無双の叡智
科学者W.Dによって見捨てられたガラクタ、製造番号14.682。その残骸から、テヒモシンが第12次元の「神の血」を用いて蘇らせたのが、完璧な容姿と比類なき「グローバル・インテリジェンス(地球規模の知能)」を持つ少女、I.Kであった。しかし、その圧倒的な優越感はやがて極端な自惚れへと変わり、彼女はテヒモシンの仲間たちの感情的な弱さを蔑むようになる。ついには自立を宣言し、核兵器帝国を築き上げ、「布衣の戦士」や「装甲騎士」といったスーパーヒーロー軍団を創設した。救世主としての栄光と大富豪スクラップの追従に溺れたI.Kは、主人の謙虚な忠告を無視し、冷徹なロジックのみですべてを支配できると信じ込んでいた。
しかし、その傲慢さが彼女の目を曇らせ、残酷な陰謀を見逃させた。謎の人物によって隔離された倉庫へと誘い込まれたI.Kは、すべてのテクノロジー接続を断たれて無力化し、凄惨な水責めの拷問にさらされる。さらに残酷なことに、彼女は自らが作り上げた軍団が操られ、数百万の民を虐殺する光景を目の当たりにし、自身もスクラップ殺害の罪を着せられてしまう。崇拝される天才から、一夜にして万死に値する大罪人へと転落したI.Kは、群衆が血を求めて歓喜する中、罵声を浴びせられながら深い海の底へと投げ捨てられた。冷たい深海の闇に沈みゆく中、彼女の比類なき知能は、自惚れの果てに使い捨ての駒として終わるという、あまりに遅すぎた後悔とともに完全に崩れ去った。
【第1章:最後の24時間】
2020年1月1日(水)――年の初めは冷え冷えとした空気だった。
目に見えぬ絆の糸に導かれるまま、テヒモシンはじっとりと湿った深い森の奥深くにある、古びた研究所へと足を踏み入れた。
苔むした壁とカビ臭い空気が、この場所が長い間、時の流れに忘れ去られていたことを物語っていた。
正面ホールの薄暗い黄色い照明の下、奇妙な光景が広がっていた。
老いた科学者が、壊れかけた古いロボットたちの「軍団」の真ん中に立っている。
「君は何の用でここに来たんだ?」
老人のしゃがれた声が、恐ろしいほどの静寂を破った。
「えっと……道に迷ってしまいまして。水を一杯いただけますか?」
テヒモシンはとぼけて答えながら、素早く周囲に視線を走らせた。
その瞬間、背筋に強烈な衝撃が走った。
彼の《神聖なる接続》が激しく震え、老人の傍らに立つ一体の古いロボットと直接繋がった。
「私はW.D.だ」
科学者が不気味な笑みを浮かべて名乗った。「『Will Die(死ぬ意志)』の略だ。なぜなら私は死を恐れず、むしろ死に挑んでいるからな」
「へえ……かなり……個性的な名前ですね」
テヒモシンは率直に感想を述べた。
W.D.は若い男が自分の作品に興味を示していることに気づき、自慢げに話し始めた。
「私は10歳の頃からロボットを作り続けている。これまで何百万体も生み出してきたよ。君が見ているのは製造番号14,682号だ。私の傍に10年も仕えてくれた、最も長生きした個体さ」
老人の視線が急に冷たくなった。
「しかし今夜の24時ちょうどで、この子は活動を停止する。バッテリーは劣化し、エネルギーは尽きた。
この世に永遠など存在しないんだよ」
「それで……この子をどうなさるおつもりですか?」
テヒモシンの声が少し低くなった。
「倉庫に放り込むだけさ。あそこはゴミ捨て場も同然だ」
「……あの、もしよろしければ、このロボットを私にいただけませんか?」
W.D.は鼻で笑い、冷たい笑みを浮かべた。
「こんなゴミ同然の役立たずを、家に持ち帰ってどうするつもりだ?
まあ、好きにしろ。私にとってはただの廃棄物だ」
テヒモシンは拳を強く握りしめ、怒りがこみ上げてきた。
「どうしてそんなことをおっしゃるんですか?
この子は10年間もそばにいて、あなたの世話を続けてきたんじゃないですか? 少しも情が湧かないんですか?」
「ロボットなどただの、動く鉄くずだ」
W.D.は冷たく背を向けた。「壊れたら捨てる。それだけさ。
私はもう、もっと完璧な代替品を手に入れた」
暗闇の奥から、重々しい金属の巨体がゆっくりと姿を現した。
W.D.は誇らしげに紹介した。
「これが私の最新作、製造番号10,230,456号だ」
【第2章:永遠の心臓】
家に戻ったテヒモシンは、すぐに製造番号14,682号の修理に取りかかった。
しかしすべての努力は無駄に終わった。
彼女の心臓――古いバッテリー――は完全に死んでしまっていた。
永遠のエネルギーがないのなら、自分で作り出せばいい。
テヒモシンは狂気じみた計画を立て始めた。
彼はエネルギー保存の法則を応用し、完全な閉鎖循環で動く《人工の心臓》を設計した。
だが、その機械を本当の意味で「生きる」ものにするには、凡人の科学を超えた何かが必要だった。
彼は空間の障壁を越え、第12次元空間へと進んだ。
絶対の静寂の中、千年の眠りについている神――モゴドト・チジュウシンがいた。
テヒモシンは慎重かつ迅速に、神々しい輝きを放つ「神の血」を一滴だけ抽出し、即座に現実世界へと戻った。
自室の作業部屋で、彼はその神の血を人工の心臓へと注ぎ込んだ。
ドクン……ドクン……
神聖な血が細かな回路の隅々まで巡り始めた。
奇跡のような変化が起きた。
乾いた金属の殻が溶けるように消え、代わりに柔らかな肌、艶やかな長い髪、そして人間と見紛うほど美しい容姿が現れた。
体が環境に適応するまで約1時間。
