破って消えたんですか?」ディーススワノが興味津々で聞いた。
「ギギェウムの助けを呼ぶ声が聞こえたから、山を破って助けに行ったんだよ!」ギギェウムが誇らしげに自慢した。
ジョウセーレが首を傾げた。
「でも私たち、ご主人様のすぐ近くにいたのに何も聞こえませんでしたよ?」
ギギェウムは得意満面で笑った。
「それは私とご主人様の特別な絆だからです! 私の心の声が聞こえるのは彼だけなんですよ。これぞまさに愛の力というやつですね!」
「またそうやって大げさに……」ダルジョアムーンが呆れてつぶやいた。
一行は談笑しながら洞窟の奥へ進み、すべての元凶である魔石と対峙した。
危うく死にかけた怒りが爆発し、ギギェウムが突進した。百万馬力の出力で放たれた拳は、1億4900万ニュートン——瞬間的に15,000トンの圧力を一点に集中させた。
ガキィッ!
魔石は耐えきれず、粉々に砕け散った。輝く粒子が洞窟中に舞い上がり、辺りを幻想的に照らした。
その光景を眺めていたテヒモシンは小さく身震いし、独り言を呟いた。
「……女の子を本気で怒らせるとは、恐ろしいものだな……」
勝利の喜びに包まれ、一行は拠点へと帰還した。
しかし彼らはまだ知らなかった。
魔石の粒子には微かな意志が宿っており、それらは風に乗り、適した宿主を探しながら、新たな企みを静かに始めていた——。
第11章 ジョウセーレの処女作
2020年12月24日(木)
クリスマスの雰囲気が街中に溢れていたが、拠点ではジョウセーレが緊張した面持ちで、数日間没頭して書き上げた原稿を主人の前に捧げていた。彼女は小さく頭を下げ、両手で丁寧に原稿を差し出した。処女作のタイトルはシンプルにこう書かれていた——『チンとチャンの恋物語』。
【ジョウセーレの原稿内容】
2018年9月10日(月)
名門大学医学部において、2016年から2022年までの学年の中で、教師や学生たちから常に尊敬の眼差しを向けられていた二つの名前があった。チンとチャンである。
チンは12月4日生まれの青年、チャンは10月24日生まれの少女。二人は同じクラスであるだけでなく、成績面でも「最強のコンビ」の異名を取っていた。学年一位と二位の座を常に独占していたのは決して偶然ではない。図書館での長いグループ学習、自主学習スペースの片隅、馴染みのカフェで流れる穏やかな音楽……。厚い教科書と徹夜の試験勉強が、二人の絆を深く結びつけていた。
2018年11月12日(月)
突然の災難が訪れた。「国防と安全保障」の試験中、チャンがうっかり資料を見てしまったことが見つかってしまった。即時退室と試験中止の処分を受け、彼女の目の前が真っ暗になった。
チャンは魂を抜かれたように駐車場へと向かった。羞恥と失望、そして傷つけられた自尊心が細い肩を重く押しつぶし、今すぐこの世界から消えてしまいたいと思った。
しかし自転車に手を伸ばした瞬間、聞き覚えのある声が静寂を破った。
「チャン!」
振り返った彼女は目を大きく見開いた。チンが息を切らして立っていた。講義棟から全力で走ってきたのだろう、胸が激しく上下している。
チャンは驚いて言った。
「今頃まだ試験中のはずじゃ……?」
チンは近づきながら、緊張した表情を少し和らげ、心配そうに言った。
「そんな状況で座っていられるわけないだろ? 大事な試験で退室させられたんだぞ。君が大丈夫かどうか、確認しないと。」
チャンは声を詰まらせた。
「でも……あれは大事な試験だったのに。」
チンは首を振り、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「君の方がずっと大事だ。君が今、すごく苦しんでいるのがわかる。一緒に乗り越えよう。まずは君が倒れないようにするのが俺の役目だ。」
彼はチャンの肩に手を置き、優しく続けた。
「今は静かな場所に行こう。コーヒーでも飲もう。夕飯はまだだろ? 一緒に食べに行こう。」
チャンの目から涙が溢れそうになった。
チンはロマンチストではないと知っていた。それでも、自分の試験を捨ててまで自分を心配してくれるこの行動に、胸が熱くなった。
「……ありがとう、チン。」
彼女は唇を噛み、震える声で言った。
「どうして……そんなことしてくれたの? 自分の試験を犠牲にしてまで……私、申し訳なくて……」
チャンはうつむき、それからゆっくり顔を上げて彼を見た。
