音の女神
あらすじ:
ディーススワノの人生は、無感覚なブライフィウィタ族の砂漠地帯に漂う、痛みに満ちた沈黙の中で幕を開ける。あらゆるものを破壊し得る音波の力をその身に宿しながらも、彼女は自らを虐げる者たちを傷つけまいと、叫び声を上げるよりも鞭が皮膚を裂く痛みを選び続けていた。
テヒモシンの出現は単なる救出ではなく、禁術を用いて彼女の受けたすべての傷と毒を自らの骨髄にまで引き受けるという、静かな自己犠牲でもあった。彼はネベルセレとフアゼッシンと共に、彼女を守る安らぎの居場所を与える。
「役に立たない存在」だという強い劣等感に囚われていた少女ディーススワノは、テヒモシンの導きによって、自らの真の王座を見出していく――それは、あらゆる楽器を操ることのできる達人となり、想像を絶する圧迫や苦しみを、魂を語る旋律へと変える力であった。
しかし悲劇は再び彼女を襲う。かつて自分を虐待したその部族が、決して討ち滅ぼすことのできない雑音の怪物たちの襲撃を受けたとき、彼女は彼らを救うか否かという選択を迫られる。「善は、救うに値する者を選ばない」という主の導きの下、ディーススワノはきらめく空中の五線譜の上で戦場へと踏み出し、生命を守るために究極の力を解き放つ。
戦いは膠着状態に陥るが、そのとき、人の姿をした謎の存在が立ち現れ、進路を遮りながら、憎しみの裏に隠された暗黒の秘密を明かそうとする。それは、怪物の起源と、音が秘める真の力へと迫る、新たな章の始まりであった。
第1章:音が罪になるとき
2019年9月1日。
灼熱の砂漠に照りつける太陽の下、細かな砂粒は死の罠と化していた。忘れられた魂たちの主——テヒモシン——は、大きな試練の前に立っていた。運命の糸が彼をここへ導いたが、足は熱い砂に深く沈み込んでいく。「光速」の絶技も、この過酷な地形では完全に無力化されていた。
他に方法はなく、彼は助けを求めるしかなかった。
「面倒をかけるな、ネーベルゼーレ」
「ご主人様、どうぞ安心して私にお任せください!」
ネーベルゼーレが絶技「雲乗り」を発動する。真っ白でふわふわした雲が現れ、二人の体を乗せて、ブライフィウィタの領域の奥深くへと飛び立った。
そこは奇妙な遊牧民の部族だった。古い言葉で「ブライフィウィタ」という名前は「魚の煮物」という意味らしい——一見平凡に聞こえるが、実際には暴力と無知、道徳の欠如に満ちた部族を表していた。彼らにとって、血と権力だけが唯一の言語だった。
ボロボロのテントが並ぶ一角で、見知らぬ清楚な少女が現地の子供たちと話しかけようとしていた。可愛らしいと思ったからだ。しかし彼女は知らなかった。自分自身が恐ろしい力を持っていることを。
彼女が発する一言一言が、無意識のうちに音波となって衝撃を起こす。かわいそうな子供たちはその圧力に耐えきれず、倒れ、耳から血を流した。
「この鬼め! うちの子たちに何をしたんだ!」
屈強なブライフィウィタの男たちが殺到した。棍棒が強く頭に振り下ろされ、少女は倒れた。視界が血でぼやける。彼らは彼女を50℃を超える灼熱の太陽の下、木の柱にきつく縛り上げた。鞭が何度も振り下ろされ、皮膚を引き裂き、深い傷を残した。
しかし少女は一切声を上げなかった。唇を噛みしめ、血をにじませながら痛みを飲み込んだ。もし自分が音を出せば、喉から発せられる音波が周囲の者たちを粉砕してしまうことを知っていたからだ。彼女は、自分を虐待している者たちを守るために、ただ耐え続けた。
ネーベルゼーレの雲が降下したとき、テヒモシンの胸が締め付けられた。目の前には、細い体がぶら下がり、頭のてっぺんから血が肩の裸の部分まで流れ落ちている姿があった。
「怖がらないで……僕が君を助けに来たよ。」
テヒモシンは素早く縄を解き、少女を抱き上げて走り出した。しかしその一瞬の油断が代償を招いた。ブライフィウィタの毒矢が風を切り、背中に深々と突き刺さった。
「女神を返せ!」
遊牧民たちは馬に乗り、狂ったように叫びながら追いかけてきた。
「女神? なぜ奴らは彼女を女神と呼ぶんだ?」——激痛の中で、そんな考えがテヒモシンの頭をよぎった。さらに何本もの矢が足や骨に突き刺さる。赤い血が服を染め、地面に広がっていった。
恩人をこれ以上傷つけられるのを見ていられず、腕の中の少女は我慢できなくなった。彼女は追っ手の方を向き、天を揺るがすような叫びを上げた。
ドオオオオン!