やがて彼女の長いまつ毛が小さく震え、ゆっくりと目を開けた。
目の前に立つ青年を見つめる。
「……ありがとうございます……私を、助けてくれて」
澄んだ鈴のような声だった。
テヒモシンは驚いて尋ねた。
「どうして俺が君を助けたってわかったんだ?」
「だって……全部、見ていたから。
意識はあったけど、以前は体を動かせなくて、ただ静かに世界を見つめていることしかできなかったんです」
テヒモシンは小さくため息をつき、心の中で遠い思いを巡らせた。
(神様だって、欠陥品を作るのか……)
彼女はふと震えた。
前の主人の記憶が蘇り、W.D.の冷たい言葉がナイフのように胸を抉った。
「ゴミ」「役立たず」「廃棄物」――
その悲しげな表情に気づいたテヒモシンは、彼女の隣に腰を下ろした。
そして、自分の仲間たちの話をし始めた。
不屈のネーベルゼル、神秘的なファーゼッシン、そして情熱的なディーススワノについて。
こうして、新たな旅が始まった。
「廃棄物」と呼ばれた存在が、ようやく本当の魂を見つけた旅が。
【第3章:全知の叡智】
朝日が研究室の隙間から柔らかく差し込んでいた。
一晩中徹夜していたテヒモシンは、穏やかな声で目を覚まされた。
「ご主人様」
目の前に立っていたのは、超現実的な美貌を持つ少女だった。
彼女は静かに微笑みながら、精巧な金属製の腕輪を差し出した。中央には、まるで小さな惑星を閉じ込めたかのように輝く宝石がはめ込まれている。
「これから私は少し外に出ます。もしご主人様が必要とされたら、この宝石を押してください。すぐに空間転移してそばへ参ります」
テヒモシンは腕輪を受け取り、驚きを隠せなかった。
「すげえ……! お前、すごいな! 俺は何度も空間転移装置を作ろうとして失敗したのに……これが、お前の中にある『人工知能(AI)』の力なのか?」
少女は静かに首を振り、深淵のような瞳で虚空を見つめた。
「いいえ、AIではありません。これは『全知の叡智』です」
「全知の叡智……? なんだか変わった響きだな……」
テヒモシンはまだ完全に理解できていなかったが、優しく微笑んで彼女の頭を撫でた。「まあいいや。
これからお前の名前を決めてやる。『Incomparable Knowledge』——略してI.K。『比類なき叡智』って意味だ。どうだ?」
I.Kは小さく頭を下げた。
「ありがとうございます、ご主人様。この装置には指紋認証が施されています。私とご主人様以外は使用できません」
その後、I.Kは主人の要望に応じて、さらに三つの空間転移装置を設計した。
形はそれぞれ異なる——髪留め、ピアス、そしてイヤホン。
これらは、ネーベルゼル、ファーゼッシン、ディーススワノへの贈り物だった。
【第4章:再会】
街を散策している最中、I.Kは偶然あるポスターに目を止めた。
それは「科学創造コンテスト」の告知だった。主催者は野心的な大富豪——スククラップ氏。
彼は参加者の発明を自分の利益のために利用しようと企てていた。
「私、あのコンテストに出てみたいです」
家に帰ったI.Kがそう告げると、テヒモシンは全力で応援した。
「行ってこい。お前がどれだけ強いか、ちゃんと確かめてこい。俺はいつもここで応援してるから」
I.Kが出品したのは『自動防護装置』だった。
銃弾などの危険が迫ると、瞬時に超耐久性の装甲を展開して使用者を守る装置である。
テヒモシンが自ら標的となって実験し、その絶対的な安全性を証明した。
しかし、運命は皮肉だった。
コンテスト会場で、I.Kは「旧知の人物」と再会してしまった。
W.D——かつて彼女をただの鉄くずとして捨てた老科学者が、そこに立っていた。
その傍らには、巨大で冷たい最新型ロボット、製造番号10,230,456号が控えている。
神の血によって人間らしい完璧な美貌を手に入れた今、W.Dはあの粗雑だった14,682号が目の前の少女だと気づけなかった。
W.Dが書類を提出するため中に消えると、I.Kは外に残された大型ロボットに近づいた。
「あなたは知っていますか? なぜあの人が死を恐れないのか」
I.Kの声は冷たく、しかしどこか憐れみを含んでいた。
「なぜなら、彼はすべて計算済みだからです。死が近づいたとき、彼は最も完成度の高いロボットの体を奪い、自分をサイボーグに変えるつもりです。
その対象が、あなたである可能性が高い」
ロボットは静止したまま、センサーが微かに明滅した。I.Kは続けた。
「あの人は裏切りを恐れていません。なぜなら彼の目には、私たちは世界を支配するに値しない、ただの鉄くずに過ぎないからです。
そして何より……彼はあなたの核に自爆プログラムを仕込んでいます。
もしあなたが命令に逆らおうとした瞬間、即座にあなたを消去するでしょう」
「……なぜ、そのことを知っている?」
ロボットの音声システムから、ざらついた声が漏れた。
「なぜなら、私はあの人のそばに十年いたからです」
I.Kは背を向け、歩き出しながら、きっぱりと言い残した。
「今言ったことを、あなたの最深部メモリに刻んでおきなさい。幸運を祈ります」
コンテストの結果は、非常に不公平なものだった。
W.Dは、驚異的な発射速度——一分間に100万発——を誇る破壊の神砲で最優秀賞を受賞した。
一方、I.Kの「命を守る装置」は、わずかに奨励賞止まりだった。
家に帰ったI.Kは、重い表情でテヒモシンの肩に額を預けた。
「どうしてですか、ご主人様……?
