第54話:緒戦開始! 対決・黒竜のダンジョン! パンドラの『ドラゴン手懐け術』と、魔王のガチ無双
統括管理者の宣告と共に、審議場から強制転送された私たちが目を開けると、そこは『終焉の垂直都市』の第0階層――地上の正門前だった。
しかし、いつもと様子が違う。正門の向こう側には、本来あるはずのない「断崖絶壁と無数の洞窟」が広がる異質な大地が接合されていた。
「……空間連結。あちら側が『竜の揺りかご』の領域というわけか」
私が管理端末で状況を確認する間にも、隣接したダンジョンから空を埋め尽くすほどの影が飛び出してきた。
「グオォォォォォォン!!」
数万羽のワイバーン、そしてその背後には家一軒を丸呑みできそうな巨大な成竜たちが、鋭い爪を光らせて急降下してくる。
「くかか! 震えろ、垂直都市の臆病者ども! 我が最強の軍勢がお前たちの学園もろとも、パンドラという『弱点』を食らい尽くしてやる!」
空に浮かぶ黒竜の管理者の嘲笑が響き渡る。
だが、襲い来る竜の嵐を前にして、パンドラは震えるどころか……目をキラキラと輝かせていた。
「わあ……! パパ、見て! 羽の生えた大きなワンちゃんがいっぱいだよ!」
「ワンちゃん……? いや、パンドラ、あれは一応、伝説の……」
「ルルちゃん、ベルゼブブおじちゃんに貰った『深淵ハーブ入りの特製ジャーキー』、まだ持ってる?」
『……パパ。……ある。……これ、すごく、いい匂い。……お空のトカゲさんたち、お腹空いてるみたい』
ルルが影の中から、牛一頭分はありそうな巨大な干し肉の塊を取り出した。
パンドラはそれを手放すと、天界での戦いで覚醒した魔力を使い、ジャーキーを数千の破片に分解して空へとバラ撒いた。
「みんなー! 喧嘩はやめて、これ食べて落ち着いてー!」
その瞬間だった。
殺気に満ちていた数万の竜たちが、ジャーキーから漂う「魔王特製の魅惑の香り」を嗅いだ途端、空中で急ブレーキをかけた。
「キュ~?」「グルル……(美味そう……)」
さっきまでの咆哮はどこへやら。伝説の竜たちは、尻尾を振りながらジャーキーの欠片を奪い合い、パンドラの足元に次々と着地して「もっと頂戴」と言わんばかりに喉を鳴らし始めたのだ。
「な、何をしている貴様ら! その娘を食えと言ったのだ! 餌付けされるな!!」
黒竜の管理者が顔を真っ赤にして叫ぶ。彼は我慢ならんとばかりに、自身の相棒である超巨大な『古の黒竜』に直接命令を下した。
「古の黒竜よ! あの生意気な小娘をそのブレスで灰にしろ!!」
黒竜が大きく口を開き、山を消し飛ばすほどの破壊エネルギーが充填される。
パンドラに伸びる破滅の光。……だが、それが放たれるよりも早く。
「――やかましいと言っているだろう。この羽虫が」
ドォォォォォォンッ!!!
一閃。
ルシファー様がただ指を弾いただけの衝撃波が、放たれる直前のブレスを口の中で爆発させ、古の黒竜の首を強引に地面へ叩きつけた。
「グ、ギャフンッ!?」
地響きと共に沈む伝説の竜。その頭の上に、ルシファー様が優雅に降り立つ。
「我が娘を『食え』だと? ……その言葉、万死に値する。お前が自慢するその鱗、一枚残らず剥いでパンドラの新しい靴の材料にしてやろうか?」
「ひ、ひぃぃっ!? な、なんだこの魔圧は……!? 貴様、本当に育児で腑抜けた魔王なのか!?」
「勘違いするな。守るべきものが増えた分、私は以前よりも『気が短く』なっているのだ」
続いて上皇様が杖を鳴らす。
「ほっほっほ……。竜の骨というのは、良い三味線の撥になるのう。……おい、黒竜の管理者よ。お主の魂、わしの農園の肥料にしてやろうか?」
結果は、戦いと呼ぶにはあまりに一方的なものだった。
主人が倒され、さらにパンドラに完全に懐いてしまった竜たちは、もはや戦う意思を失っていた。
「パパ、この子たち、とってもお利口さんだよ! 私、この子たちに『お手』と『おかわり』を教えたいな!」
「……いいよ、パンドラ。それなら、このダンジョン(竜の揺りかご)を丸ごと我が校の『飼育舎』として吸収してしまおう」
私は管理端末を操作し、敗北した黒竜の管理者の権限を強制剥奪。空間連結を維持したまま、彼のダンジョンを『垂直都市・第0.5階層:竜の牧場』として再定義した。
「そ、そんな馬鹿な……。我が最強の軍団が、一瞬でペットに……」
廃業へと追い込まれた黒竜の管理者を余所に、パンドラは巨大な竜の鼻先を撫でて笑っていた。
【戦報:深淵覇権戦争・第一試合】
勝者:終焉の垂直都市
戦果:竜のダンジョンを完全吸収。パンドラの『竜騎士(見習い)』スキルが解放されました。
管理人のメモ:ドラゴンの餌代が予算を圧迫しそうなので、ベルゼブブ様に増産を依頼すること。
「さて、次は……『機械仕掛けの要塞』だったかな」
私は、モニターの向こうで青ざめているであろう次の管理者を見据え、冷徹に眼鏡を直した。
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