音波の爆発が砂漠を吹き荒れ、騎兵たちを吹き飛ばし、完全に平衡を失わせた。
「やめ……君は怪我をしているんだ、これ以上力を使うな……」
テヒモシンは弱々しく囁き、空を見上げて大声で叫んだ。「ネーベルゼーレ! 雲を低く降ろせ!」
「ご主人様! どうしてこんなことになってしまったんですか!」
ネーベルゼーレは涙を流しながら叫んだ。主人の血が白い雲を真っ赤に染めていた。
「ネーベルゼーレ! 早く絶技『霧』を使え!」
濃い霧が戦場全体を覆い、敵の目をくらませ、彼らは間一髪で死の砂漠から脱出することができた。
第2章:女神に家ができたとき
家に帰ってから、テヒモシンはようやく何が起こったのかを尋ね、少女は事情をすべて話した。
そのときテヒモシンはようやく、あの奇妙な呼び名の意味を理解した。
「あの者たちは君を女神と呼んでいたんだ。君の超自然的な力を見てね。」
ネーベルゼーレ:「ご主人様、私わかりません。彼らはなぜ彼女を女神と呼んでおきながら、頭を殴って血だらけにし、鞭で皮膚を裂くんですか?」
テヒモシンは説明した。「そういう場所では、彼らが神と呼んだ者を火あぶりにすることもある。彼らにとって神とは不死で、傷つくことも死ぬこともできない存在なんだ。」
まだ放心状態の少女を見て、テヒモシンは優しく微笑んだ。彼は密かに禁術を使い、少女の体にあったすべての傷を自分の体に移した。
「動いてみて、まだ痛いかい?」
少女は立ち上がり、皮膚が裂けていた傷が完全に消え、頭の痛みもなくなっていることに驚いた。
「すごい……ありがとうございます!」
「これからは君の名前をディーススワノにするよ。フランス語で『Déesse』は女神、イタリア語で『Suono』は音という意味だ。ここで新しい人生を生きてくれ。」
そう言い終えると、服の下で血がにじむ傷がバレないよう、テヒモシンは急いで背を向けた。「ネーベルゼーレ、彼女の面倒を見てあげて。ファゼッシンには僕が怪我したって言わないでくれ。少し休んでくるよ……彼女に心配をかけたくないんだ。」
ディーススワノ:「ねえ、さっきの優しい人は誰ですか?」
ネーベルゼーレ:「あの方は私たちのご主人様ですよ。私たちを命がけで守ってくださる方です。」
花園で、ファゼッシンが土の匂いのする手で戻ってきた。彼女は新しいメンバーを呆然と見つめた。
「これ……人間があなたにした傷なの?」
「はい……でも、お姉さんは誰ですか?」——ディーススワノがおずおずと尋ねた。
ネーベルゼーレが優しく紹介した。「こちらは私たちのお姉さんよ。私たちはみんな、外の世界に追い出された者たちです。ファゼッシンお姉さんは生後3ヶ月で人間に火あぶりにされかけたことがあります。そして私……私は何もしていないのに、天災を引き起こす怪物だと思われていました。」
三人の少女は手をつなぎ、家の中を案内してもらった。ディーススワノはある不思議な部屋の前で足を止めた。壁には小さな穴が無数にあいていた。
「あれは姉さんの部屋よ」——ネーベルゼーレが説明した。「お姉さんは人間が怖くて、ご主人様に頼んでこうしてもらったの。外を覗いてからでないと部屋から出られないように。」
「し、慎重なのは悪いことじゃないわ……」——ファゼッシンが恥ずかしそうに答えた。
ディーススワノ:「今夜、私はどこで寝ればいいですか?」
ネーベルゼーレ:「とりあえず私と一緒に寝て。ご主人様が『材料を買いに行く』から戻ったら、あなた専用の部屋を作ってくれるはずよ。」
ファゼッシン:「昔は私もお姉さんと一緒に寝てたわね。」
彼女たちは知らなかった。家のどこか暗い隅で、「ご主人様」が、骨に深く刺さった矢の痛みに耐えながら、ただ静かに彼女たち——守りたい「女神」たち——の穏やかな笑顔と引き換えに、苦しみを背負っていることを。
第3章:誰もが本当に無駄な存在などいない
2019年10月1日(火曜日)。
ひと月が夢のように過ぎ去った。草原の小さな家は相変わらず穏やかだったが、全員がどこか物足りなさを感じていた。
「ご主人様がお帰り!」
ファゼッシンの澄んだ声が静けさを打ち破った。ディーススワノが驚いて振り向く。
「どうしてわかるの?」
ファゼッシンは優しく微笑み、自分の髪と手に小さなつぼみがぽつぽつと咲き始めているのを指差した。
「見て。このつぼみ、ほら。ご主人様が近くにいると、こうして一斉に開くのよ。」
言葉が終わらないうちに、馴染みのあるシルエットが玄関に現れた。白金色の髪、深くて優しい満月のような瞳、そして穏やかな笑顔。テヒモシンが入ってきて、いつものようにファゼッシンの頭を優しく撫でた。
三人の少女は、まるで母親を捜していた子猫のように一斉に彼の胸に飛び込み、絶対的な信頼を寄せる男にぎゅっと抱きついた。
「ご主人様、この一ヶ月どこに行ってたの?」
ファゼッシンが涙を浮かべて見上げながら聞いた。ずっと抑えていた不安が声に滲み出ていた。
テヒモシンは小さく息を吐き、申し訳なさそうな目をした。
「傷の治療に行ってたんだ……ごめん、隠してて。だけど、これからは一緒に暮らすんだから、お互い正直になろうと決めたよ。」
ファゼッシンは目を伏せ、彼の服の裾を強く握った。
「どうして隠したの……怪我したこと、教えてくれればよかったのに。」
「ただ、君たちに心配をかけたくなかっただけさ。」
テヒモシンは優しく彼女の髪を撫で、それからネーベルゼーレとディーススワノの方を向いた。
「ネーベルゼーレ、ディーススワノ、ありがとう。よく秘密を守ってくれたね。」
ネーベルゼーレが一歩前に出て、少し恨めしそうな目で言った。
「今回は本当に治るのが遅かったですね。まるまる一ヶ月もかかるなんて……。前は私のために怪我した時なんて、一週間で治ったのに。」
「今回は骨まで深く傷ついたからね。前は皮膚だけの傷だったよ。」
テヒモシンは少し疲れた声で説明しながらも、穏やかに微笑んだ。
彼はディーススワノの方を向き、温かい笑顔を浮かべた。
「この一ヶ月、君は何をしてた?」
ディーススワノはくすくす笑うだけで、言葉が出てこない。
ファゼッシンが慌てて「告げ口」した。
「この子、何もしてないよ! お姉ちゃんの花壇を手伝おうとして木を折っちゃうし、花を踏んづけちゃうし……。せっかく育てたのに、すごく大変だったんだから!」
ネーベルゼーレも面白そうに首を振りながら加わった。
「裁縫も全然ダメ。針に糸を通すこともできないし、縫おうとすると指ばっかり刺しちゃうんだよ。」
テヒモシンは軽く笑った。
「わかったよ。君に合った仕事を探してあげよう。」
その後、ご主人様はディーススワノを連れて外へ出た。彼は彼女と一緒に、簡単な仕事から器用さを必要とする作業まで、さまざまなことを試した。しかしどれも彼女には合わなかった。
すると、あるアイデアが彼の頭に閃いた。
——音の力を秘めているディーススワノを、アイドルにしてみるのはどうだろう?