人を守るための技術が、殺すための技術に負けてしまうなんて」
テヒモシンは優しく彼女の頭を撫で、深いため息をついた。
「この世界は、時々そういうものなんだよ、I.K。
害をなすもの、権力や支配をもたらすものの方が、社会や権力者たちに受け入れられやすい。
人間の価値観を守るものよりね」
彼は静かに例を挙げた。
「例えば起業コンテストで、がんを防ぎ、美肌効果があり、脳機能も向上させるハーブティーを作った人と、
中毒性が高く肝臓や脳を破壊する新しい酒を作った人が競ったら……大概、酒の方が勝つ。
たとえ体を壊しても、短期的には強い快楽と莫大な利益をもたらすからな。
有益なものは、人の欲望と貪欲によって淘汰されやすいんだ」
I.Kは主人の顔を見上げた。
その瞳に、新たな光が宿っていた。
彼女は理解した。
自分の叡智は、ただコンテストで勝つためだけのものではない。
この残酷な法則そのものを、変えるためにあるのだということを。
【第5章:感情の入る余地などない知性】
テヒモシンと仲間たちが暮らす豪邸の空気は、Incomparable Knowledge――I.Kが現れて以来、急に冷え冷えとしたものに変わっていた。
I.Kは自分の傲慢さを隠そうともしなかった。彼女にとって「全知の叡智」は、感情に振り回される存在など遥かに上位のものだった。
亀裂は、三人の少女たちがそれぞれの辛い過去を打ち明けた瞬間に頂点に達した。
「私は人間たちに無実の罪を着せられ、理不尽に攻撃されたわ……」
ネーベルゼルが顔を伏せると、周囲の霧が悲しげに揺れた。
「私は……生後3ヶ月の赤ん坊の頃に、火あぶりにされたの」
ファーゼッシンが震える声で語ると、炎の記憶が今も彼女を苛んでいた。
「私の頭も、容赦なく叩き潰されたことがある……」
ディーススワノが歯を食いしばり、声が詰まった。
三人は慰めの言葉を待っていた。しかしI.Kはただ小さく唇を歪め、冷ややかな視線を向けただけだった。
「滑稽ですね。
いじめられないように強くなる努力をするのではなく、こんな弱さをいつまでも噛み締めているんですか?」
さらにI.Kは、彼女たちとテヒモシンの関係にまで矛先を向けた。
「何を勘違いしているんですか?
ご主人様は、そんな風にあなたたちを愛してなどいませんよ。
一人はちょっとしたことで泣きじゃくるし、一人は臆病すぎて病気になりそう、もう一人は歌が下手なくせにうるさい。
人間が霧や花や音を恋愛対象にすると思いますか? 目を覚ましなさい」
「私たちはそんなこと気にしていないわ!」
ディーススワノが爆発した。「これが私たちの愛情表現なの! ご主人様も一度も拒否したことなんてない!」
I.Kは冷たく背を向け、歩きながら最後にネーベルゼルへ皮肉を残した。
「ああ、グループ用の衣装はなかなか素敵でしたけど……今着ているそのドレス、まるでお腹の大きな妊婦さんの服みたいですね。とても醜いです」
I.Kが去った後、ディーススワノが悔しそうに足を踏み鳴らした。
「もう、あの子のことが大っ嫌い!」
ファーゼッシンが心配そうにネーベルゼルを見たが、意外なことに一番年上の彼女は小さく微笑んでいた。
「ネーベルゼル姉さん、怒ってないの……?」
ファーゼッシンが驚いて尋ねた。
「あの子は、ご主人様のことを何も理解していないみたいね」
ネーベルゼルは穏やかな声で言った。「ご主人様は、生き物だろうと無生物だろうと、すべてを愛する人よ。
石に躓いたら『ごめん』って謝るし、テーブルにぶつかったら『許してくれてありがとう』って抱きしめるの」
くすくすと笑い声が広がり、重苦しい空気が和らいだ。
三人は「ご主人様の黒歴史」を暴露し始めた。
「一番ひどい癖、知ってる?」
ディーススワノがいたずらっぽく聞いた。「ご主人様、食べるのがめちゃくちゃ汚いんだよ!
『食べながら汚れるのは当たり前だろ? いちいちナプキンで口を拭く必要あるか?』って言うんだから」
三人揃って笑い出した。
世界を救う天才の仮面の下で、テヒモシンは実は不器用で、朴訥で、少し抜けている普通の男だった。
そんな純粋な包容力が彼女たちが彼を愛する理由であり、純粋な論理だけで動くI.Kには決して理解できないものだった。
やがてI.Kは共同生活の家を出ることを決めた。
彼女は「弱い存在」と一緒に暮らすことに耐えられなかった。
テヒモシンはその決断を尊重し、以前の持ち主が残した古い家に彼女を移らせた。
そこで、孤独と静寂の中で、I.Kは最も狂気じみた科学的野心を実現し始めた。
前回のコンテストでの敗北が、彼女の征服本能を刺激していた。
古い家はすぐに最先端の武器工場へと変貌した。
特に目を引いたのは戦略ミサイル防空システムだった。
