第55話:鋼鉄の心も溶かす!? 対決・機械仕掛けの要塞! ルルの『影の分解術』と、パンドラのハッキング(物理)
『竜の揺りかご』を「竜の牧場」として吸収した直後、垂直都市の正面に新たな異変が生じた。
空間がデジタルノイズのように揺らぎ、そこから巨大な「歯車」と「鋼鉄の壁」が姿を現したのだ。接合されたのは、第二の刺客、『機械仕掛けの要塞』。
「ターゲット確認。生命体反応、多数。……論理的帰結として、非効率な存在はすべて解体し、素材として再利用します」
要塞の最上部から、全身を精密な魔導回路で覆った管理者――『機神クロノス』が冷徹な声を響かせた。
彼の合図と共に、要塞のハッチが一斉に開き、数千体もの自律型魔導ゴーレムと、レーザー砲を備えた偵察ドローンが雲霞のごとく押し寄せてくる。
「パパ、あのお人形さんたち……なんだかカチカチ鳴ってて、楽しそう!」
「楽しそうに見えるのは君だけだよ、パンドラ。……ルル、あれは食べられそうかな?」
私が管理端末で敵の装甲強度をスキャンしながら尋ねると、影の中にいたルルがひょこりと顔を出した。その瞳は、獲物を見つけた猛獣……というよりは、新しい「おもちゃ」を見つけた子供のように輝いている。
『……パパ。……あれ、硬いけど、中身は、魔力の味がする。……ルル、分解して、おやつにする』
ルルが影の手を地面に広げると、押し寄せるゴーレムたちの足元から、無数の黒い触手が伸び上がった。
だが、ただの触手ではない。ルルの影は、機械の「継ぎ目」や「ネジの一本一本」を正確に見抜き、物理法則を無視して内部から食い破り始めたのだ。
「ギギギッ!? エラー、駆動系に致命的な……」
最高硬度のミスリル合金で作られたゴーレムたちが、ルルの影に触れた瞬間にバラバラのパーツへと分解されていく。ルルは影の顎を広げ、宙に浮いた歯車やゼンマイを「カリカリ」と小気味よい音を立てて咀嚼し始めた。
「非論理的だ。我が要塞の装甲はあらゆる物理攻撃を無効化するはず。……なぜ、影に食われるのだ!?」
クロノスが計算外の事態に狼狽する。だが、深淵の住人に地上の論理は通用しないのだ。
分解されたゴーレムの残骸をすり抜け、パンドラが要塞の主制御門の前へと歩み寄った。
門には強力な魔導結界が張られ、触れる者すべてを塵に変える雷がほとばしっている。
「パンドラ、危ないよ!」
「大丈夫だよ、パパ。……この門、なんだか『寂しい』って言ってる気がするの。ずっと計算ばっかりさせられて、疲れちゃったんだね」
パンドラがそっと、雷鳴轟く鋼鉄の門に手を触れた。
本来なら即死するはずの接触。しかし、彼女の胸元の「箱」から溢れ出した虹色の粒子が、機械の回路に直接流れ込んだ。
パンドラの「希望」の魔力は、冷徹なプログラムを「慈愛」で塗り替えていく。
「システム汚染!? い、いや、これは……再起動? 全システムが、敵対行動を拒否している……だと!?」
クロノスの叫びも虚しく、要塞中の機械たちが一斉に動きを止めた。そして、ドローンたちは攻撃を止め、パンドラの周りをくるくると回りながら、ライトを点滅させて「喜び」を表現し始めたのだ。
物理的なハッキングではなく、機械の「心(概念)」を直接書き換えるという、パンドラにしかできない荒技だった。
要塞の機能が停止し、無防備になったクロノスの前に、ルシファー様が優雅に舞い降りた。
「……計算、論理、効率か。つくづく、つまらぬ存在だな」
ルシファー様が漆黒のギターを一掻きすると、その不協和音が要塞の構造そのものを共振させ、ひび割れを生じさせた。
「待て! 私の計算では、貴殿の魔力は数値化できるはず……。な、なぜ計測不能になる!? エラー! エラー!!」
「私のパンドラを『素材』にしようとしたその罪、お前の頭脳に刻んでやろう。……上皇、仕上げを頼む」
「ほっほっほ。機械の体なら、錆びさせるのが一番の薬かのう」
上皇様が杖を振ると、鋼鉄の要塞に「千年分の湿気と呪い」が降り注いだ。ピカピカだった機械たちは一瞬で赤錆に覆われ、沈黙した。
こうして、最強の論理を誇った機械の要塞は、パンドラの優しさと魔王たちの理不尽な力の前に完敗した。
「パパ! 見て、この小さなドローン、私についてくるよ! 『ポチ』って名前にしてもいい?」
「……いいよ、パンドラ。それじゃあ、この要塞は今日から『垂直都市・第0.6階層:全自動洗濯・清掃センター』として運営しよう。機械なら、文句も言わずに働いてくれるだろうしね」
私は端末を操作し、クロノスの管理者権限を上書き。「機神」から「清掃主任」へと彼の役職を格下げした。
【戦報:深淵覇権戦争・第ニ試合】
勝者:終焉の垂直都市
戦果:機械の要塞を完全制圧。垂直都市の自動清掃機能が大幅に向上しました。
管理人のメモ:パンドラが懐かせたドローンが、寝室の掃除を奪い合って喧嘩しているので調整が必要。
「さあ、最後は……『勇者殺しの迷宮』か。……最も卑劣で、最も悪趣味な管理者が待っているはずだ」
私は、モニターの向こう側で冷笑を浮かべているであろう最後の敵を見据えた。
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