彼はすぐに計画を実行し始めた。
まず、簡単な自己紹介動画を作成した。
【動画1:音の女神・ディーススワノ ポートレート】
柔らかいBGMの上にタイトルが表示される。
清楚で可憐な衣装を着たディーススワノが、カメラの前で無邪気で輝く笑顔を浮かべている。
テヒモシンの温かいナレーションが流れる。
「こんにちは、皆さん。今日は新しい才能あふれる顔ぶれをご紹介します。ディーススワノです。彼女は何歳? 国籍は? なぜアイドルになりたいと思ったのか? すべてこれから少しずつ明かされていきます……」
続いて、本格的なパフォーマンス動画。
【動画2:ディーススワノ ― 魂の響き ― 歌・ダンス・ラップ】
華やかなステージ照明の下、ディーススワノの雰囲気が一変した。内気な少女から、自信に満ちた輝く存在へ。
パート1:透き通るような高音の歌声に、幻想的な音波の響きが混じり、聴く者の心を揺さぶる。
パート2:力強くも優雅でキレのあるダンス。完璧な身体制御が光る。
パート3:短いラップ。高速でシャープなフロウと、声色の変化が驚異的だった。
最後、ディーススワノはカメラを真っ直ぐ見つめ、強いメッセージを世界に送るように見つめた。
2019年10月21日(月曜日)。
静かな部屋にマウスのクリック音が響いた。エンターテイメント会社からのメールが画面に表示される。短く冷たい文面だった。
『大変申し訳ございませんが、弊社の基準に適合しないと判断いたしました。』
結果:不採用。
ディーススワノは机に突っ伏し、肩を震わせた。
「……私、ほんとにダメで、無能だ……。音の力を持ってるのに、歌もダンスもラップもできない。音楽が好きだという気持ちだけしかなくて……」
テヒモシンは彼女の肩にそっと手を置いた。声は湖のように穏やかだった。
「落ち込むな。努力を続けていれば、いつか必ず実る日が来るよ。」
「でも、どれだけ頑張っても意味がないよ!」
彼女は涙目で彼を見上げた。
「この世に本当に無駄な人間なんていないんだよ。」
テヒモシンは彼女の目を真っ直ぐに見つめ、強く言った。
「ただ、まだ自分が本当に得意なことを見つけていないだけさ。今君に必要なのは、それをちゃんと探すことだ。」
「どうやって……自分が何に向いているかわかるの?」
「すべてを試してみることだよ。何かをやっている時に、心が本当に喜んで、自由で、苦痛を感じない……そんな瞬間があったら、それが君の本当の居場所だ。」
テヒモシンは彼女をボーカルレッスンに連れて行った。しかし悲劇は繰り返された。彼女は技術を間違え続け、息のコントロールができず、高低がめちゃくちゃだった。厳しいボーカル講師は結局首を横に振った。
「もうあらゆる方法を試しましたが、あなたの声は改善が難しいようです。時間を無駄にしない方がいい。」
彼女はレッスンを追い出された。
次に彼は彼女をダンススタジオへ連れて行った。音楽が流れても、ディーススワノの足は自分のものではなかった。動きを間違え続け、他の生徒にぶつかってしまう。振付師は激怒し、容赦ない叱責が雨のように降り注いだ。
「大丈夫だよ。間違えたらまたやればいい。」
テヒモシンは根気強く励まし続けた。
しかし、ディーススワノの瞳から光が失われ、周囲の視線を恐れ始めるのを見て、彼は何も言わず、静かに彼女の小さな手を握ってスタジオから連れ出した。
夕焼けの下を歩きながら、ディーススワノが小さな声で聞いた。
「……怒らないの? 叱らないの?」
「どうして怒らなきゃいけない? どうして叱らなきゃいけない?」
「だって私、使えない子だもん! いつも失敗して、人に怒鳴られてばかりで……ご主人様に迷惑ばっかりかけてる!」
彼女はとうとう泣き出した。
テヒモシンは足を止め、遠くを見つめながらゆっくりと語り始めた。
「少し話してあげるよ。ある社員がミスをして、お客さんからクレームが来た。上司はその社員に八つ当たりした。その社員は家に帰って家族に八つ当たりして、家族は崩壊した……。ねえ、自分には他人を罵倒する権利なんてないんだよ。」
彼は彼女の頭を優しく撫で、限りない慈しみを込めた目で言った。
「誰にだってそれぞれの重荷がある。行動する前に、相手の気持ちを考えてごらん。自分のエゴで人を傷つけてはいけない。社員がミスした? それならまたやればいい。失敗があってこそ経験になる。そして経験があってこそ成功がある。誰だって一生上司じゃないし、一生部下でもないんだよ。」
ディーススワノは呆然とした後、ぱちぱちと手を叩き、目を輝かせた。
「わあ……ご主人様、すごくかっこいい!」
その時、二人は偶然楽器店の前を通りかかった。まるで目に見えない力に導かれるように、ディーススワノは店の中へ入っていった。
そして、奇跡が起きた。
誰からも教わっていないのに、彼女はギターを手に取り、完璧な演奏を始めた。ピアノの前に座れば、指はまるでプロのピアニストのように鍵盤の上を舞った。ベースギター、エレキギター、ドラム、バイオリン、オルガン……店にあるすべての楽器が、彼女の手によって命を吹き込まれた。