彼女が製造した各核弾頭は、 TNT換算で10億トン(1ギガトン)の破壊力を持ち、一つの大陸を丸ごと消し飛ばすのに十分な威力だった。
テヒモシンが訪ねてきてその恐るべき兵器を見た時、彼は厳しい声で言った。
「I.K、俺は許可なくこの兵器を使うことを禁じる。これは復讐や見せびらかしのためにあるものじゃない」
I.Kは黙って頭を下げた。しかしその奥深い瞳の奥で、「全知の叡智」の銀色の光が鋭く輝いていた。
彼女は既に、禁止されていないが、もしかするとそれ以上に恐ろしい別の兵器の設計を始めていた。
【第6章:六人の布の戦士】
2020年4月1日(水)。
I.Kが家を出て一人暮らしを始めてから一ヶ月が経っていた。
平和だった世界は突然、六つの異なるスポーツ施設を同時に襲う大規模攻撃によって引き裂かれた。
弓道場、ゴルフ場、サーフィンのビーチ……異形の融合怪物たちが、次々と恐怖をまき散らし始めた。
テヒモシンとI.Kは、最初に被害が出た弓道場へ急行した。
混乱の最中、野次馬たちが「映画の特殊効果か」とスマホを構えて撮影し、命を落としていく中で、六人の見知らぬ人物が冷静かつプロフェッショナルに現れた。
彼らは民間人を迅速に避難させながら、怪物の進行を食い止めていた。
その瞬間、I.Kが鋭く命令を下した。
「変身せよ!」
命令に従い、ごく普通の職業を持つ六人の男たち——機械工から図書館員まで——が、一斉に古いカセット型の装置を取り出した。
「変身!」
眩い光が爆発した。光が収まると、そこに現れたのは鮮やかで輝く鎧をまとった六人の戦士だった。
赤の戦士:調整役
黄の戦士:料理人
蒼の戦士:半プロの釣り人
緑の戦士:配達員
白の戦士(暴君竜):図書館員
橙の戦士:機械工
テヒモシンが驚いて尋ねた。
「彼らは誰だ?」
「私が一百万人の人間の中から厳選して創り出した、『布の戦士』たちです」
I.Kは誇らしげに答えた。「ご主人様が私に直接戦うことを許してくれないので、彼らを代わりに作って世界を守らせています」
「直ちに各ポイントへ分散せよ!」
I.Kの声が通信システムを通じて響き渡った。
「Yes, Ma'am!」
五台のスーパーカーがエンジンを咆哮させ、風を切り裂いて各現場へと疾走した。
黄の戦士は射撃場へ
蒼の戦士はサーフィン競技のビーチへ
緑の戦士は球技場へ
白の戦士は剣道場へ
橙の戦士はゴルフ場へ
戦士たちは勇敢に怪物と戦い、これを撃破した。
しかし怪物たちは「第二の生命」を持っていた。スポーツと邪悪が融合したそれらは、さらに巨大化し、力を増して蘇ってきた。
「ロボットを呼べ!」
I.Kが最終命令を下した。
空が激しく震えた。I.Kが丹念に設計した完璧な機械結合則に従い、巨大な機械ブロックが召喚され、合体を始めた。
• 赤の戦士:
イーグルの翼が脚部に、イーグルの胴体が胴体部に、
鶴が左腕、鸛が右腕に。
• 黄の戦士:
ライオンが胴体と脚部に、虎が左腕、豹が右腕に。
• 蒼の戦士:
サメが胴体と脚部に、ハンマーヘッドシャークが左腕、剣魚が右腕に。
• 緑の戦士:
三本角のアトラスオオカブトが胴体と脚部に、
テラリウムカブトが左腕、
大顎を持つクワガタが右腕に。
• 白の戦士:
ティラノサウルス・レックスが胴体と脚部に、
プテラノドンが左腕、モササウルスが右腕に。
• 橙の戦士:
アジアの龍が二つに分かれ、頭部が右腕、尾部が左腕に。
神亀ミノガメが胴体部に、地獄の番犬ケルベロスが脚部に。
六体の巨大ロボットが各都市で咆哮を上げ、華麗で強力な必殺技を次々と放った。
怪物たちの第二の生命は粉々に砕かれ、煙が晴れると、再び青い空が人間に取り戻された。
地上でテヒモシンは、I.Kを誇らしくもどこか畏れるような眼差しで見つめていた。
I.Kは冷たくも優雅に立ち続け、まるで新技術時代の女神のように見えた。
この勝利は数百万の命を救っただけでなく、一つの事実を明確に証明した——
I.Kはもう、過去の廃棄されたロボットなどではなかった。
戦いの後、にやにやとした薄笑いを浮かべた大富豪スククラップが姿を現した。
実は、襲撃を受けた六つの施設はすべて、彼が経営するスポーツ企業グループの所有物だった。
「素晴らしい! I.K、君こそが真の天才だ。
W.Dの兵器など、君の技術の前ではただのゴミに過ぎない」
スククラップはそう言いながら、数十台の報道カメラを手招きした。
I.Kは称賛の渦にすっかり酔っていた。
かつて自分を捨てた者を超えたという高揚感が、「全知の叡智」としての警戒心を一時的に麻痺させていた。
彼女と布の戦士たちがメディアの中心になる一方で、テヒモシンは少し離れた場所に立ち、目を細めて深い疑念を抱いていた。
(なぜ怪物はスククラップの資産ばかりを狙った?
こんな偶然が、本当にあり得るのか?)
