第62話:最終決戦! 天界の門をブチ破れ! 管理人の『損害賠償請求』と、パンドラの虹色の羽
空を貫き、雲を割り、全七階層+吸収された三つのダンジョンを内包した『終焉の垂直都市』は、今や巨大な方舟となって天界の門――『聖域の門』の目前にまで到達していた。
「管理人殿。全エンジンの出力正常。論理的帰結として、あと30秒で天界の防壁を物理的に粉砕します」
コントロールパネルを叩く機神クロノス(清掃主任)の声が響く。
「……結構。パンドラ、耳を塞いでいてね。ちょっと大きな音がするから」
「うん、パパ! でも私、怖くないよ。だってみんなが一緒だもん!」
パンドラが私の手を握る。その小さな手の温もりが、今の私にとっての全宇宙だ。
「よし。――全階層主、突撃開始!!」
天界の門、強制撤去
ドォォォォォンッ!! という、世界の理が壊れるような音と共に、垂直都市の先端が黄金の門をブチ破った。
そこに待ち構えていた数万の天使兵団が、腰を抜かして後退る。
「な、なんだこの禍々しい巨大な建物は!? 門が……我らの神聖なる門が、ただの『入り口』に書き換えられていく!?」
「ほっほっほ! 邪魔じゃ、邪魔じゃ! 孫娘の遠足の邪魔をする輩は、この上皇が塵にしてくれよう!」
上皇様が三味線を一掻きすると、天界の雲が物理的な質量を持って天使たちを押し潰した。さらに、影の中から現れたルルが、天使たちの持つ聖なる槍を「美味しそうなおやつ」のように次々と噛み砕いていく。
「パパ! あっちに綺麗な噴水があるよ!」
「あれは『生命の噴水』だね。よし、テュポーン様! あの噴水、丸ごと第4階層の遊園地に転送してください。ジュースが出るように改造しましょう」
もはや戦争ではない。それは、史上最大規模の「家具の徴収」を伴う、管理人の怒りの引越し作業だった。
天界の中央、オリュンポスの玉座。
そこには、実体を持って降臨した神々の王ゼウスが、雷を纏って立ちはだかっていた。
「……度を越したな、管理人よ。人間が神の領域を土足で荒らし、あろうことか天界の備品を盗むとは……。もはや塵すら残さぬ!」
ゼウスが掲げた右手に、宇宙を焼き尽くすほどの雷光『ケラウノス』が集束する。
だが、その破滅の光を、一人の堕天使が漆黒の翼で遮った。
「……我が主人の『清算業務』を邪魔するな、老いぼれ」
ルシファー様が、冷酷な笑みを浮かべて魔剣を抜く。
「ルシファー! 貴様、まだ地を這う虫けらどもとつるんでいるのか!」
「虫けら? ……ふん、そう見えるならお前の眼球も腐っているな。……管理人、ここは私が食い止める。お前は……パンドラに、あいつ自身の『答え』を出させてやれ」
ルシファー様の背中が、かつてないほど大きく見える。私は頷き、パンドラを連れてゼウスの前に立った。
「パンドラ。……この人が、君を捨て、そして今また君を『道具』として連れ戻そうとしている人だ」
ゼウスがパンドラを見下ろし、呪わしいほど重厚な声を出す。
「パンドラよ。お前は『厄災の器』だ。神々が世界を管理するために作った、ただの道具に過ぎぬ。その偽りの父親も、魔王たちも、お前を弄んでいるだけだ。さあ、大人しく箱の中に帰り、無に還るのだ」
その言葉に、パンドラの瞳から涙が溢れた。
悲しみではない。それは、自分の居場所を否定されたことへの、静かで激しい「怒り」だった。
「……道具じゃない。私は、パパの娘だよ!」
パンドラが叫んだ。
彼女の背中から、虹色の光が溢れ出す。それはかつての『厄災の影』ではなく、希望と愛情によって磨き上げられた、真の覚醒。
虹色の羽が、彼女を包むように大きく広がった。
「ルシファーおじちゃんは、私のために歌を作ってくれた! じーじはお野菜の育て方を教えてくれた! ルルちゃんは一緒に遊んでくれた! そしてパパは……何があっても、私の手を離さなかった!」
パンドラの足元から、天界の白金色の床が虹色の花畑へと塗り替えられていく。
「私の名前は、パンドラ! 垂直都市の管理人、パパの娘、パンドラ・アビスだ!!」
パンドラの光が、ゼウスの雷を完全に無力化した。
私はその隙を見逃さず、魔導書をゼウスに向けて突きつけた。
「ゼウス様。これが最終的な『請求書』です」
「な……何だ、この膨大な項目は……!?」
「12年分の養育費、天界軍の不法侵入による修繕費、パンドラへの精神的慰謝料、および……本日、我々がここに来るまでの『出張残業代』です。合計で……天界の総資産の9割に相当します」
私は管理権限を発動させ、天界の『理』に直接アクセスした。
「パンドラの虹色の光は、もはや貴方の権能を上回っている。……今この瞬間をもって、貴方の『神としての運営権限』を停止。天界は、我が垂直都市の『第8階層:天上庭園』として合併吸収されます」
「な、バカな……! 私が……全能の神である私が、リストラだと……!?」
「論理的帰結です。……さあ、パンドラ。トドメを」
パンドラが私と手を繋ぎ、虹色の羽を羽ばたかせた。
「――バイバイ、神様。もう、誰も捨てちゃダメだよ!」
虹色の光が弾け、天界の王城は心地よい春風のような魔力に包まれた。ゼウスの体は光の粒となって消え、彼は『第8階層の管理人補佐(見習い)』として再定義された――もちろん、一番厳しいベルゼブブ様の調理場行きだ。
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