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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第1章:乳幼児編

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第8話:初めてのお買い物、地上の街は地獄より危険!?

 垂直都市の管理事務所。私は今、頭を抱えていた。

 理由は、パンドラの「身の回り品」である。

「……やはり、フェンリル様の抜け毛で作ったプレイマットは、人間の赤ん坊には刺激が強すぎましたか」

 目の前では、パンドラが「わんわん!」と喜びながら毛皮に顔を埋めているが、彼女の肌にはうっすらと赤い湿疹が出ていた。魔力の供給過多による「魔力酔い」だ。

 いくら最強の魔王たちが用意した最高級品でも、それらはすべて「魔界仕様」。生身の人間であるパンドラには、時には「ただの綿」や「ただのプラスチック」が必要なのだ。

「仕方ありません。パンドラ、今日は『地上』にお買い物に行こうか」

 私がそう呟いた瞬間。

 事務所の空間が激しく歪み、三つの影が実体化した。

「待て、管理人。地上だと? あの不潔で、貧弱で、救いようのない連中が跋扈する場所へ、パンドラを連れて行くというのか」

「許可できん。地上の空気は薄汚れすぎている。我が氷原の清浄な空気とは訳が違うぞ」

『……我が、触手で、守る……』

 現れたのは、ルシファー様、フェンリル様(小型化モード)、そしてクトゥルフ様(小型化・空中浮遊モード)だ。

 

「皆さんの心配はわかります。ですが、彼女には人間の文化も必要なんです。これは管理官としての決定事項です。……あと、皆さんは付いてこないでくださいね。パニックになるので」

「……ふん。ならば、我々が『不可視の術』で同行するのは問題ないはずだ」

「…………(無言の威圧)」

『……(じーっ)』

 結局、最強のストーカー軍団を引き連れて、私は地上へと降り立つことになった。

 ダンジョンから最も近い人間の街、商業都市『マクバーン』。

 私はごく普通の「子連れの旅人」を装い、パンドラを抱っこ紐に入れて街の雑踏を歩いていた。背後(霊的次元)には、殺気立った魔王たちが控えているとは露知らず、街は活気に満ちている。

「パンドラ、見てごらん。あそこに浮いているのは風船だよ。クトゥルフおじさんの頭じゃないからね」

「ふ、ふー! ぷー!」

 パンドラは初めて見る色鮮やかな光景に大興奮だ。

 私はベビー用品店に入り、ごく普通の綿の服や、握るとピコピコ鳴るアヒルの人形を選んでいく。

(……管理人よ。そんな安っぽい玩具を買い与えるな。私の宮殿にある『黄金の竪琴』を一つ貸してやれば済む話だろう)

(……あの商人、パンドラをジロジロ見ているな。食い殺してよいか?)

 脳内に直接響く念話がうるさすぎる。私は内心で「静かにしてください」と念じながら、会計を済ませた。

 異変が起きたのは、店を出て公園で休憩していた時だった。

「おい、そこの男。いいものを持ってるじゃないか」

 ガラの悪い男たちが数人、私とパンドラを囲んだ。どうやら、新米の旅人が高級な身なりの赤ん坊を連れているのを見て、「カモ」だと思ったらしい。

「その赤ん坊が着てる服、いい生地だな。あと、さっき店で使った金……全部置いていきな」

 私は冷や汗をかいた。彼らの命の危険に対して。

「……皆さん、おやめなさい。ここは地獄じゃありません。セーブポイントはありませんよ」

「あぁん? 後悔するのはお前だろ! ほら、そのガキをこっちへ――」

 男の一人が、パンドラを奪おうと手を伸ばした。

 その指先が、パンドラの頬に触れるか触れないか、というその瞬間。

「…………『不敬』だ」

 ルシファー様の冷徹な声が、物理的な振動となって空気を震わせた。

 

 刹那、街の中心に「凍てつく沈黙」が降りた。

 パンドラの周囲に、不可視のはずの魔王たちの「影」が、巨大な蜃気楼のように立ち上る。

 

 男たちの視界には、空を覆い尽くす魔狼の顎が見え、耳には正気を奪う旧支配者の歌が響き、目の前には太陽より眩しく、そして暗い堕天使の翼が広がった。

「「「ひっ……ひぎゃあああああああ!!!」」」

 男たちは悲鳴を上げることすらできず、白目を剥いてその場に卒倒した。

 彼らの精神は、今この瞬間から「圧倒的恐怖」で固定され、一生この夢にうなされることになるだろう。

「……あー、やっぱりこうなりましたか」

 私はため息をつき、パンドラにアヒルの人形を握らせた。

 パンドラは「ピコッ!」という音に大喜びで、倒れた男たちのことなど微塵も気にしていない。

『……管理人。帰るぞ。地上は危険すぎる。こんな有象無象がパンドラに触れるなど、万死に値する』

 ルシファー様の言葉に、フェンリルとクトゥルフが深く頷いている(ように空間が揺れた)。

「……わかりましたよ。買い物も済みましたから」

 私は地上の滞在時間わずか30分で、ダンジョンへの帰路についた。

 結局、パンドラのために買ったアヒルの人形は、後にルシファー様によって「魔力強化」と「防護結界」を施され、最終的には勇者の聖剣を弾き飛ばすほどの「伝説の武具」へと作り替えられるのだが……それはまた別の話だ。

 私はタブレットを更新する。

【ログ:初めてのお買い物イベント、成功(?)】

【獲得ポイント:+15,000P(チンピラたちの絶望より回収)】

【管理者コメント:パンドラの社会性を育てる前に、魔王たちの独占欲を管理する方法を考えないといけません】

「パパ……ピコピコ、しゅきー!」

 パンドラが初めて呼んだ「パパ」という言葉に、陰で見守っていた魔王たちが「自分もそう呼ばせたい」と、帰還後の会議で大喧嘩を始めるのを、私はまだ知らない。

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