三人の朝
三人の旅は、初日から波乱だった。
朝、カレが目を覚ますと焚き火の前にレンミンカイネンが座っていた。すでに朝食を作っている。鍋の中で何かが煮えていて、黒い煙が上がっていた。
「おう、起きたか。飯だぞ」
「……何を作ったんだ?」
「肉と根菜の煮込み。まあ食え」
鍋の中身を見た。肉らしきものが黒く焦げ、根菜は原形を留めていない。液体の色が怪しい。
「焦げてる」
「焦げてねえよ。よく火が通ってるだけだ」
「それを世間では焦げてると言うのよ」
アイノが毛布から顔を出した。寝起きの不機嫌さに加え、焦げ臭さが追い打ちをかけている。
結局カレが煮込みを作り直した。レンミンカイネンの失敗作を横目に、残った食材で手早く仕上げる。アイノが無言で受け取り、一口食べて「まあまあね」と言った。カレにとっては最上の賛辞だ。
出発してすぐ、事件が起きた。
街道で向こうから来た旅人の一団とすれ違った。五人組の男たちで、荷馬車を引いている。その中の一人が、レンミンカイネンの顔を見て目を剥いた。
「お前、レンミンカイネンか! カラヨキで俺の仲間をのした奴だろ!」
「ああ? 知らねえな。……いや、待て。カラヨキの賭場で暴れてた連中か。思い出した」
「よくも俺たちの面子を——」
「おう、やるか? 丁度退屈してたんだ」
レンミンカイネンが嬉々として剣に手をかけた。
「いちいち相手にしないで!」
アイノが間に割って入った。旅人たちを睨みつけ、「この人は病気なの。頭の」と真顔で言い放つ。
「ひでえな」
「事実でしょう」
カレが旅人たちに頭を下げた。
「すみません、こいつは友人で……悪気はないんです」
「悪気はあっただろ。あいつら賭場でイカサマしてたんだぜ」
「黙りなさい」
アイノの一喝で、レンミンカイネンが口をつぐんだ。旅人たちはアイノの殺気に圧されて、黙って去っていった。
「カレ」アイノがため息をついた。「こいつ、どこに行っても喧嘩の種を蒔くわよ」
「まあ……賑やかでいいじゃないか」
「あんたの感覚がおかしいのよ」
昼を過ぎると、レンミンカイネンが斥候役を買って出た。少し先を歩いて安全を確認し、戻ってきて報告する。
「前方、安全。ただの森だ」
「もう少し詳しく言えないの? 森の規模は? 道の状態は? 水場は?」
「森はでかい。道はある。水は……たぶんある」
「たぶんって何よ」
アイノの呆れ顔にレンミンカイネンが肩をすくめる。カレは二人の掛け合いを聞きながら、自分の役割が「仲裁」であることを受け入れた。
夕方、野営の支度。カレが歌で火を灯し、アイノが保存食と乾燥果物を並べ、レンミンカイネンが森に入って兎を一羽仕留めてきた。
「今度は俺に焼かせろ」
「駄目。あんたが触ると炭になる」
「細かいな……」
焚き火を囲んだ。兎の肉を炙り、パンをかじり、水筒の水で喉を潤す。レンミンカイネンが大声で笑い、アイノが「声が大きい」と耳を塞ぎ、カレが「まあまあ」と手を振る。
「二人旅も良かったけど、三人は……賑やかだな」
カレが毛布にくるまりながら呟いた。
隣でレンミンカイネンがいびきをかき始めた。寝つきが異常に早い。
「信じられない」
アイノが溜め息をついた。
日常が、少しだけ楽しい。




