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歌えない魔法使いは追放された ~才能ゼロの烙印を押された歌は、世界を創り変える禁呪だと誰も知らない~  作者: 蒼月よる


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不協和音

 最悪の音がした。

 カレの声とアイノのカンテレが同時に鳴った瞬間、空気が引き裂かれるような不快な衝撃が走った。音と言葉がぶつかり合い、力が相殺され、何の効果も生まない空虚な振動だけが広場に残った。

 カレの言葉が先走っていた。「氷よ」と呼びかけた声にアイノの旋律が追いつかない。カレが次の言葉を紡ぐ頃には、アイノの旋律はまだ最初のフレーズの途中だ。リズムが合わない。テンポが違う。二つの歌が別々の方向に走り、交わることなくすれ違っていく。

 もう一度。

 カレが意識的にテンポを落とした。だが今度はアイノの旋律が速い。カンテレの音が先を行き、カレの言葉が遅れる。追いつこうとして言葉を急ぐと、今度は言葉が旋律を追い越す。

 不協和音が廃村に響いた。

 力はぶつかり合って消え、霜の歌い手の氷には傷一つつかない。結界の向こうで、霜の歌い手が歌いながら首を傾げた。

「何をしている。無様だな」

 冷笑とすら呼べない、感情のない声だった。事実を述べただけ。それがかえって堪えた。

「合わせる気がないなら黙ってて!」

 アイノが叫んだ。カンテレを弾く手に苛立ちが滲んでいる。弦が不自然に強く弾かれ、音が歪む。感情が直接演奏に影響する音のルーノの欠点だった。

「俺の歌に音がついてきてくれれば——」

「何言ってるの。あんたの言葉がバラバラに飛んでくるから合わせようがないのよ」

「お前の旋律のほうが——」

「はあ? 私のカンテレに文句つけるわけ? ポヒョラの宮廷で鍛えた演奏よ。素人に指図されたくないんだけど」

 またそれだ。素人。カレの胸の奥がずきりと痛む。だが今は怒っている場合ではない。結界が削られ続けている。ロヴィアタルの唇から血が滲んでいる。

「二人とも黙りな!」

 ロヴィアタルの声が広場を貫いた。結界を維持しながら叫ぶ——その負担がどれほどのものか。老魔女の体が目に見えて揺れた。

「違う! 合わせるんじゃない」

 カレとアイノが同時にロヴィアタルを見た。

「互いの歌を——聴け!」

 聴け。

 その一言が、カレの頭の中で反響した。

「お前たちは自分の歌を押し付け合っている」

 ロヴィアタルが結界に手を当てながら、絞り出すように言った。

「カレ、お前はアイノの音を聴け。アイノ、お前はカレの言葉を聴け。相手の歌の中に何があるか、感じ取れ」

「聴くって、どういう——」

「お前はもう知ってるはずだ!」

 ロヴィアタルが怒鳴った。

 カレは口を閉じた。

 知っている。知っているはずだ。修行の最初に教わったこと。「世界に聴いてごらん」。あの言葉。ルーノの基本は「聴く」ことだと、ロヴィアタルは最初に教えた。世界の声を聴き、対象の本質を感じ取り、それに言葉を与える。カレの言葉のルーノの原点は——聴くことだった。

 それを忘れていた。目の前の脅威に追われて、合わせることばかりに気を取られて、一番大事なことを忘れていた。

 霜の歌い手が結界への攻撃を強めた。氷の壁が結界に激突し、亀裂が音を立てて走る。時間がない。だがカレは目を閉じた。

 聴け。

 アイノのカンテレの音が聞こえる。さっきまでは「合わせなければ」と思っていたから、旋律のリズムしか聞いていなかった。だが今は——その音の奥にあるものを聴こうとしている。

 音の中に、何かが流れている。

 恐怖。

 怒り。

 そして——


 師の言葉が蘇る。カレは目を閉じたまま、アイノの旋律に耳を傾けた。その音の中に何かが流れている。恐怖、怒り、そして——


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