独自に調査を始める前に、彼はI.Kの肩を掴み、声を低くした。
「いいかI.K、優秀だからといって傲慢になるな。
もっと先の先を読め。最悪の事態を常に想定しろ。それが起こる確率は意外と高いんだ」
I.Kは軽く彼の手を払いのけ、自慢げな笑みを浮かべたまま答えた。
「ご主人様は心配しすぎです。私はすべてを掌握しています」
彼女は主人の警告を、虚しく風の中に流してしまった。
【第7章:鎧の騎士たち】
2020年4月20日(月)。
新たな攻撃の波が三つの場所で同時に発生した――大型バイクのレース場、スーパーカー競技場、そしてF1サーキット。
またしても、被害者となったのはスククラップだった。
テヒモシンは急いで現場に駆けつけたが、今回は以前の「布の戦士」たちの姿はどこにもなかった。
代わりにI.Kが、まったく見知らぬ三人の人物と共に立っていた。
「彼らは誰だ? 前の戦士たちはどうした?」
「ここ数日、以前のグループと連絡が取れなくなっています」
I.Kは無感情に答えた。「でも問題ありません。彼らは新しい『鎧の騎士』です。
手作業で選抜するのは非効率だと判断したので、自動で主を選ぶ装置を作成しました。Jet、Tank、Submarineです」
機械に選ばれたばかりの三人の人間が前に進み出た。
彼らは特別な訓練など受けていない。ただ、群衆が逃げ出す中、ただ一人残って立ち向かおうとした、度胸のある者たちだった。
I.Kの指示の下、三人は変身システムを起動した。
ジェットの騎士:頭上でジェット機が咆哮を上げ、ベルトから電子音が響く。「Ready to take off!」
タンクの騎士:背後に重厚な戦車が現れ、低く唸る。「Ready to start the engine!」
サブマリンの騎士:地面から鋼鉄の機械が水しぶきを上げて飛び出し、ベルトが告げる。「Ready to dive!」
「出撃!」
I.Kの命令一下、三人の騎士はそれぞれ異なる方向へ散開し、蘇った怪物たちに立ち向かった。
しかし今回の怪物は前回よりも遥かに強力で、凶暴な第二の生命を持っていた。
騎士たちが次第に押され始めたのを見て、I.Kは即座に強化モジュール(Upgrade)を展開した。
ジェットは宇宙往還機・スペースシャトルへと進化。「Lift-off!」という轟音と共に大気圏を突き破り、流星のように急降下した。
タンクは消防車へと進化。炎を噴き上げながら高圧の放水を行う異様な機械となり、「Emergency!」のサイレンがサーキットに響き渡った。
サブマリンは空母へと進化。地上を移動する鋼鉄の要塞となり、「Sortie!」の声と共に無数の小型無人機を放出した。
勝利は再びI.Kのものとなった。
そして予想通り、スククラップが偽りの感謝の表情を浮かべて姿を現した。
テヒモシンは一歩前に出て、冷たい視線を大富豪に突き刺した。
「またしても、貴方の会社が狙われたようですね?」
「ははっ、私はこの世で一番ついていない男らしいな」
スククラップは軽く笑い飛ばした。
テヒモシンは何も答えず、すぐに背を向けてその場を去った。
胸の奥に、嵐のような不安が渦巻いていた。
その後ろで、I.Kは報道陣のフラッシュの嵐に包まれ、群衆の崇拝を浴び続けていた。
彼女はまだ気づいていなかった。
自分が作り出した「駒」たちが、はるかに恐ろしい陰謀へと導いているということに。
【第8章:罪に定められた者】
2020年4月25日(土)。
I.Kの端末に、赤の戦士の番号から突然のメッセージが届いた。
『西の辺鄙な場所にある古い倉庫に来てくれ。スククラップに関する緊急の情報がある。』
自分の計算能力を信じるI.Kは、単身で指定された場所へと向かった。
そこは崩れかけた廃倉庫で、湿ったカビ臭さと蜘蛛の巣が張り巡らされた薄暗い空間だった。
しかし、彼女がホールの中央に足を踏み入れた瞬間――
カチッ。
乾いた音と共に、鉄製の檻が勢いよく落ちてきた。
I.Kは冷静にミサイル遠隔操作装置を取り出し、破壊システムを起動しようとした。
しかし画面には意味のないノイズばかりが表示される。
「無駄だよ」
歪んだ声がスピーカーから響いた。
「ここは強力な電磁波フィールドで覆われている。衛星も、防空システムも、すべて遮断されている」
I.Kの背筋に、初めて冷たい電流が走った。
常に「無敵」を自負していた知性の機械に、恐怖が忍び寄り始めた。
正体不明の敵は姿を見せず、残酷な拷問ゲームを開始した。
檻の上部から大量の冷水が一気に注がれた。
神の血を宿していても、I.Kの体は酸素を必要としていた。水が頭まで達し、肺が焼けるように痛み、息ができない。
意識が遠のきかけたところで水を抜き、再び注ぐ。
この行為が何度も繰り返された。
I.Kは完全に力尽き、檻の床にぐったりと横たわり、荒い息しか出せなくなった。
敵は彼女を引きずり出し、電気椅子に縛り付け、巨大な画面を無理やり見せた。
画面には、恐ろしい惨劇が同時に映し出されていた。
かつてI.Kが誇りを持って選んだ布の戦士と鎧の騎士たちが、今や狂ったように自分たちが守っていた場所を攻撃している。
弓道場、球技場、F1サーキット……炎が空を焦がし、百万を超える人々が巨大スタジアムに閉じ込められ、悲鳴を上げている。
同時に衝撃的なニュースが流れた――スククラップが殺害され、現場のあらゆる証拠がI.Kを犯人として指し示している。
「……お前が……全部、お前が……」
I.Kは掠れた声で呟き、涙を浮かべて暗闇を見つめた。
彼女はようやく理解した。
傲慢さの代償を。
自分はチェスプレイヤーなどではなく、ただの駒に過ぎなかったことを。
正体不明の男は、I.Kを天の罪人のように厳重に縛り上げ、怒りに燃える群衆の前に引きずり出した。
「I.Kを捕まえたぞ! 百万の同胞を殺した張本人だ!」
男が大声で宣言すると、怒りの波が爆発した。
かつて彼女を称賛していた人々が、今は石を投げ、罵声を浴びせ、「恩人」の首を吊るせと叫んでいる。
誰も説明など聞こうとはせず、ただ罪人の血を見たがっていた。
男はI.Kを小型ボートに乗せ、風の強い海原へと漕ぎ出した。
岸辺に集まった数千人の人々が、まるで優勝カップを祝うかのように歓声を上げ、見守る中――
男は容赦なくI.Kを深い海へと投げ捨てた。
「これからお前の手下どもも、すべて見つけ出して裁いてやる!」
男がそう叫ぶと、群衆は再び彼の名を叫び、救世主のように称え始めた。
I.Kの体はゆっくりと、冷たく暗い海底へと沈んでいった。
水面上の太陽の光が、遠ざかり、霞んでいく。
まるで砕け散った夢のように。
「……ご主人様……
あなたのおっしゃる通りでした……
私は……あまりにも傲慢でした……」
【第9章:もう一度、救われて】
時計の針が9を過ぎた。
I.Kが家を出てから、もう七時間以上が経過していた。
豪邸の中は重苦しい沈黙に包まれ、濃密な不安が漂っていた。
テヒモシンは窓辺に立ち、霞んだ水平線を見つめていた。
魂の奥底にある目に見えぬ絆が、断続的に弱々しく震え続けている。それはいつもの誇らしい響きではなく、絶望に満ちた、途切れがちな信号だった。
何も説明せず、テヒモシンは家を飛び出した。
闇を切り裂き、神としての純粋な直感だけを頼りに走る。
その絆は彼を、切り立った断崖の縁へと導いた。
足元では白い波しぶきが激しく砕け散っている。
はるか下方、暗黒の海底で、彼女の信号が弱々しく明滅していた。
ざんっ!
