表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌えない魔法使いは追放された ~才能ゼロの烙印を押された歌は、世界を創り変える禁呪だと誰も知らない~  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/101

地鳴りの群れ

 地鳴りで目が覚めた。

 まだ夜が明けきらない薄闇の中、宿の床が揺れている。地震ではない。地面の下から伝わる振動が、一定のリズムを刻んでいる。何かが——大量に、こちらに向かっている。

 カレは寝台から飛び起き、窓を開けた。

 山脈の方角が黒かった。朝焼けの空を背景に、無数の影が稜線を越えて降りてくる。大小さまざまな異形の群れ。四つ足で駆けるもの、翼で滑空するもの、地面を這うように進むもの。

「ヒーシだ」

 声がかすれた。

 隣の部屋の扉が開き、アイノが駆け出してきた。すでに外套を羽織り、カンテレを背負っている。

「見えた?」

「ああ。数が尋常じゃない」

「サンポが失われてから魔物が増えている。世界の均衡が崩れているのよ。ルーノの循環が滞れば、ヒーシの棲む暗い場所が広がる」

 階下で怒号が響いた。宿を飛び出すと、通りはすでに戦場の前夜のような緊張に包まれていた。鍛冶師たちが工房から歌鍛冶の武器を持ち出し、城壁に向かって走っている。

「こんな規模は初めてだ!」

 鍛冶師の一人が叫んだ。顔が蒼白だった。

 カレとアイノは城壁に駆け上がった。壁の上から見下ろすと、ヒーシの群れがサンパラを包囲しようとしていた。東西南北、全ての方角から黒い塊が迫っている。地鳴りの正体がわかった。数百——いや、数千のヒーシが、一斉にこの街に押し寄せている。

「なんでこの街に?」

「歌鍛冶の武器があるからよ。ルーノを帯びた金属はヒーシにとって毒。だから普段は近づかない。でも数が増えすぎれば、恐怖より飢えが勝つ」

 アイノの分析は冷静だった。だが目は鋭く、すでに戦いの算段をしている。

 城壁の上に鍛冶師たちが並んだ。歌鍛冶の剣、斧、槍。ルーノを鍛ち込まれた武器が並び、金属の表面が朝日を受けて淡く光る。

「来る!」

 最初のヒーシが城壁に取りついた。犬のような体躯に蛇の尾を持つ異形が、壁面を爪で引っ掻きながらよじ登ってくる。鍛冶師が歌鍛冶の斧で叩き落とした。斧に込められた浄化のルーノがヒーシの身体を焼き、黒い霧となって消える。

「歌鍛冶の武器は効く。だが——」

 カレは城壁の端から端まで見渡した。防衛線は薄い。鍛冶師たちは職人であって兵士ではない。武器は一級品だが、使い手の練度にばらつきがある。そして何より、数が足りない。

 東の壁が薄い。鍛冶場が密集する西側に比べ、居住区が集まる東側は防衛の人数が少なかった。

 ヒーシがそこを突いた。

 東壁を越えて、最初の群れが街の中に流れ込んだ。

 逃げ惑う住民の悲鳴が上がる。子供を抱えた女が転び、老人が足をもつれさせる。ヒーシの群れが路地を埋め、家屋の壁を引き裂く。

「俺も戦う」

 カレは城壁を駆け出した。

 歌うしかない。この街を守れるかどうかはわからない。だが、歌わなければ何も変わらない。走りながら、言葉を探す。ヒーシの真の名。闇の中から湧いた異形たちの本質。

 それを名づけて、止める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