第53話:いざ、深淵サミットへ! 動き出す管理者たちと、不穏な宣戦布告
垂直都市の最下層、アザトース様が眠る混沌のさらに先。そこには、世界の理から切り離された『虚無の境界・中央審議場』が存在する。
10年に一度、この世界のあらゆる絶望を管理する者たちが集う場所だ。
「パパ、なんだかここ……すごく静かすぎて、少し怖いね」
私の隣で、銀色の髪をなびかせたパンドラが周囲を見渡す。本来、管理者の会議に「部外者」を連れてくるのは規約違反だが、ルシファー様たちが「パンドラを一秒でも目から離すのは宇宙的損失だ」と強弁し、なし崩し的に同行することになった。
「大丈夫だよ、パンドラ。……ルシファー様、上皇様。ここではあまり殺気を出さないでくださいね。他の管理者たちを刺激したくありませんから」
「ふん、我らを呼びつけておいて、いつまで待たせるつもりだ」
漆黒の翼を苛立たしげに震わせるルシファー様の背後で、ルルが影の中から周囲を警戒している。
審議場の巨大な円卓には、既に三人の管理者が着席していた。
一人は、鋼鉄と歯車で構成された『機械仕掛けの要塞』を統べる、感情を排した管理者。
一人は、異世界からの来訪者を効率よく処刑する『勇者殺しの迷宮』を運営する、狡猾そうな男。
そして最後の一人は、漆黒の鱗を持つ巨大な竜に跨り、古の魔法を操る『竜の揺りかご』の管理者だ。
「……おやおや。ようやく来たか、『垂直都市』の落ちこぼれ管理人が」
黒竜の管理者が、鼻で笑いながら口を開いた。
「噂は聞いているぞ。お前のダンジョン、最近は『絶望』ではなく『愛情』を収穫しているそうじゃないか。魔王を子守りに使い、階層をイチゴ農園や遊園地に変えるとは……。ダンジョン運営の風上にも置けんな」
「おっしゃる通りです。運営効率はマイナス。論理的帰結として、貴殿のダンジョンはもはや『無価値』と判定します」
機械の管理者が、冷徹な声で追い打ちをかける。
「パパ……あの人たち、ひどいよ……」
パンドラが悲しげに瞳を伏せる。その瞬間、会場の空気がバキィッ!と音を立てて凍りついた。ルシファー様の周囲に、言葉通りの「絶対的な闇」が渦巻いたのだ。
「……羽虫が。その口、二度と開けぬよう縫い合わせてやろうか?」
「待ってください、ルシファー様!」
私が彼を制止しようとしたその時、審議場の中央に圧倒的な魔力の奔流が降り注いだ。
「――鎮まれ、深淵の王よ」
光とも闇ともつかぬ曖昧な姿をした存在、統括管理者『原初』が姿を現した。
全ダンジョンの生殺与奪の権を握る、絶対的な審判者だ。
「垂直都市の管理人よ。貴殿の報告書は、もはやダンジョンの呈を成していない。……一人の少女のために、世界の恐怖の均衡を崩すことは、規約により禁じられている」
「……彼女は私の娘です。そして、階層主たちの希望です」
私の言葉に、原初は無機質な沈黙の後に告げた。
「ならば、力で証明せよ。……10年に一度の祝祭、『深淵覇権戦争』の開催を宣言する」
審議場の床に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「ルールは単純。各ダンジョンが互いの階層を攻略し合い、最後に残った者が『最恐』の称号を得る。敗北したダンジョンは解体され、そのリソースは勝者に分配される。……垂直都市よ、貴殿らが本当にパンドラという少女を守るに値するか、他の管理者たちの『絶望』に晒して見せよ」
黒竜の管理者が、獰猛な笑みを浮かべて立ち上がった。
「くかか! 楽しみだ。我が最強のドラゴン軍団が、お前の甘っちょろい遊園地を火の海にしてやろう。そのガキも、泣いて逃げ出す暇はないぞ」
「……。管理人、聞こえたか?」
ルシファー様の声は、驚くほど静かだった。しかし、その背後に浮かび上がる影は、天界の神々すら絶望させた真の姿へと変貌しつつあった。
「あやつらは、パンドラを泣かせると言った。……そして、我らが愛する庭を壊すとも。……上皇、テュポーン、アザトースに伝えろ。『本気で遊んでよい』とな」
「ほっほっほ……。久々に、呪い甲斐のある連中じゃのう」
管理端末が、かつてないほどの高熱を発して再起動する。
画面には、新たなクエストログが血のような赤文字で刻まれた。
【メインクエスト:深淵覇権戦争】
目標:全参加ダンジョンの完全制圧
備考:パンドラを驚かせた罪は、魂の消滅をもって償わせる。
「……パパ。私も、みんなと一緒に戦うよ」
パンドラの胸元で、虹色の光を放つ『箱』が共鳴するように輝き始めた。
垂直都市vs全ダンジョン。
一人の少女の笑顔を守るため、魔王たちはかつてない「殺意」を持って、地獄の扉を解き放つのだった。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