彼女は一つの楽器が上手いのではない。すべての楽器のマスターだった。
テヒモシンは何も言わず、ただ微笑みながら、店にある楽器をすべて買い取った。
ちょうどその頃、ディーススワノの新しい部屋も完成した。分厚い防音壁が施された特別な部屋で、外の世界から彼女を守り、同時に彼女の音波の力から世界を守るための部屋だった。
すべての楽器がその部屋に運び込まれた。木と金属でできた新しい友達に囲まれ、ディーススワノは満面の笑みを浮かべた。
ついに、音の女神は本当の玉座を見つけた。きらびやかなアイドルのステージではなく、純粋な旋律の世界の中で。
第4章:感情が音楽になるとき
2019年11月1日(金曜日)。
居間の温かい光の中、午後の陽射しが絨毯に長く伸びていた。突然ディーススワノがネーベルゼーレの胸に飛び込み、子猫のように頭をすり寄せて甘えた。
「ネーベルゼーレお姉ちゃん……ご主人様に連れられて人間と触れ合ってみて、改めて思ったんだけど……私、人間って本当に嫌いだ。」
ネーベルゼーレは優しく彼女の髪を撫で、少し悲しげな目をした。ディーススワノは声を詰まらせながら続けた。
「みんな私を怒鳴ったり、罵倒したりするばかりで……怖かったよ……」
「それでも人間と接することができたなんて、君は私たちよりずっと勇気があるよ。」
ネーベルゼーレはため息をついた。「私たちは人間の声が遠くから聞こえただけで、すぐに逃げてしまうんだから。」
隣で葉を剪定していたファゼッシンも顔を上げて同意した。
「本当だよ。お姉ちゃんはもう5ヶ月以上、ご主人様以外の人と顔を合わせていないし。ネーベルゼーレお姉ちゃんはもう10ヶ月近くになるよね。」
ネーベルゼーレはディーススワノの手を握り、ご主人様の言葉を繰り返した。
「ご主人様は言ってたよね。一緒に暮らすなら、お互い正直になろうって。もし本当に人間が嫌いで、もう顔も見たくないなら、ちゃんとご主人様に伝えて。きっとわかってくれるよ。」
勇気を振り絞って、ディーススワノはテヒモシンに本音をぶつけた。彼は少し沈黙した後、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめん……俺が焦りすぎて、君の気持ちに気づけなかった。もう無理して人間と関わる必要はないよ。時間がある時は、音楽の作曲をしてみたらどうだ?」
「作曲? でも私、そんなのできるかな……?」
「簡単だよ。自分が感じたことを、そのまま音楽にすればいい。」
「私は……すごくストレスを感じてる。人と向き合うのがストレスで……」
「それなら最高だ。」
テヒモシンは頷いた。「そのストレスを全部、音楽にぶつけてみろ。」
2019年12月1日(日曜日)。
一ヶ月間、防音室にこもり、さまざまな楽器と向き合った末、ディーススワノはインクの匂いのする楽譜を手に部屋から出てきた。彼女の初めてのオリジナル曲のタイトルはシンプルだった——『Stress』。
日が過ぎ、夜が更けても
眠りを探しても、ただ空虚だけ
味気ない食事、心は晴れず
人生は暗い絵のよう
テヒモシンは一行一行を真剣に読み、目が輝いた。
「この曲、すごくいいぞ! 君には本当に作曲の才能がある。ほら、見ただろう? 挑戦してみないと、自分がどれだけすごいかわからないんだよ。」
励まされたディーススワノは、さらに三曲を熱心に作曲した。大切な家族への贈り物として、それぞれ6ドルという小さな値段で「販売」することにした。それは彼女の労働の価値を示す、初めての対価だった。
ご主人様へは、温かい台所の歌:
台所へ行こう、歌を歌おう
台所へ、台所へ
台所へ行こう、歌を響かせよう
台所へ、台所へ
ファゼッシンへは、朝の光と花のメロディー:
朝の陽射しの中を歩いて
夢が花開く、鮮やかに
心が弾む、新しい一日を
太陽はいつもそばにいるよ
ネーベルゼーレへは、白い雲と風の歌:
白い雲が流れ、風が髪を撫でる
心は果てなく旅をしている
心は波の上の小舟のように
風に乗り、広い海を越えてゆく
実際のところ、ファゼッシンとネーベルゼーレは曲を買ってどうするのかわからなかったが、事前にご主人様から「密命」を受けていた。
「もしディーススワノが曲を売ってきたら、ちゃんと買ってあげて。そして……その曲を後で俺に売ってくれ。」
ネーベルゼーレは悪戯っぽく微笑んだ。
「はい、わかりました、ご主人様。」
ファゼッシンはくすっと笑いをこらえた。
「彼女が拒否されて落ち込むのを見たくないんでしょ? ご主人様はいつもそんな風に気遣ってくれるよね。」
こうして、温かい循環が生まれた。
ディーススワノは曲が売れて嬉しくなり、二人のお姉ちゃんは妹を助けられて嬉しくなり、最終的に4曲すべてがテヒモシンの手に集まった。
彼は静かにパソコンに向かい、4曲すべてを音楽配信プラットフォームにアップロードした。
