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歌えない魔法使いは追放された ~才能ゼロの烙印を押された歌は、世界を創り変える禁呪だと誰も知らない~  作者: 蒼月よる


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不自然な空白

 翌日の旅路は、微妙な空気の中で始まった。

 共鳴の余韻がまだ残っている。昨夜、互いの心の奥を見てしまった。その体験が二人の間に、言葉にしがたい何かを残していた。気まずさとも違う。もっと繊細な、壊れやすい何か。

「何かあったのか? 朝から二人とも変だぞ」

 レンミンカイネンが先頭を歩きながら振り返った。

「別に」

「なんでもないわ」

 カレとアイノが同時に答えた。

 レンミンカイネンが肩をすくめた。「同時に否定するあたり、何かあったな」と呟いたが、それ以上は追及しなかった。空気を読める男だった。

 街道を南東に進む。秋の日差しが木々の紅葉を照らし、道の両側に赤と金の葉が散っている。穏やかな風景だった。だがカレの意識は風景に向いていなかった。

 アイノが少し後ろを歩いている。

 考え込んでいるのがわかった。眉間に微かな皺が寄り、指先が無意識にカンテレのケースを撫でている。感情が揺れているときの癖。

 昼過ぎ、小さな丘の上で休憩を取ったとき、アイノがカレの隣に座った。

 しばらく黙っていた。

「……カレ」

「うん?」

「最近変わったことない?」

 何気ない口調だった。だがアイノの目は真剣だった。

 カレは考えた。変わったこと。

「強くなった実感はあるけど。名づけの歌を得てから、世界の声が聞こえるようになったし」

「そうじゃなくて」

 アイノが言い淀んだ。言葉を選んでいる。

「体調とか。記憶とか。何か——おかしいと思うことは?」

「記憶? いや、別に。特には」

 嘘ではなかった。カレ自身は、自分の記憶に異常を感じていない。いくつかの記憶が曖昧になっていることには気づいていたが、それは旅の疲れのせいだと思っていた。

 アイノの目が揺れた。何かを言いたそうにして、言えない目。

「そう」

 短く答えて、アイノは視線を外した。

 カレが先に歩き出した後、アイノは丘の上に少し残った。

 振り返ると、アイノの表情が硬くなっていた。眉間に深い皺が刻まれ、唇を引き結んでいる。さっきの共鳴で何かを感じ取ったのだろう——カレにはそう見えた。

「アイノ?」

「……行くわ」

 短く答えて、アイノは立ち上がった。だがその目が揺れていた。何かを言いたそうにして、言えない目。共鳴を通じてアイノの動揺が流れ込んできた残響が、まだカレの胸の中にわだかまっている。不安の色をした、名前のつかない感情。

 カレには、アイノが何に動揺しているのかわからなかった。共鳴中に自分の内側で何かを見つけたのだろうか。だが何を見たのか、問うことはできなかった。

「どうした?」

 先を歩いていたカレが振り返った。

 少し離れた場所から、カレがアイノを見ている。灰褐色の髪が風に揺れ、薄い青灰色の瞳がまっすぐにこちらを見ている。穏やかな目。いつもの、少し自信がなさそうな、でも優しい目。

「なんでもない」

 アイノは小走りでカレに追いついた。

 カレの隣を歩きながら、横目で彼の横顔を見た。

 あの空白が何であれ、カレは気づいていない。あるいは——気づいていないふりをしているのか。

 どちらにしても、今のアイノにできることはなかった。確信もない推測で、カレを不安にさせたくなかった。

 だが胸の中の不安は消えない。名前のない不安が、根を張り始めている。

 アイノはカレの背中を見つめながら歩いた。秋の風が紅葉を散らし、二人の間を通り抜けていった。


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