第52話:聖女勧誘お断り! 管理人の鉄拳制裁と、パンドラの『初めての反抗期(?)』
地上の聖アウレオール魔法学園。その応接室には、かつてないほど重苦しい空気が漂っていた。
私の前には、二つの勢力の使者がふんぞり返っている。東方の「龍騎王国」の近衛騎士団長と、西方の「聖教国」の枢機卿だ。
「管理人殿。パンドラ様を『厄災の器』として隠匿し続けるのは、人類への冒険だ。彼女を我ら聖教国の『守護聖女』として迎え入れれば、彼女の罪も浄化されよう」
「いや、我が国の王太子の妃に迎え、龍の加護を与える方が先決だ」
彼らの言葉をタブレットの「翻訳・意図解析機能」にかけると、画面には無慈悲に『(訳:最強の兵器である少女を手中に収めたい)』という注釈が出る。
私はこめかみを指で叩き、冷たく言い放った。
「……そうですか。ならば、まずは当ダンジョンの『おもてなし』を体験していただきましょう。パンドラを連れ出す資格があるか、その身で証明してください」
私が指を鳴らすと、応接室の床が突如として消失した。
使者たちが悲鳴を上げながら落下したのは、第3階層『大喰らいの腐敗沼』。ただし、今のそこはベルゼブブ様が指揮を執る「地獄の給食センター」だ。
「な、なんだこの巨大なハエは!? 助け……うぐっ!?」
枢機卿の口に、見習いバイト中の勇者アリスが作った「超激辛・地獄タマネギのピクルス」が突っ込まれる。
「食べろ! パンドラ様が育てた野菜を無駄にする奴に、彼女を語る資格はない!」
さらに彼らは、第4階層のテーマパークでクトゥルフの「狂信的なアナウンス(24時間耐久)」を聴かされ、第5階層でフェンリルの毛玉に埋もれて凍えそうになった。
管理端末の絶望ポイント計は、久しぶりに景気のいい数値を叩き出していた。
だが、その様子を魔法の鏡で見ていたパンドラが、勢いよく執務室の扉を開けた。
「パパ! もうやめてあげて!」
12歳の彼女は、怒りに頬を膨らませていた。その後ろでは、ルルが「……パパ、パンドラ、怒ってる。……怖い」と私の影に震えながら隠れている。
「パンドラ、彼らは君を道具にしようとしているんだ。少し懲らしめておかないと……」
「わかってるよ! でも、おじちゃんたちを使って怖がらせるだけじゃ、何も解決しないでしょ!? 私、もう子供じゃないんだよ。パパもおじちゃんたちも、私を守りすぎ!」
その言葉に、影に潜んでいたルシファー様と上皇様が、まるで物理的な打撃を受けたかのように「ガーン」という効果音が見えるほどのショックを受けて現れた。
「パ、パンドラ……。私はただ、君の未来から羽虫を排除したくて……」
「そうじゃ、わしらはただの善意で……」
「ううん、パパたちの善意は嬉しい。でも、私の問題は、私がお話しして決めたいの! 隠れてないで、ちゃんと私を信じて!」
初めて見るパンドラの強い意志。それは「反抗期」というよりは、一人の自立した女性としての産声だった。
私は端末を置き、深いため息をつくと、彼女の目を見つめた。
「……わかったよ、パンドラ。君を信じきれなかったのは、パパの落ち度だ。……ルシファー様、上皇様。使者たちを一旦戻してください」
パンドラが直接、使者たちを「笑顔(と、背後に漂う圧倒的な魔圧)」で丁重にお引き取り願った後。
静かになった執務室の机に、一通の『黒い招待状』が音もなく出現した。
「……これは?」
ルシファー様が眉をひそめる。
招待状は禍々しい紫の光を放ち、私の端末と同期してメッセージを表示した。
【緊急招集:全ダンジョン管理者会議】
議題:『終焉の垂直都市』における運営倫理の欠如、および階層主の弱体化疑惑について。
場所:虚無の境界・中央審議場
追記:管理責任者よ、10年に一度の定例報告を怠るな。貴殿のダンジョンが『育児院』に成り下がったという噂は、既に全ての管理者の耳に届いている。
「……統括管理者。この世界のダンジョン全てを監視する、私の『上司』か」
私は招待状を握りしめた。
パンドラとの出会いから12年。私たちが築いてきた「幸せな地獄」が、ついにシステムそのものから否定されようとしていた。
「ふん、面白かろう。誰が『腑抜けた』と言ったのか、その面を拝みに行ってやろうではないか」
ルシファー様が不敵に笑う。
それは、パンドラという愛を知った魔王たちが、再び「最恐」の顔を取り戻す幕開けだった。
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