利益など求めていなかった。彼が望んだのはただ一つ——世界中に、自分の大切な「音の女神」がどれほど素晴らしいかを知ってもらうことだった。
第5章:善意は、値する者を選ばない
2019年12月20日(土曜日)。
家の中の穏やかな空気が、テレビの緊急ニュースによって一瞬で破られた。煙と炎が立ち込め、ボロボロに壊れたテントの映像……。ブライフィウィタ族が、恐るべき勢力に襲われている。
その光景を見た瞬間、ディーススワノは抑えきれない激しい興奮を露わにした。彼女は勢いよく立ち上がり、冷たい光を瞳に宿して叫んだ。
「素晴らしい! そうでなくちゃ! あいつら全員殺してしまえ!」
しかし彼女の喜びとは裏腹に、テヒモシンは静かに立ち上がり、沈痛な表情を浮かべた。
「ディーススワノ、準備をしてくれ。俺とお前で、あそこへ行って彼らを助ける。」
「え……?」
ディーススワノは呆然とし、声が掠れた。「あいつらは私たちを襲ったじゃない! あんたの骨に矢を刺し、私を惨たらしく鞭で打った連中よ……? どうしてあんな奴らを助けなきゃいけないの?」
ネーベルゼーレが静かに近づき、妹の耳元でそっと囁いた。
「たとえ誰かに憎まれ、恨まれていても、ご主人様はいつも優しさで接するの。それがあの方の生き方……。時として、それを見るこちらが胸を痛めてしまうような生き方よ。」
隣に立つファゼッシンは小さく頷き、痛ましげな目で言った。
「ご主人様は優しすぎて……見ているこっちが、かえって痛くなるの。」
出発前、テヒモシンはディーススワノに音の究極の秘技を伝授した。もう弱々しく耐えるだけの少女ではなかった。今の彼女は破壊的な力を完全に掌握していた——高出力音波、衝撃波、超音速、そして地面を揺るがす地響き波。
特に、ディーススワノは自分だけの独自の飛行方法を見つけ出した。彼女は空中に輝く五線譜を作り出し、その上に軽やかに腰を下ろす。音の女神にふさわしい姿だった。足が五線譜の音符に触れるたび、幻想的な旋律が響き渡る。
今回、四人全員で出陣した。ネーベルゼーレが「雲乗り」を発動し、ご主人様を乗せて先頭を進む。その後ろを、ディーススワノが輝く五線譜に乗ったファゼッシンを乗せて飛んでいた。
現場に到着した時、そこには地獄のような光景が広がっていた。ブライフィウィタの土地を荒らし回っているのは、異様な姿をした怪物たちだった。彼らは耳をつんざくような雑音と混沌とした音波を放ち、聞く者の息を詰まらせるほどの苦痛を与えていた。
「ディーススワノ、ファゼッシン! お前たちであいつらを食い止めろ!」
テヒモシンが指示を出した。
ファゼッシンは即座に印を結び、声を張り上げた。
「木王縛鎖!」
熱い砂の下から、巨大な蔓が鋼の蟒蛇のように這い上がり、怪物たちを締め上げた。直後、ディーススワノが高みから致命的な一撃を放つ。
「高出力音波!」
目に見えないエネルギーの奔流が戦場を駆け抜けた。怪物たちは衝撃で粉々に砕け散った。しかし、恐るべき事実に気づかされた——砕け散るたび、奴らは瞬時に元の姿に再生してしまう。
何度も攻撃を繰り返したが、テヒモシンの一行は怪物たちを倒すことができなかった。ディーススワノとファゼッシンが力尽きた頃、彼らは一旦撤退を余儀なくされた。何日も経過しても、この雑音の怪物たちを倒す方法を見つけられなかった。
八日目、テヒモシンは方針を変更した。
「今は奴らを倒せない。この危険な土地から、ブライフィウィタの民全員をすぐに避難させなければならない!」
しかしその時、一体の怪物が突然人の姿に変形した。その存在は彼らの行く手を阻み、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。
第6章:人間を信じられなくなった男
人型の姿をしたその実体がゆっくりと歩み寄ってきた。冷たい瞳がテヒモシンの一行を射抜く。彼は金属を擦り合わせるような、掠れた声で言った。
「お前たちは何者だ? なぜそこまでブライフィウィタの連中を頑なに守ろうとする?」
ご主人様は平静な表情を崩さず、黙って相手の動きを観察していた。その沈黙がかえって相手の怒りを掻き立てたらしい。男は苛立った声で吐き捨てた。
「この件はお前たちには関係ない。余計な世話を焼くのはやめて、早々にここから去った方が身のためだぞ。」
「何があったんだ?」
テヒモシンはようやく口を開き、落ち着いていながらも威厳のある声で尋ねた。「なぜお前は、これほどまでの憎悪を抱いてこの場所を襲う?」
見知らぬ男は自嘲するように笑った。その笑みには深い苦々しさが滲んでいた。
「話せば長くなる……。俺の名はタカアムコ。そしてこれが、なぜこの世界に奴らの存在など必要ないのかという理由だ。」
過去が、暗く色褪せたフィルムのように蘇った——世界最高峰の名門大学、フィクリマトリー。
尊敬すべきフィクリマトリーの学長は、ある旅の途中、ブライフィウィタ族の子供たちが教育を受けず、荒野で暮らしている姿を偶然目にした。慈悲深い心から、彼は「学生交流プログラム」を提案した。文化交流を目的としたその計画で、15人のブライフィウィタ族の学生が、知識の聖地であるフィクリマトリーのキャンパスに足を踏み入れた。