「でも……ありがとう。こんなに私のことを思ってくれる人がいるなんて、思わなかった。」
人気のない路地裏、街灯の届かない暗がりで——
チャンはチンの胸に飛び込み、子供のように泣きじゃくった。
チンは優しく背中を撫で、彼女の髪に、耳に、涙の残る頰に、穏やかで慈しむようなキスを落とした。激しいものではなく、ただ大切に想うキスだった。
やがて二人の視線が絡み合い、熱く、深く——。チャンが自ら彼の唇にキスをした。それは二人を眩暈がするほど深いものだった。
その夜、二人は互いの信頼と同意のもと、最も大切なものを捧げ合った。薄暗いラブホテルで、試験中止の不安も将来の心配も、すべて忘れ去られた。ただ激しく高鳴る鼓動と、慰めを求め合う若い二つの魂だけがあった。彼らは強く結ばれ、互いのぬくもりの中で嵐の只中にいる平穏を見つけた。
それから数年後——
二人の恋は時とともに深く育っていった。
・2019年4月26日:満員の映画館で、チンは数百人の観客の前で跪き、チャンにプロポーズした。彼女が涙ながらに了承すると、大きな拍手が沸き起こった。
・2020年夏:二人は一緒に水泳を習い始めた。泳ぎが苦手なチンだったが、毎日チャンを送り迎えした。昼下がりのプールに二人きりになった時、チャンが優しく教えてくれた。水の中で交わる軽い触れ合いは、二人の愛をさらに深めた。
・2021年7月19日夜:新型コロナウイルスの流行中、大学は閑散としていた。G1自習室で卒業論文に取り組む二人だけだった。突然の豪雨と停電。広い大学の暗闇の中、屋根を打つ雨音を聞きながら、二人は再び互いの温もりを見つけ、青春の最も情熱的な一ページを刻んだ。
・2022年4月23日:二人は無事、輝かしい卒業証書を手にした。両家の家族が喜びに満ちた顔で顔を合わせ、結婚の日取りを決めた。
・2023年4月22日:盛大な結婚式が執り行われ、講義室から結婚式場へと続く二人の物語は、幸せのうちに幕を閉じた。
【現実に戻って】
テヒモシンは原稿を閉じ、長い間無言だった。
「ご主人様……どう思われましたか?」ジョウセーレが緊張しながら尋ねた。
テヒモシンは小さく首を振り、ため息をついた。
「もう一度、別の小説を書いた方がいい。この話は……ありふれすぎている。世の中にはこういったモチーフの話が溢れているよ。」
ジョウセーレの肩が小さく震えた。
「大学入学から卒業、結婚まで順調に進むのは当然のことだろ」とテヒモシンは客観的に続けた。「君の話には劇的な展開が足りない。高揚するクライマックスや、読者が息を飲むような展開がない。これでは最後まで読んでもらえない。」
亡霊女王は深く息を吸い、すぐに目を輝かせて言った。
「はい、ご主人様。まったく別の作品を書き直します。これは私が考えた百のアイデアのうちの一つに過ぎません。」
「いつ頃完成しそうか?」
「来週中には必ず!」
テヒモシンは満足げに微笑み、背もたれに寄りかかった。
「よし。君の成長を楽しみに待っている。」
ジョウセーレは深くお辞儀をし、急いで自分の部屋に戻った。頭の中では新しいアイデアが次々と渦巻いていた。彼女は厳しい主人が驚くような物語を紡ぎ出そうと、心に決めていた。
第12章 緞帳が下りるとき
一週間後――2020年12月31日(木)
ちょうど一週間が経った夜、ジョウセーレは自信に満ちた明るい表情で新しい原稿の束を抱えてリビングに入ってきた。彼女は原稿をそっとテーブルに置き、軽く咳払いをして大晦日の特別な夜の幕開けを告げた。
「ご主人様、これが私がつぎ込んだ全力を注いだ作品です。タイトルは『偽りの王族一家と万能執事』です。」
【ジョウセーレの原稿内容】
第1部 華やかさは偽りの月明かり
物語の舞台は豪華絢爛な大邸宅。しかし、壁に飾られた「ルネサンス期」の絵画は実はフリマで買った偽物だった。この屋敷の主はアイング氏(66歳)——いつも付け髭を撫でて威厳を装う男と、その妻ビン夫人(44歳)である。
「我々は貴族だ! 貴族たるもの、使用人が大勢いなくてはならん!」
アイング氏は堂々と宣言した。
こうして「使用人軍団」が作られたが、その内情はドラマだらけだった。執事No.1は女主人に色目を使った罪でクビ。執事No.2は長男に恋をして追い出され、執事No.3は主人のケチさに耐えかねて家の中の偽物を盗んで売っていたことがバレた。
