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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第5章『天界逆侵攻編』

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第51話:勇者更生プログラム! ベルゼブブの料理教室と、脱走不可能な地獄のバイト

 垂直都市ラスト・バーティカル第3階層『大喰らいの腐敗沼』。

 かつては攻略者の内臓を腐らせる毒ガスが充満していたこの場所は、今や「深淵最大の食品加工工場」へと変貌を遂げている。

「おい、そこの銀ピカ! 手を休めるな! その『地獄カボチャ』の皮剥きが終わらなければ、今日のパンドラ様の夕食に間に合わんぞ!」

「ひ、ひぃぃ……! ぼ、僕は勇者ですよ!? 伝説の聖剣を授かった、選ばれし……」

「やかましい! ここでは私の包丁捌きこそが伝説だ! 聖剣があるなら、それでマッシュルームのスライスでもしていろ!」

 巨大なエプロンを締め、六本の腕で同時にフライパンを振るベルゼブブの怒声が響く。

 その足元で、泥まみれになりながら山のような野菜と格闘しているのが、昨日パンドラに求婚して叩き伏せられた勇者アリスだった。


 私は管理事務所で、タブレットに送られてくる第3階層の映像を眺めながらコーヒーを啜っていた。

「……案外、馴染んでいるみたいだね。勇者アリス君」

「パパ、アリスさん大丈夫かな? ベルゼブブおじちゃん、お料理のことになるとすっごく厳しいから……」

 隣でルルと一緒に「お土産のクッキー」を選んでいたパンドラが、心配そうに画面を覗き込む。

「大丈夫だよ。ベルゼブブ様はああ見えて、教育熱心だからね。彼が教えるのは『効率的な食材の殺し方』と『完璧な火加減』だ。……まあ、勇者が求めていた修行とは180度違うだろうけど」

 画面の中では、アリスが「深淵タマネギ」の刺激臭に涙を流していた。

 このタマネギは、切る者の「過去の恥ずかしい記憶」を強制的に思い出させるという精神攻撃属性を持っている。アリスは中二病全開だった頃の自分の台詞を叫びながら、一心不乱に包丁を動かしていた。


【通知:勇者アリスのステータス変化】

【称号:パンドラへの求婚者 → ベルゼブブの三級助手(見習い)】

【絶望ポイント:微増(ただし、労働意欲による生産性が上回っています)】


 そんな平和(?)な光景を眺めていた私のもとに、地上の学園の門番――武装したスケルトンから緊急の通信が入った。

『管理人様! またです! また別の国から「使者」を名乗る者たちが現れました!』

「……またか。今度はどこの国だい?」

『東方の「龍騎王国」と、西方の「聖教国」です! どちらも「天界を退けた奇跡の少女(パンドラ様)を、我が国の守護聖女として迎えたい」と……。あと、王太子の婚約者候補にという親書も持参しています!』

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、執務室の空気が氷点下まで下がった。

 ソファーでくつろいでいたルシファー様が、無言で立ち上がる。その瞳には、天界を焼き尽くした時と同じ「終焉の火」が灯っていた。

「……管理人。地上の連中は、よほど命が余っているらしいな」

「上皇、三味線の準備を。リヴァイアサンには、周辺の海域に巨大な渦を作っておくよう伝えておく。……ルルも、おやつの時間は終わりだ。門の前に『影の落とし穴』を設置してくれ」

「ちょちょちょっ、ルシファー様! まだ外交の余地がありますから! いきなり国を滅ぼそうとするのはやめてください!」

 私は慌ててタブレットを操作し、学園の防壁を「物理遮断モード」から「認識阻害モード」へと切り替えた。


 パンドラが12歳になり、天界との戦いに勝利したことで、彼女の存在は世界中に知れ渡ってしまった。

 人々は彼女を「厄災の箱を開ける者」ではなく、「神を打ち倒した希望の象徴」として崇め、あるいはその力を利用しようと画策し始めている。

「パパ。……お外が、また騒がしいね」

 パンドラが、少しだけ不安そうに私の袖を引く。

「……大丈夫だよ、パンドラ。君が誰かの道具にされることなんて、絶対にあり得ない。この垂直都市の管理人として、そして君のパパとして……世界中の王様を敵に回してでも、君の自由は守ってみせる」

『……ルルも。……パンドラ、連れて行く人。……全員、影の中に、沈める。……パパ、許可、ください』

 ルルが影を広げ、不気味な笑みを浮かべる。

「許可は出せないけど、学園の掃除(追い出し)は手伝ってもらおうかな。……さて、ルシファー様。とりあえず、その黒い炎を消してください。学園の火災報知器が鳴りっぱなしです」

 管理人の苦労は、神様を倒したくらいでは終わらない。

 むしろ、娘が有名になるほど、私の胃の痛みと業務量は増えていく一方だった。

「……よし、勇者アリス君には悪いけど、バイトの期間を無期限に延長だ。彼を『盾』にして、地上の使者たちを追い払うプログラムを組むとしよう」

 私は新たな「運営計画(防衛策)」をタブレットに打ち込み、地上の喧騒へと立ち向かう準備を始めた。

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