第59話:波乱の文化祭! パンドラの演劇ヒロインと、衣装担当・ルシファー様の暴走
聖アウレオール魔法学園が一年で最も活気づく行事、それが「光輝祭」――いわゆる文化祭だ。
校内は魔法の飾り付けで彩られ、出店の準備に奔走する生徒たちの笑い声が絶えない。そんな平和な光景の中、私は管理事務所でパンドラから衝撃の報告を受けた。
「パパ! 私、クラスの出し物の劇で、ヒロインの聖女様役に選ばれちゃった!」
その瞬間、執務室にいた「最強の過保護軍団」の動きが止まった。
「……演劇だと? パンドラが、舞台の上で、数多の観衆にその美しさを晒すというのか」
ルシファー様がワイングラスを置き、ゆっくりと立ち上がる。
「ほっほっほ、それはめでたい。……しかしパンドラ、聖女の衣装は用意してあるのか? 学園の予算で作ったようなボロ布を、お主に着せるわけにはいかんのう」
「えっ、でも、衣装係のみんなで作るって……」
「否!!」
ルシファー様の断じが、執務室の窓ガラスを震わせた。
「我が愛娘が纏う衣が、凡俗の手によるものなど断じて許さぬ。パンドラ、その役……この私が、全宇宙で最も気高く、最も美しい『真の聖女』へと仕立て上げてやろう」
数日後。学園の演劇部の部室は、もはや「異界」へと変貌していた。
私は管理端末を叩きながら、あまりの光景に目眩を覚えた。
「ルシファー様、そのドレス……布地が『天界の最高級絹』なのは百歩譲っていいとして、なぜスカートの裾に『対消滅防御魔法』が編み込まれているんですか?」
「ふん、舞台上で不測の事態(物理攻撃)があったらどうする。これは衣装ではない。パンドラを守る『絶対不可侵の礼装』だ」
ルシファー様は六本の魔力を帯びた手を影から出現させ、超高速で針を動かしている。
隣では、機神クロノス(現・清掃主任)が、部室の片隅に設置した巨大な演算装置と格闘していた。
「照明および特殊効果の担当として進言。……パンドラの登場シーンにおいて、太陽光のスペクトルを20%強化。さらに、劇のクライマックスでは私のサブ・プロセッサを同期させ、リアルな『隕石落下』を投影……いえ、実際に落とします」
「落とさないでください! 舞台演出で更地を作るつもりですか!」
さらに演出担当の上皇様は、脚本を真っ赤に書き換えていた。
「管理人よ、この脚本はなっとらん。なぜ聖女が最後に死なねばならんのだ? パンドラが悲しむ結末など認めん。……よし、この中盤で『深淵の軍勢』が突如現れ、悪役を全員呪い殺した後に、パンドラを女王として戴冠させる流れに変更じゃ」
「それ、もはや学園演劇じゃなくて『垂直都市のプロパガンダ』ですよ!」
そんなカオスな制作現場に、運悪く台本の確認に来たのが、パンドラの相手役――王子様役を務めるテオ君だった。
「あ、あの……パンドラさん、衣装のサイズ合わせに……」
テオが部室のドアを開けた瞬間。
ルシファー、上皇、クロノス……そして天井の影で待機していたルルの殺気が、一点に集中した。
「……貴様か。パンドラを誘惑し、舞台上で愛を囁こうなどという不届きな『王子』は」
ルシファー様が、裁ち鋏をチャキリと鳴らす。
「ほっほっほ。……テオ君と言ったかの。お主、舞台で噛んだりしたら、その瞬間に舌がカエルのそれになる呪いをかけてやろうか?」
「ヒ、ヒィィィッ……!」
『……テオ。……パンドラ、泣かせたら。……ルルが、胃薬、あげる。……(意味:食べてあげる)』
「みんな、やめて!! テオ君、ごめんね、みんなちょっと熱が入っちゃって……!」
パンドラが慌てて割って入るが、テオの顔色はもはや「絶望セーブ」が発動しそうなほど真っ白だった。
そして文化祭当日。
学園の講堂を埋め尽くした観客の前に、ついに「聖女パンドラ」が現れた。
彼女が舞台に立った瞬間、会場の空気が一変した。
ルシファー様が徹夜で仕上げたドレスは、周囲の魔力を吸収して虹色に輝き、彼女の美しさを次元の壁を超えて増幅させている。クロノスによる「神がかったライティング」は、もはや彼女の背後に後光が差しているようにしか見えない。
「(……やりすぎだ。絶対にやりすぎだけど……)」
私は最前列で、手に汗握りながら見守った。
脚本こそ、私が死に物狂いで修正して「ハッピーエンド(魔王乱入なし)」に留めたが、演出の迫力は完全に学園レベルを超越していた。
劇の終盤、パンドラが平和を祈る歌を歌い始めたとき。
彼女の胸元の「箱」が共鳴し、観客席に優しい光の花びらが舞い散った。それは魔法や技術ではない、彼女自身の心の輝きだった。
「……パパ、見ててね」
舞台上から一瞬、こちらに向けられた視線と微笑み。
その瞬間、私の隣で「ふん、まあまあの出来だ」と強がっていたルシファー様の目から、一筋の光るものが流れたのを、私は見逃さなかった。
【通知:学園演劇「深淵の聖女」無事終了】
【観客の反応:全員がパンドラの信徒へと改宗する勢い】
【王子役テオのステータス:九死に一生を得たが、魔王たちの顔がトラウマに】
【管理人の一言:衣装代の領収書をどうやって経理に通せばいいのか、誰か教えてください】
「パパ! 私、上手にできたよ!」
舞台を終え、制服に着替えたパンドラが駆け寄ってくる。
その笑顔があれば、どんな予算オーバーも、魔王たちの暴走も、報われる気がするのだった。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