しかし、それは悪夢の始まりだった。
最高の教育環境を与えられても、ブライフィウィタ族の本能は微塵も変わらなかった。彼らは無道徳、暴力、そして社会常識の完全な欠如を、そのまま学内に持ち込んだ。
タカアムコと他の学生にとって、文化的なマナーこそが調和を保つ唯一の絆だった。言葉遣い、歩き方、共有空間への敬意——しかしブライフィウィタ族はそれらすべてを踏みにじった。
タカアムコは目の当たりにし、耐え続けた。彼らの横暴と傲慢さを。夜、皆が休息を必要とする時間に、奴らは野獣のように集まって喚き散らし、狂ったように歌い、笑い続けた。眠るのは明け方の一〜二時間だけ。周囲の疲労と怒りを完全に無視していた。
それだけではない。道徳の腐敗はさらに露骨だった。教師への罵倒、地面への痰吐き、校内の神聖な場所での放尿・放便。問題はすべて拳で解決し、集団で殴りかかり、相手を挑発する下卑た目で睨みつける。人が集まれば、そこには必ずブライフィウィタ族の無礼と押し合いが伴った。
一ヶ月後、交流プログラムが終了した時、学校中の学生とタカアムコは無力感の中で泣くしかなかった。知識は、獣として生きることを選んだ者たちを感化できないことを、彼らは痛感した。
「人間の忍耐には限界がある。」
タカアムコは拳を強く握りしめた。「俺は奴らを、この世界地図から抹消すると決めた。」
彼は狂ったように禁忌の研究に没頭した——「怪物創造の方法」。ついに彼は成功した。楽器の周波数とその物理的な形状を組み合わせ、不死身の怪物を作り出す公式を発見したのだ。
そして、完全に人間への信頼を失ったタカアムコは、自らに問いかけた。
「人間自身も完璧な楽器ではないか。ならば、なぜ俺自身が怪物にならない?」
彼はテヒモシンを真正面から見据え、体から空間を震わせる雑音を放ち始めた。
「俺はとっくに人間をやめている。今の俺は——破壊の交響曲そのものだ!」
第7章:天国での告白
雑音の怪物たちが持つ揺るぎない力の前に、テヒモシンは一歩前に進み出た。そしてタカアムコと真正面から向き合い、揺るぎない眼差しで提案した。
「俺は音楽の勝負を提案したい。もし俺が勝てば、この戦いを止めてくれ。俺が負けたら、俺たちは潔く引き上げ、二度とお前のことに干渉しない。」
タカアムコは長い沈黙の後、静かに頷いた。
「……了解した。」
テヒモシンは妹分の方を振り向いた。
「ディーススワノ、先に歌ってくれ。」
ディーススワノは深く息を吸い、戦場の真ん中に立った。しかしその心はすでに旋律の中にあった。彼女は静かに曲紹介をした。
「これからお届けするのは、『一度も誰かを愛したことがないほど、あなたを愛しています』という曲です。」
透き通った彼女の歌声が、戦場に響き渡った。最も純粋な感情を乗せて——
「I want you, I miss you, I need you, I love you...」
今度はタカアムコの番だった。彼は微動だにせず、ゆっくりと前に出た。視線は遠く、地平線の彼方を見つめているようだった。まるで、懐かしい影を追いかけるように。
「俺の番だ。この曲のタイトルは『お前以外の誰をも愛さない』。」
「ラララ……」というシンプルなメロディーが流れ始めた。しかしその歌には、言葉にできないほど深い悲しみと切なさが込められていた。聴く者の心を激しく抉る旋律だった。
最後の音が消えた時、テヒモシンは静かに息を吐き、公正な判断を下した。
「勝者……はタカアムコだ。」
彼は相手に近づき、素直に尋ねた。
「その曲、すごく良かった。いつ作ったんだ?」
「三年前だ。」
タカアムコの声はわずかに震えていた。
ディーススワノは小さくうつむき、自分を納得させようとした。
(そうだよね……あいつの曲は何年もかけて磨き上げられたものだもの。私のはついさっき完成させたばかり。こんな傑作に負けるのは当然だよ……)
ご主人様は、タカアムコの憂いに満ちた瞳を深く見つめた。
「その曲……お前が好きな女の子に捧げたものなのか?」
「……ああ。」
「今、彼女はどうしている?」
「死んだよ。」
タカアムコは躊躇なく答えた。その言葉は、まるで空間を切り裂く刃のようだった。
「何……? どうして?」
タカアムコの目に、激しい憎悪の炎が燃え上がった。過去を語り始めると同時に。
「彼女の名はミニディリ。彼女も交換留学生の一人だった。だが、残酷な運命でブライフィウィタ族の連中と同じ場所で生活させられた。あそこでは風呂にも入れず、眠ることもできなかった。毎秒毎秒、奴らに殴られるのではないか、犯されるのではないかという恐怖の中で生きていた。長く続くうつ状態が、ついに彼女を自ら命を絶つ道へ追いやった。」
「君の痛みを呼び起こしてしまって、本当に申し訳ない。」
テヒモシンは深く頭を下げ、謝罪した。
ネーベルゼーレが嗚咽を漏らしながら言った。