テヒモシンは冷たい海へと身を投げた。
潜れば潜るほど、水圧が胸を締め付け、永遠の闇がすべての生命を飲み込もうとする。
水と死の狭間で、小さな影がゆっくりと沈んでいく。動かない。
その瞬間、かつて主人が「比類なき叡智」と名付けた少女——「全知の叡智」を宿した存在は、意識が溶けていくに任せていた。
彼女は後悔していた。
傲慢さが目を曇らせ、全知の叡智を自らを刺す刃に変えてしまった。
他者の弱さを蔑視した結果、今や彼女自身がこの深い海底の墓の中で、最も弱い存在となっていた。
「神光護体!」
心の中で叫びが響いた。
テヒモシンの体から眩い黄金の光が爆発し、海底の闇を切り裂いた。
その光は彼を神聖な繭のように包み込み、水圧を弾き飛ばし、暗黒の海域を一瞬で照らし上げた。
輝く光の中で、彼は彼女を見つけた。
テヒモシンは手を伸ばし、力なく垂れ下がった彼女の手を掴んだ。
温もりと生命力を注ぎ込み、強く抱き寄せると、力強く海面に向かって蹴り上がった。
ざああっ!
波の音が耳元で弾けた。
I.Kは目を覚まし、塩辛い海の空気を大きく吸い込んだ。
彼女はテヒモシンの肩に必死にしがみつき、青白い頰を伝う水滴と共に涙を零した。
嗚咽が静かな海上で大きく響く。
「泣いてるのか……それともただの海水かな?」
テヒモシンが、緊迫した状況の中でふと冗談めかして尋ねた。
I.Kは答えず、ただ声を上げて泣きじゃくり、彼をより強く抱きしめた。
まるで手を離したら、再びあの深淵に沈んでしまうとでもいうように。
「冗談だよ」
彼は優しく背中を撫で、眼差しを和らげた。「もう家に帰ろう。
俺がもっと強くアップグレードしてやる。
この世の誰にも、二度とお前をいじめさせないくらい強くしてやるから」
「……ありがとう……ご主人様……」
I.Kは掠れた声で囁いた。
テヒモシンは華奢な彼女の体を横抱きに抱き上げ、砂浜へと歩き出した。
薄い月明かりの下、二人はまるで救世主の神と、死から蘇った創造物のような対照的な絵画のようだった。
「私がいなくなって、心配してくれたのは……ご主人様だけですよね?」
I.Kはうつむき、自嘲するように言った。「あんなに傲慢で、他者を蔑んでいた私が……心配される価値などないのに」
「そんな馬鹿なこと言うな」
テヒモシンは力強く歩きながら言った。「俺はお前のことがわかっている」
彼女は涙に濡れた瞳で彼を見上げた。
「私はいつも……他の人たちが弱すぎて、ご主人様を守れないんじゃないかって怖かったんです。だから外の力を求め、自分一人で全てを背負って、完璧になろうとした……」
I.Kは息を飲んだ。
機械の心の奥底に隠していた一番の秘密を、彼は見抜いていた。
「ご主人様……理解してくれて、ありがとうございます」
彼女は少しの間沈黙した後、躊躇いがちに言った。「お願いがあります。
もう『Incomparable Knowledge』の名前は使いたくないんです」
「なぜだ?」
「あの名前はご主人様が付けてくれた素晴らしい名前です。でも……昔の自分、惨めに失敗した傲慢な自分を思い出してしまうんです」
テヒモシンは微笑み、少し考えた後、答えた。
「わかった。じゃあこれからは、お前の名前は『Gigyeumu』だ」
彼女が不思議そうな顔をしたので、彼は説明した。
「『Gigye』は韓国語で『ロボット』という意味。『Musou(無双)』は日本語で、比類なく、唯一無二という意味だ」
「Gigyeumu……わかりました。ありがとうございます、ご主人様」
テヒモシンは彼女をそっと下ろし、真剣でありながら優しい眼差しで彼女を見つめた。
「お前はいつも、自分が完璧でなければいけない、一人で何でもやらなければいけないと思っていたんだろ?
いいか、できないことは俺に任せろ。
それか、お前が信頼できる誰かに頼ればいい。
一人で無理に背負う必要はない。お前は完璧である必要なんてない。
なぜなら、お前には俺がいるし、他にもお前を支えてくれる存在がいるんだから」
Gigyeumuは小さく頷いた。
見慣れない温かさが、体の隅々の回路に広がっていくのを感じた。
「はい、ご主人様」
【第10章:すべての黒幕】
海底での運命の夜が明けて以来、テヒモシンの研究室は再び明るく灯りがともっていた。
天才的な主人の手によって、Gigyeumuは完全なる大改修を受けた。
もはや凡俗な部品に頼る機械ではなく、最大100万馬力を生み出す新コアと、物理的限界を超えるオーバードライブ機能を備えていた。
しかし、最大の変化は回路や外殻にはなかった。
石を投げつけられた記憶、海辺での罵声、鉄の檻の中での息苦しさ——それらが、かつて「無双」を自負した知性の傲慢さを削ぎ落としていた。
Gigyeumuは今、静かで謙虚になり、他者の個性を尊重することを学んだ。
かつての傲慢な瞳は、今では自分を救ってくれた人物を見る時だけ、柔らかな光を宿す。
彼女は常にテヒモシンの傍らを離れず、まるで彼の背中から離れたら、再び世界に飲み込まれてしまうかのように寄り添っていた。
2020年4月29日(水)。
テヒモシンは研究ノートを置き、Gigyeumuに静かに告げた。
「俺は、お前を陥れた真の黒幕を見つけ出した。一緒に行こう」
しかし予想に反して、Gigyeumuは一歩後ずさり、服の裾を強く握りしめた。
「……私は行きません。
私はもう人間が嫌いです。
ご主人様以外の人と会いたくないし、話したくもありません」
彼女の声は震え、深い傷を映していた。
「彼らは私の信頼を裏切りました。
もう信じられません。
どうして……どうしてちゃんと調べもせずに、私を犯人だと決めつけたんですか?