最終的に重責はジン(18歳)——今回の主人公に託された。彼は執事長となり、四人のメイド(シン、ニン、イン、シン)を率いることになった。彼女たちの仕事は「喜劇を演じること」がメインで、家事をすることなど二の次。本当の目的は、この派手な「偽り王族一家」を毎日のドタバタで崩壊させないことだった。
第2部 不味い結婚生活
この偽りの贅沢の中で、二つの悲劇的な結婚が繰り広げられていた。
長男シングは同性愛者であり、妻ディン(19歳)に一度も触れたことがなかった。アイング氏に発覚して家を追い出された彼は、恋人とともに5ヶ月間行方をくらまし、「愛は富などより遥かに強い」ということを証明した。
一方、次男アイング(18歳)は粗暴で無礼な男で、幼い妻フィン(16歳)に八つ当たりばかりしていた。フィンが叱責されるたび、執事ジンは忙しい合間を縫って長嫁ディンに慰めを頼まなければならなかった。
第3部 喫茶店での秘密
ある日、特売セールで買い物帰りのジンは、信じられない光景を目撃して玉ねぎの袋を落としそうになった。次男アイングが、かなりぽっちゃりした女性に優しくケーキを食べさせている姿だった。
「え……次男様が、あんな太った女性と浮気? しかも次男嫁はスーパーモデル級の美人なのに?」
その瞬間、後ろから次男嫁フィンが現れた。高級ブランドのバッグが床に落ち、派手な音を立てた。フィンが飛びかかろうとした瞬間、ジンが慌てて止めた。
「次男嫁様! 王族の品格を保ってください! 人前で修羅場なんて、顔に泥を塗るようなものです!」
フィンは歯を食いしばり、目に涙を浮かべて言った。
「ジン……命令よ。今すぐ探偵になって! あの女が誰か調べてちょうだい!」
第4部 次男の告白
その夜、ジンは次男アイングと二人きりで対峙した。普段の粗暴な態度とは裏腹に、アイングは仮面を脱ぎ捨てて悲しい過去を語り始めた。
すべては2018年、あるSNSの写真で出会った美少女リー・リンから始まった。彼は勇気を出して9月7日にホラー映画に誘ったが、直前で怖気づいて行かなかった。しかしリー・リンは一人で待ち続けてくれた。その罪悪感が彼をずっと苛んでいた。
数年後、再会したリンは三度の失恋で深く傷つき、うつ病を患っていた。抗うつ薬とストレスによる過食で急激に太り、かつての美少女は外見を嘲笑される存在になっていた。
「俺が罪悪感を抱いているから、残りの人生で彼女を幸せにしたいんだ」とアイングは告白した。
ジンは尋ねた。「では次男嫁のフィン様はどうするんですか? わざと冷たくして離婚させようとしているんですか?」
アイングは頷いた。「この政略結婚に幸せなどない。」
第5部 意外な結末
人生はままならないが、ジョウセーレの物語は予想を裏切る。
アイングの献身的な介護により、リー・リンはヨガを始め、ランニングをし、自分を愛することを学んだ。過去の傷に囚われなくなった彼女は、驚くべきことに元の美しい体型を取り戻し、心の病を抱える人々の希望の象徴となった。
しかし本当の衝撃は最終盤だった。
・アイング氏とビン夫人は、偽りの「贅沢生活」を楽しみながら幸せに余生を過ごした。
・長男シングは執事ミンとともに幸せに暮らした。
・次男アイングはリー・リンと盛大な結婚式を挙げ、彼女が正式に新しい次男嫁となった。
・長嫁ディンと次男嫁フィン:これが最大のどんでん返しだった! 夫に捨てられた者同士で慰め合っているうちに、二人はお互いを愛するようになった。「敵の敵は恋人」というわけである。
・執事ジン:世話焼きをしているうちに、K-popアイドルのリン・G嬢を落としていた。彼女がツアーから帰ってきたタイミングだった。
・四人のメイド:シン×ニン、イン×シンというカップルが完成し、全員が幸せになる「総幸福エンド」。
[現実に戻って]
テヒモシンは原稿を閉じ、今度は心からの笑みを浮かべた。
「これこそ小説だ!」
彼は惜しみなく称賛した。「起伏があり、意外性があり、特に最後の大どんでん返しが最高だった。文句のつけようがない。」
ジョウセーレは胸をなでおろし、瞳を輝かせた。
「ありがとうございます、ご主人様。お褒めいただいて光栄です。これからももっと頑張ります。」
2020年の大晦日の夜は、笑い声と新しい希望に包まれて過ぎていった。救われた魂たちの家で、亡霊女王としてのジョウセーレの作家人生は、本格的に幕を開けたのだった。