「彼は……自分のためだけじゃなく、愛する人のためにも復讐していたのね。」
「この過ちは、すべてあの学長の責任だわ。」
ファゼッシンが苦々しげに呟いた。
ディーススワノは拳を強く握りしめた。
「上層部のたった一つの軽率な判断が、これほど多くの悲劇を生んだなんて……」
ご主人様は静かに空を見上げ、つぶやくように言った。
「一時の感情だけで物事を進め、深い考察を欠けば、最終的に招くのは過ちと失敗だけだ。」
その時、タカアムコの召喚に応じて、巨大な雑音の怪物たちが再び地響きを立てて現れた。しかし彼は怪物たちに攻撃を命じず、テヒモシンの一行を見て、最後の秘密を明かした。
「この怪物どもは、奴らを生み出した楽器の音でしか倒せない。」
彼は古びた録音機を取り出した。フルート、ピアノ、ギター、バイオリン、ドラム、トランペット、そして鐘の音が次々と響き渡る。そして最後に——
弱々しくも優しい女性の声が、空間全体を包み込んだ。
『ごめんね……。きっと、もうあなたのそばにいられない……。もう一度、ごめんなさい……』
それはミニディリの声だった。怪物たちはその声を聞くや否や、次々と白い煙のように虚空へと溶け消えていった。
「わからない……」
テヒモシンは驚愕した。「お前が勝者だったはずだ。なぜ自らすべてを壊すんだ?」
タカアムコは腕時計に目を落とし、ふと顔が穏やかになった。まるで長年の苦しみから解放されたかのように。
「今日は……ちょうど三年前のこの時刻に、彼女を失ったんだ。まだ一つ、やり残したことがあってね。今がその時だ。」
彼は胸元から輝く婚約指輪を取り出し、晴れ渡った空高く掲げた。
「そのやり残したこととは……彼女へのプロポーズだ。俺は彼女を探して、天国でプロポーズする。」
言い終えると、タカアムコの体は徐々に透き通り、やがて完全に空気の中に溶けていった。指輪もまた、その持ち主と共に奇跡のように消え失せた。
テヒモシンは長い間立ち尽くし、やがて優しく微笑んだ。
「彼が彼女に再会できますように。そして二人が、もっと幸せな結末を迎えられますように。」
彼は待っていた三人の少女の方を振り向いた。
「さあ、俺たちも家に帰ろう。」
「はい、ご主人様!」
ネーベルゼーレ、ファゼッシン、ディーススワノの三人が声を揃えて答え、穏やかな家路を、彼と共に歩き始めた。
第8章:残る余韻
四人が家に帰り着いた頃には、空はすでに薄暗くなっていた。家の中は奇妙な静けさに包まれ、誰も言葉を発しなかった。
ネーベルゼーレが静かに雲から降り立つと、足元のふわふわした雲は存在しなかったかのように虚空へと溶けていった。ファゼッシンはいつもより足取りが重く、髪や手に咲く小さな花々が風に揺れるたび、まるで彼女の憂いまでもが揺れているようだった。最後尾を歩くディーススワノは目を伏せ、足元の輝く五線譜が一音ずつ消えていき、大地に静寂を還していく。
草原の真ん中に建つ家は、変わらずそこにあった。しかし、彼らの心はもう以前とは違っていた。いつもの賑やかな笑い声も、素朴な質問もなかった。ただ、名前のつけられない空白だけが、静かに横たわっていた。
夜が更けた。2019年12月27日(土曜日)。
ディーススワノはご主人様と共に居間に座っていた。薄い橙色の照明が木の床に落ち、二人の影を白い壁に長く伸ばしていた。彼女は長い間黙ったまま、手を強く組み合わせてから、ようやく小さな声で尋ねた。
「もしご主人様がタカアムコの立場だったら……違う行動を取っていましたか?」
ご主人様はすぐに答えなかった。彼は窓の外、星一つない漆黒の夜空を見つめた。あの虚空に溶けていった男の心のように暗い空だった。しばらくして、彼はゆっくりと口を開いた。
「……わからないな。」
ディーススワノは驚いて顔を上げた。
「その答え……ご主人様らしくないです。」
ご主人様は深く息を吐き、声のトーンを落とした。
「優しさだけでは埋められないほどの深い穴がある。そして、粉々に砕かれた心を修復できる力など、この世に存在しないのかもしれない。俺は彼の痛みの内側に立っていない。だから、自分がより高潔だったと言い切ることはできない。」
ディーススワノはその言葉を聞いて顔を伏せ、自分の袖を強く握りしめた。たとえ最も強い人でも、運命の前では無力に感じる瞬間があるのだと、彼女は初めて知った。
その夜、ディーススワノは眠れなかった。彼女は自分の防音室——旋律の王国——に入った。ギター、ピアノ、バイオリン、ドラム……さまざまな楽器が暗闇の中で静かに佇んでいた。彼女は何にも触れず、ただ床に座り、冷たい壁に背中を預けた。
音はない。音波もない。破壊の力もない。ただ、溢れ出す記憶だけがあった。
ミニディリの最後の声が、頭の中で何度も反響した——大きくもなく、はっきりしているわけでもないのに、決して消えない声。
『ごめんね……』
ディーススワノは目を閉じた。初めて彼女は理解した。沈黙もまた、一種の音なのだと。この完全な防音室の中で、彼女は自分の心臓が重く鼓動する音を聞き、耳の中で血が流れるざわめきを聞いた。それは命の音であり、同時に、極めて深い孤独の音でもあった。