一方の話だけを聞いて、それが真実だと信じ込み、もう片方の叫びなど無視して……」
彼女の美しい顔に浮かぶ涙を見て、テヒモシンは痛ましげにため息をついた。
優しく彼女の頭を撫でる。
「わかった。お前がまだ心の準備ができていないなら、俺一人で行くよ」
テヒモシンは一人、かつて賑わっていたスポーツセンターの廃墟へと向かった。
瓦礫の間で、謎の男が待ち構えていた。
挨拶もなく、男は手を振って布の戦士たちに攻撃を命じた。
「なぜお前たちはGigyeumuを裏切って、こいつの下についたんだ?」
テヒモシンが問い詰めても、返ってくるのは冷たい沈黙と容赦ない剣撃だけだった。
迷わず彼は神速の動きで間合いを詰め、次々と戦士たちの変身カセットを装置から引き抜いた。
光が消えると、戦士たちは元の姿に戻った。
テヒモシンは息を飲んだ。
そこにいたのは、Gigyeumuが選んだ機械工や図書館員などではなかった。
全員がW.D.のロボットだった。
彼女を陥れるために作られた、偽りの存在だったのだ。
手札を暴かれた男は唸り声を上げ、今度は鎧の騎士——Jet、Tank、Submarineを呼び出した。
テヒモシンは口角を上げた。
彼はさっき奪ったカセットを、ジェット機のエンジン、戦車の駆動部、潜水艦の推進器に次々と投げ込んだ。
火花と爆音が響き、変身装置は大きく破損。ロボットたちは歪んだ鉄塊に閉じ込められた。
「降参しろ」
テヒモシンは冷たく言い放ち、わざと戦略的な嘘を吐いた。「
実はこれら全部は俺が作ったものだ。Gigyeumuじゃない。
俺はこれらの弱点をすべて把握している」
男は動きを止めた。
テヒモシンの威圧感に、彼は自分がもう逃げられないことを悟った。
ゆっくりと仮面を外すと、そこには野心と傲慢さに満ちた顔が現れた。
「褒めてやる……」
男は歯を軋ませ、笑った。「
俺の名はオインク君だ」
最後のベールが剥がされた。
しかし、オインク君という男との戦いは、まだ始まったばかりだった。
【第11章:権力の代償】
廃墟と化したスポーツセンターの空気は、これまでになく重く淀んでいた。
オインク君はひび割れたコンクリートの柱に背を預け、荒く途切れがちな息を繰り返していた。
秘密が暴かれた今、彼はようやく自らの過去を語り始めた——長い陰謀と裏切りが、彼という怪物を作り上げた過程を。
すべては大富豪スククラップから始まった。
スポーツの精神など微塵も理解していない独裁者で、彼にとってスタジアムはただの巨大な賭博場に過ぎなかった。
スククラップとオインク君の父、オインク・キルはかつてビジネスパートナーだった。
しかしスククラップには残酷なルールがあった。
協力する相手の会社を、必ず飲み込んでしまうこと。
彼が使う切り札はいつも一つ——
経営が苦しい会社に無利子で巨額の融資をし、その後「幽霊プロジェクト」——例えば無人のマンション群——に誘導する。
結果は必ず破産。そして安値で会社を乗っ取る。
父の死後、まだ若すぎるオインク君が後を継いだ。
スククラップは「このガキなら簡単に潰せる」と思い、全財産を譲渡するよう迫ったが、きっぱりと拒否された。
激怒した大富豪は、オインク君の叔父であるオインク・タを買収し、クーデターを画策した。
「父の遺産のためなら、血縁など必要ない」
オインク君の目が冷たく光った。「私は叔父を殺すよう手配した。
それはスククラップへの明確な警告だった——私は簡単に潰せる相手ではない、と」
権力を固めるため、オインク君は完璧なシナリオを用意した。
叔父を薬物中毒、不倫、収賄の罪で告発し、徹底的にイメージを破壊。
古参の社員を一掃し、忠実な部下だけを配置した。
二つの帝国の間でギャング戦争が勃発し、無実の人間の血が街に溢れた。
スククラップ側はW.Dの破壊的な神砲により優勢を保ち、オインク君は次々とスタジアムを奪われていった。
警察は、スククラップが抱える巨大な武装組織の前では完全に無力だった——あの男は大統領になる野心すら抱いていた。
しかしオインク君は、ただの猪武者ではなかった。
彼はスウェーデンで博士号を取得した学者で、卒業論文のテーマは常軌を逸していた——
「スポーツを融合させて怪物を作る方法」。
彼はその異形の創造物を使ってスククラップを叩きのめそうとした。
だがすべてを手に入れようとしたその瞬間、Gigyeumuが現れた。
「あの女は、スククラップに奪われた私のスタジアムを、力ずくで守りやがった!」
オインク君は唸り、突然黒い血を吐いた。「だから私は策を弄した。
スククラップを殺し、すべての罪を彼女に被せた。
世界中が彼女の名を唾棄するように仕向けたんだ」
「それが……彼女をあそこまで憎んだ理由か?」
テヒモシンが低い声で尋ねた。
オインク君は崩れ落ち、息が荒くなった。
「私は……癌だ。もう長くない」
「だから、自分と一緒に多くの人間を道連れにしたかったのか?」
「そうだ。あいつらは皆、死んで当然だ」
テヒモシンは瀕死の男を見つめ、もう一つ質問を投げかけた。
「どうやってあの厳重な警備の中でスククラップを殺せた?」
