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歌えない魔法使いは追放された ~才能ゼロの烙印を押された歌は、世界を創り変える禁呪だと誰も知らない~  作者: 蒼月よる


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蛮勇の突撃

 レンミンカイネンは止まらなかった。

 大型ヒーシの一体目を仕留めると、そのまま二体目に向かって駆けた。防衛線を飛び越え、ヒーシの群れの中に単身で突っ込んでいく。

「おいッ、一人で行くな!」

 カレが叫んだが、レンミンカイネンの背中はもう群れの中だった。

「道を空ける! お前らは後ろから来い!」

 振り返りもせずに叫ぶ。身体強化のルーノが全身を覆い、人間離れした速度で剣を振るう。一閃ごとにヒーシが倒れる。切り、薙ぎ、突き、蹴り。剣技と体術が渾然一体となった暴風のような戦い方だった。

 だが無謀だ。いくら強くても、数百のヒーシの中に一人で飛び込めば、いずれ囲まれる。

「あの馬鹿」アイノが歯噛みした。「死にたいの?」

 その言葉が、カレの胸に刺さった。

 死にたいのではない。生きることに執着がないのだ。だからあんな戦い方ができる。自分の命を天秤の片方にしか載せていない。

 ——もったいない。

 カレは走り出した。レンミンカイネンの背中を追って、ヒーシの群れに近づく。アイノが「何してるの!」と叫んだが、カレは止まらなかった。

 レンミンカイネンの剣が振るわれるたびに、ヒーシの黒い血が飛ぶ。だが刃の切れ味が落ち始めている。歌鍛冶の業物とはいえ、ヒーシの闇を斬り続ければルーノが摩耗する。

 あと数十体。囲まれつつある。

 カレは息を吸い、歌った。

「——お前の剣は鈍らない」

 レンミンカイネンの剣に語りかけた。剣の真の名を見て、その本質に言葉を刻む。鉄の中に眠るルーノに触れ、「鈍らない」という言葉で鋭さを定義し直す。

 剣が——白く輝き始めた。

 刃に宿っていた歌鍛冶のルーノが、カレの言葉で活性化した。摩耗しかけていた力が蘇り、さらにその上に新たなルーノが重なる。「鈍らない」という言葉が、剣の在り方そのものを書き換えた。

「なんだこれ……!」

 レンミンカイネンが目を見開いた。次の一振りで、ヒーシが文字通り蒸発した。黒い霧すら残さない一撃。剣の切れ味が桁違いになっている。

「カレ、お前がやったのか!」

「ああ。そのまま斬れ!」

 レンミンカイネンの顔に獰猛な笑みが浮かんだ。白く輝く剣を振るい、ヒーシの群れを切り裂いていく。一撃で三体、四体。剣が通った跡に、黒い影が消え失せる。

 背後でアイノの旋律が響いた。鍛冶師たちの動きが加速する。アイノの音のルーノが味方全体の士気を高め、防衛線が押し返し始めた。

 三人の力が噛み合っていた。

 レンミンカイネンが前線を切り拓き、カレの歌が剣を強化し、アイノの旋律が後方を支える。言葉にしたわけでも、打ち合わせたわけでもない。だが戦場の中で、三つの力が自然と一つの流れを作っている。

 カレは歌いながら、自分の力の新しい形を感じていた。

 これまで、言葉のルーノは「物を操る」力だと思っていた。剣を重くする。ヒーシを止める。対象に言葉を刻んで、在り方を変える。

 だが今——他者の力を引き出す歌が、歌えた。

「お前の剣は鈍らない」。それはレンミンカイネンの剣に力を与えた。物を操ったのではない。剣の中に眠る歌鍛冶のルーノを呼び覚まし、レンミンカイネン自身の力を増幅した。

 自分の歌は、他者のための歌にもなれる。

 その気づきが、戦場の只中で胸に灯った。

 ヒーシの群れがまだ残っている。だが三人の間に、名前のない確信が芽生えていた。

「まだやれるか!」

 レンミンカイネンが振り返って叫んだ。

 カレが歌い、アイノが弾いた。

 答えは言葉ではなく、歌で返した。


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