翌朝。2019年12月28日(日曜日)。
ディーススワノが居間に入ると、ご主人様が音楽プレーヤーの前に立っていた。穏やかな旋律が流れ、彼は優しく和らいだ目で彼女を見つめて言った。
「世の中には……誰かを救うための音じゃないものもある。」
彼は静かに微笑んだ。その微笑みには深い理解が宿っていた。
「ただ、自分自身を救うための音もあるんだよ。」
ディーススワノは何も答えなかった。しかし、砂漠での戦いの後初めて、彼女は微笑んだ——とても小さく、穏やかな微笑みだった。まるで長い嵐の後に、ようやく陽の光を見つけた花のように。
第9章:新たに明かされる真実
その夜、草原を完全に闇が覆い、皆が眠りについた頃も、ご主人様は一人パソコン画面の前に座っていた。彼はいつものように受信トレイを確認すると、見知らぬメッセージが届いていた。
男は自分をエイランと名乗った。
手紙の中で彼は、愛する幼い息子のことを語っていた。悲惨な事故の後、息子は完全に言葉を失ってしまった。身体的な損傷は一切ないのに、医師たちは手の施しようがなかった。少年はただ……沈黙し、自分の世界に閉じこもってしまったのだ。
ある日、エイランがネットで購入した曲「Stress」を偶然流したとき、少年は泣いた。声は出さなかったが、涙が静かに頰を伝った。
「あれは、息子がこの世界に対して初めて反応を示した瞬間でした」
エイランは書いていた。「医師でも、薬でもなく、あなたの音楽が彼の心を揺さぶったのです。」
ご主人様は静かにディーススワノを呼んだ。メッセージを読んだ彼女は、ただ驚くばかりだった。自分の挫折、恐怖、プレッシャーから生まれた旋律が、他人の魂の薬になるなど、考えたこともなかった。
彼らはエイランの手紙をさらに読み進めた。
「ご存知ですか? 音楽はかつて、娯楽や戦いのためではなく、治療のために使われていたのです。」
エイランは、かつて存在し解散してしまった研究チームについて語った。そのチームは、音が人間の心に与える影響を専門に研究していた。
怪物を作るためでも、人を操るためでもない。
目に見えない傷を癒すために。
「しかし、人々は音が歪められることもあると気づきました。そして歪められたとき……それは怪物を生み出すのです。」
疑念が閃いた瞬間、ご主人様は素早く返信を打った。
「失礼ですが、先生はタカアムコという人物をご存知ですか?」
「彼は私の教え子です」
エイランは即座に答えた。「私は彼の学習アドバイザーであり、卒業論文の審査も担当しました。彼を知っているのですか? 今、彼はどうしていますか?」
テヒモシンの指がキーボードの上で一瞬止まった後、彼は答えた。
「彼はもうこの世にいません。彼は……ある結末を選びました。おそらく先生も予想されていたような。」
タカアムコの墓の位置を送った後、相手から矢継ぎ早に質問が返ってきた。
「では、彼の『楽器で怪物を作る』プロジェクトについて知っているのですね? なぜ彼は死んだのですか?」
「彼は天国で、恋人のミニディリにできなかったプロポーズをしようと決めました」
ご主人様はそう送り、それから砂漠にいた時からずっと心に引っかかっていた疑問をぶつけた。
「先生は彼のプロジェクトがブライフィウィタ族を抹殺するためのものだと知りながら、なぜ止めなかったのですか?」
画面は長い間沈黙した。やがて、ゆっくりと文字が現れた。
「私はかつてブライフィウィタ族を憎んでいた。あの憎しみは正当なものであり、彼らを排除することはこの世界にとって必要な浄化だと信じていた。しかし……私は間違っていたのかもしれない。」
「今、私は自分の沈黙と共謀の代償を払っている。息子が事故に遭ったのは、私への報いだ。失って初めて気づくことがある。憎しみは決して何かを良くしないのだ。私は許しを求めない。」
そのメッセージの後、チャットは暗くなった。エイランからの返信はもうなかった。ご主人様は長い間画面を見つめ、静かにパソコンを閉じた。真実というものは、時には毒矢よりも重いものだと、彼は改めて思った。
その夜、ディーススワノは一人部屋にいた。未完成の曲「余韻」の楽譜の下に、彼女は丁寧に一行を書き加えた。
「音は叫ぶためにあるのではない。
ただ、耳を傾けてくれる誰かを見つけるためにある。」
彼女は新しい旋律を紡ぎ始めた。もはや破壊の音波ではなく、「とても人間らしい」音——不器用で、誠実で、感情に満ちた音を。
外では風が静かに庭を吹き抜け、眠るファゼッシンの体に咲く花びらを優しく揺らしていた。物語の余韻はまだそこにあり、この家の一部として静かに息づいていた。
あれ以来、年老いた男と一人の少年が、時折花を持ってタカアムコの墓を訪れる姿が見られるようになった。彼らは何も語らず、ただそこに立ち、果てしなく続く風の音を、まるで終わらない音楽のように静かに聴いていた。