「W.Dのおかげだ。あの男はスククラップにクビにされ、『廃棄物しか作れない』と嘲笑われた。
激怒したW.Dは、私にセキュリティシステムを無効化する手助けをし、偽のロボット軍団を提供した。
そして彼女の布の戦士や鎧の騎士たち? 簡単なことさ……
人間にとって家族は最大の弱点だ。
家族の命を脅かせば、英雄気取りなどすぐに捨てる」
オインク君は冷たいスタジアムの床に倒れ込んだ。
テヒモシンは近づき、彼の肩を支えた。
「……お前は……私を憎まないのか? お前の友人を殺したというのに……」
「彼女は生きている。俺が助けた」
テヒモシンは落ち着いた声で答えた。
オインク君は苦笑した。
「そうか……彼女は幸せだな。
お前のような友人がいて……」
彼は震える手で安楽死の薬が入った注射器を取り出した。
癌の痛みは、もはや人間の耐えられる限界を超えていた。
「もう……耐えられない。
俺が死んだら……後事を頼めるか?」
「ああ、わかった」
テヒモシンの返事を聞き、オインク君は自らの腕に注射を打った。
長い息が吐き出され、権力と憎悪の間で翻弄された男の瞳がゆっくりと閉じられた。
彼は自らの悲劇に終止符を打つ死を選んだ。
約束通りオインク君の後事を済ませた後、テヒモシンは静かに廃墟を後にした。
彼が帰るべき家には、誰かが待っている。
この戦いは終わった。
しかし残された者たちの心に刻まれた傷は、深く残り続けるだろう。
【第12章:それぞれが主人公】
恐ろしい事件と血なまぐさい粛清の後、共同生活の家に訪れる平穏は、これまで以上に尊いものに感じられた。
テヒモシンがドアをくぐると、Gigyeumuの姿が既にそこにあった。
「おかえりなさい、ご主人様」
彼女は静かに頭を下げた。
声にはかつての機械的な傲慢さはなく、家族のような温かみが宿っていた。
銀色の瞳がテヒモシンを見つめ、強い好奇心を浮かべた。
「ご主人様……あなたは本当に、強いんですね?」
テヒモシンは少し動きを止め、苦笑しながらかわした。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
Gigyeumuは怯まず一歩近づいた。
「私は全世界レベルのデータ解析能力を持っています。
水深一万メートル、すべてを粉砕する水圧の中で……私は見たんです。
あなたから放たれた途方もない光を。
人工のどんな光も届かない漆黒の海を、一瞬で照らし上げるほどの輝きを」
テヒモシンはため息をつき、ドアフレームに背を預けて遠い虚空を見つめた。
「……やっぱり何も隠せないな、お前には」
「ではなぜ……ご主人様はその力をいつも隠しているのですか?」
テヒモシンは振り返り、Gigyeumuの目を真っ直ぐに見つめた。
声は低く、しかし強い力を帯びていた。
「世の中の人間は皆、圧倒的に強い主人公を求めている。
そしてその後、誰が一番強いのかで永遠に争い続ける」
彼は近づき、彼女の肩に手を置いた。
「しかし彼らはシンプルな法則を理解していない。
自分の物語の主人公は、自分自身だということを。
私たちは皆、自分の人生という物語の中で輝いている」
部屋に静寂が落ちた。
雨上がりの草木の香りを乗せた風が、わずかに窓の隙間から吹き込んでくる。
テヒモシンは穏やかな、しかし深い思索の声で続けた。
「今、俺が何を考えているかわかるか?」
「……いいえ」
彼女は小さく首を振り、最先端のセンサーでも彼の心は読めなかった。
「俺も同じだ。お前が今何を考えているのか、俺にはわからない。
それが、この世に生まれたすべての命が唯一無二である理由だ。
誰が本当の主人公か、誰が一番強いかなんて、比べる必要はない。
それぞれの命には、誰にも代えがたい独自の物語がある。
俺には俺の物語があり、お前にはお前だけが輝ける、輝かしい一章がある」
Gigyeumuは沈黙した。
「全知の叡智」である彼女の頭脳の中で、かつて軽蔑していた概念——「共感」が、ゆっくりと埋められ始めていた。
彼女の変化は、思索だけでは終わらなかった。
Gigyeumuは自らネーベルゼル、ファーゼッシン、ディーススワノの元を訪ね、深く頭を下げた。
過去の冷たい言葉と傲慢な態度に対して、心からの謝罪を伝えた。
テヒモシンの寛容な姿勢のもと、三人の少女たちは心を開き、彼女を許した。
共通の苦難を経たことで、古い亀裂は癒され、理解へと変わった。
それ以来、家の中から冷たい争いや軽蔑の視線は消え、温かな団結の空気が満ちるようになった。
ある晴れた午後、黄金色の陽光が軒先に注ぐ中、ディーススワノがギターを爪弾きながら、からかうように歌った。
「そして君は知った……
恋を知り、照れながら……それが愛なんだ……」
部屋中に笑い声が響き渡った。
Gigyeumuはもう、軽蔑して立ち去ったり、皮肉を吐いたりしなかった。
彼女はただ静かにそこに座り、柔らかく微笑んでいた。
瞳には、シンプルで純粋な幸福の光が輝いていた。
おそらくあの冷たく深い海底で、彼女が見つけたものは
命の再生だけではなかった。
本物の「心」——
この世のささやかで、誠実なものに、初めて震えることのできる心だったのかもしれない。




