面白そうだから
翌朝、宿の前にレンミンカイネンが立っていた。
旅支度を整え、剣を腰に佩き、背中に革袋を担いでいる。昨夜の宴の余韻など微塵もない、出発の身支度だった。
「よう。俺も行く」
カレは荷物を背負ったまま足を止めた。
「いいのか?」
「何が?」
「その……急に来ると言われても」
「面白そうだから。それだけだ」
レンミンカイネンが肩をすくめた。口元には例の不敵な笑み。深刻な理由を聞かれることを、あらかじめ拒絶するような軽さだった。
アイノが宿から出てきた。レンミンカイネンの姿を見て、一瞬だけ目を見開く。
「……本気?」
「おう。足手まといにはならねえよ」
「足手まといなら置いていくわ」
「上等だ。ついてこられなくなったら置いていけ」
二人の視線がぶつかった。火花が散りそうな一瞬。だがアイノが先に目を逸らし、「好きにしなさい」と吐き捨てた。それが許可であることを、三人とも理解していた。
街道に出た。
レンミンカイネンが自然と先頭を歩いた。長い脚で地面を踏みしめ、周囲を見渡しながら進む。斥候と前衛を兼ねた位置取り。カレが真ん中、アイノが後方。言葉を交わしたわけでもないのに、自然と陣形ができていた。
「レンミンカイネンは、どうしてサンパラに?」
カレが追いつきながら聞いた。
「腕試しの相手を探してた。鍛冶の街なら強い奴がいるかと思ったんだが、鍛冶師は戦い方を知らねえ。退屈してたところにお前が来た」
「それで喧嘩を売ったのか」
「喧嘩じゃねえよ。挨拶だ」
「挨拶で人を殴る文化は初めてだな」
「殴ってねえだろ。かすっただけだ」
「痣ができたんだけど」
「そりゃすまんな。はは」
全く悪びれない。カレは苦笑した。
アイノが後方から声をかけた。
「ねえ。一応聞くけど、行き先はわかってるの?」
「ああ。まずカラヨキの港町で物資と情報を補給する。それからトゥオネラ湖方面に向かう」
「カラヨキか」レンミンカイネンが振り返った。「それなら任せとけ。あそこは俺の庭みたいなもんだ。酒場も宿も、どの店が当たりでどの店がぼったくりか、全部知ってる」
「頼もしいわね。酒場の情報だけは」
「おいおい、酒場だけじゃねえぞ。カラヨキの風歌いの連中にも顔が利く。情報収集なら任せろ」
レンミンカイネンの内心は、カレには見えない。だがときおり、不意に黙り込む瞬間があった。街道の先を見つめ、何かを考え込むような顔をする。そしてすぐに笑顔に戻る。
あの夜、酒場で言った言葉が残っている。「もったいない生き方だな」——カレの言葉が、レンミンカイネンの胸のどこかに引っかかっている。それは確信に近い直感だった。
「面白そうだから」。それは嘘ではないだろう。だが全部でもない。この男は何かを探している。自分でもわからない何かを。
三人で街道を歩いている。
一人で追放された少年が、いつの間にか三人で旅をしている。歌と旋律と剣。ばらばらの力が、一つの道を歩き始めた。
カレは二人の背中を見ながら、小さく笑った。世界が少し広くなった気がする。
まだ知らない困難が待っている。サンポのこと。ロウヒのこと。イルマリネンの消息。何一つ解決していない。
だが今は——三人でいることが、ただ心強かった。




