第57話:大統合! 地獄のメガ・マンション完成!? 竜と機械と魔王の、賑やかすぎる同居生活
「覇権戦争」が終結して一週間。
私の手元にある管理端末――新しく支給された超高性能モデル――には、もはやスクロールしきれないほどの「新施設」のリストが並んでいる。
「……第0.5階層『竜の牧場』、第0.6階層『全自動清掃センター』、第0.7階層『旧迷宮・物流倉庫』。……もはや垂直都市ではなく、巨大な複合商業施設ですね、これは」
私が溜息をつきながら窓の外を見ると、かつての学園の校庭には、パンドラに懐いたワイバーンたちが犬のように列をなし、お腹を見せて寝転んでいた。その横では、赤錆を落とされピカピカになった掃除ロボットたちが、驚異的な効率で落ち葉を拾い集めている。
「管理人! この『全自動マッサージ機(旧・機神クロノスの腕)』の揉み加減、悪くないぞ。天界の雲の上よりも快適だ」
ルシファー様が、本来は勇者を粉砕するための巨大なプレス機を改造した椅子に座り、優雅にワインを傾けている。
「……喜んでいただけて何よりです、ルシファー様。ちなみに、その機械の出力調整を担当しているのは、再就職したクロノス元管理者ですよ」
マッサージ機の影で、クロノスが「……論理的帰結として、魔王の肩こりは非常に硬い。出力120%に上昇」と呟きながら、目を血走らせてレバーを操作していた。
今回の統合で、吸収したダンジョンの管理者たちにも「再就職先」を斡旋した。
• 黒竜の管理者:自慢のドラゴンたちの「飼育係」に任命。パンドラに「おじちゃん、ブラッシング上手だね!」と褒められたことで、今ではドラゴンよりもパンドラの機嫌を取ることに命をかけている。
• 機神クロノス:垂直都市の「インフラ管理主任」に任命。全てのドアの開閉速度を0.01秒単位で最適化することに喜びを見出している。
• マルファス:……彼は現在も、無限に湧き出るバグを修正し続ける「デバッグ空間」で絶叫中だ。
「じーじ! 見て見て、ドラゴンさんにリボンをつけてあげたの!」
「ほっほっほ、似合っておるぞパンドラ。……おい、黒竜よ。リボンがずれておるぞ。直さぬか」
「は、はい! 只今!」
かつての強敵たちが、パンドラという太陽を中心としたエコシステムに完全に取り込まれている光景は、管理人として微笑ましくもあり、セキュリティ担当としてはいささか不安でもあった。
そんな賑やかな毎日の中、私はパンドラの「ある変化」に気づいた。
最近、彼女は学校へ行く前に、鏡の前で髪を整える時間が少しだけ長くなっているのだ。さらに、ルルとの会話にも聞き捨てならない名前が登場するようになった。
『……パパ。……パンドラ、最近、図書館に、よく行く。……テオ、っていう男の子と、本、読んでる』
ルルの影からの報告に、私のペンが止まった。
その瞬間、執務室の温度が急激に下がり、ルシファー様のグラスがピキリと音を立てて凍りついた。
「……管理人。今、ルルは何と言った? 『テオ』? それはどこの魔神の名前だ?」
「上皇、三味線の用意を。……テュポーン、第5階層の冷気を地上の図書館に集中させろ」
「待ってください! まだ名前が出ただけです! ただのクラスメイトかもしれません!」
私は慌てて魔王たちを制止したが、正直なところ、私の胃も雑巾を絞るようにキリキリと痛み始めていた。
その日の放課後。私は「学園の魔力安定点検」という名目で、こっそりと図書館の様子を伺いに行った。
本棚の隙間から覗き見ると、そこにはパンドラと、一人の大人しそうな人間の少年が座っていた。
「……へえ、この魔法文字、そうやって読むんだ。テオ君、物知りだね」
「……ううん、僕はただ本が好きなだけだよ。パンドラさんこそ、魔王学の知識が凄すぎて、先生も驚いてたよ」
少年――テオは、パンドラの「深淵由来の英才教育」を、偏見なく純粋に尊敬の眼差しで見つめていた。
パンドラは少し照れくさそうに笑い、銀色の髪を耳にかける。……その仕草は、私が見たこともないほど「女の子」らしいものだった。
「(……いけない。これは、管理人としても、父親としても、冷静でいなければ……)」
だが、私の背後からは、既に抜き身の魔剣を構えたサタン様と、重低音で呪歌を口ずさみ始めたルシファー様の殺気が、物理的な嵐となって図書館を揺らし始めていた。
【通知:パンドラの人間関係に新項目】
【対象:テオ(魔法学園特待生・図書委員)】
【現在の関係:勉強仲間(パンドラ側の好感度:上昇中)】
【管理人のステータス:深刻な胃潰瘍の兆候】
「……ポチ(清掃ドローン)、あの子の素性を至急調査。……あと、ルシファー様たちを拘束するための最強の鎖を第6階層から持ってきてくれ……!」
覇権戦争よりも遥かに困難で、理不尽な「戦い」の予感に、私は遠い目をして夕日に染まる学園を見つめるのだった。
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