表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第5章『天界逆侵攻編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/55

特別編2:美食の沼と深海遊園、そして氷の聖なる厨房

 第2階層の激しい雷火と、テュポーンの百の蛇頭による熱烈な歓迎とマッサージを後にした私たちは、さらに垂直都市の深部へと降りていった。私の手にある管理端末の画面には、下層に進むにつれて複雑な魔力の乱れを示す波形が踊っている。天界遠征の間、主たちが不在にしていた影響は、深くなるほどに顕著な変貌を遂げているようだった。

「次は第3階層だね。パパ、ベルゼブブおじちゃんのところ、また新しいメニュー増えてるかな?」

 銀色の髪を揺らす12歳のパンドラが、期待に胸を膨らませて私の顔を覗き込む。その後ろでは、ルルが天界の布をマントのように羽織り、影の手で「おやつ入れ」をしっかりと握りしめていた。

 第3階層『大喰らいの腐敗沼』。本来ならば、辺り一面に腐肉と汚泥が広がり、吸い込むだけで内臓を腐らせる毒ガスが漂う絶望の地だ。しかし、私たちがゲートをくぐった瞬間に漂ってきたのは、食欲をそそる芳醇なスパイスと、何かをじっくりと煮込む香ばしい匂いだった。

「これは……もはや沼というより、巨大な厨房だね」

 目の前に広がる景色は、かつての腐敗沼の面影を残しつつも、劇的な「進化」を遂げていた。階層主ベルゼブブが、パンドラのために美味しいものを追求しすぎた結果、沼の各所に巨大な寸胴鍋が設置され、ハエの群れたちは今や清潔な三角巾とエプロン(のようなもの)を身に着け、一心不乱に食材の下ごしらえに励んでいる。

「おお、管理人! それにパンドラ、よくぞ戻った! 見てくれ、この『深淵発酵ソース』の出来を。天界の調味料を隠し味にしたら、ついに究極のコクに到達したのだ!」

 ハエの王、ベルゼブブが巨大な翅を震わせて飛んでくる。だが、彼の足元を見れば、本来は攻略者を捕食するための腐敗エネルギーが、すべて「低温調理」のために転用されていた。

「ベルゼブブ様、管理端末には『第3階層の絶望ポイントがゼロになり、代わりに食通ポイントがカンストしています』と警告が出ています。冒険者が毒ガスではなく、美味しそうな匂いに釣られて自ら沼に飛び込んでいるのは、ダンジョンの規約違反ですよ」

 私がそう苦言を呈すると、ベルゼブブは「何を言う。胃袋を掴むことこそ最大の精神支配ではないか」と豪快に笑った。パンドラが特製ソースの味見をして「おじちゃん、これ最高!」と親指を立てるのを見て、私は溜息と共にこの階層の「魔改造」を黙認することにした。

 次に向かったのは、第4階層『深淵の沈黙海』だ。

 重力が狂い、海水が宙を舞う幻想的なこの階層は、今や「深淵マリンパーク」としての貌を確立していた。ゲートを抜けると、空中に浮かぶ海水のトンネルの中を、巨大な魔魚たちが優雅に泳ぎ、その間を色とりどりの光る珊瑚が彩っている。

「パパ、見て! リヴァイアお姉ちゃん、あそこにいるよ!」

 パンドラの指差す先、巨大な海水の球体の中で、人型形態のリヴァイアサンが美しい銀髪を靡かせて、人魚のように優雅に泳いでいた。彼女はこのダンジョンで数少ない「女性」の階層主であり、パンドラにとっては頼れる、そして少しお節介で華やかなお姉さんだ。

「あら、おかえりなさい管理人さん! パンドラちゃん、天界で意地悪な神様に何かされなかった? 大丈夫、お姉さんが天界の奴らをとっちめてあげるからね!」

 リヴァイアサンが海中から飛び出し、キラキラとした飛沫を上げながら私たちの前に降り立つ。彼女の背後では、かつては狂気をもたらすと恐れられた沈没都市ルルイエが、今や煌びやかな電飾(魔力光)に彩られたアトラクションへと変貌していた。

「リヴァイア様、このテーマパーク化の勢いは何ですか。管理端末によれば、ルルイエの深部にいるクトゥルフ様が、最近は自分の発する『狂信的な囁き』を、パークの園内放送やアトラクションのガイド音声に使わされていると苦情が出ていますよ」

「いいじゃない、彼も寝言を有効活用できて喜んでるわよ? それより、あっちの『次元流れるウォータースライダー』、パンドラちゃんのために新調したの。ルルちゃんも一緒にどう?」

『……ルル、水、苦手。……でも、お姉ちゃんと、一緒なら、流される。……どんぶらこ、する』

 リヴァイアサンの強引かつ華やかなペースに巻き込まれ、クトゥルフの呻き声が「本日はご来園ありがとうございます」という歓迎の言葉に変換されていく光景を端末に記録しながら、私は複雑な心境で次の階層へと急いだ。

 最後に到着したのは、第5階層『凍てつく終末の荒野』。

 全てが凍りつく絶対零度の世界だが、ここには以前から、パンドラの離乳食や美味しいアイス、保存食を管理するための「深淵最高級厨房」が設置されている。主である終末の狼フェンリルが放つ圧倒的な冷気は、今や世界最高の「急速冷凍システム」として、ダンジョンの食料事情を支えていた。

「ガルル……(管理人か。ようやく帰ったか。パンドラがいなくて、この階層は冷え込みすぎていたぞ……)」

 フェンリルが、厨房の入り口で丸くなって私たちを迎える。巨大な狼の周囲には、天界から略奪……もとい、お土産として持ち帰った高級食材が山積みになっていた。

「フェンリル様、お久しぶりです。厨房の稼働状況はどうですか?」

「ふむ、この奥の永久凍土室は完璧だ。だが、パンドラが地上の学園で作ったという『プリン』を保存するために、一番温度の安定した場所を空けておいたぞ。……さあ、早く入れるがいい」

 絶望の狼が、パンドラが作ったささやかな手土産を心待ちにしていた事実に、私は思わず頬が緩んだ。パンドラは凍てつく風など物ともせず、フェンリルのふかふかの首元に抱きつき、「おじちゃん、ただいま! プリン、一緒に食べようね!」と声をかける。

 その温かな光景の傍らで、ルルは厨房のストックから凍った魔力肉をこっそり影でつまみ食いし、フェンリルに「それは明日の晩餐用だ」と軽くたしなめられていた。

 第3から第5階層。

 美食と遊園地、そして最高の冷凍保存技術。かつての攻略者を絶望の淵に叩き落とした地獄は、いまや一人の少女を笑顔にするための「究極の居住空間」へと洗練されていた。私は端末に「点検完了:各階層、パンドラへの愛により、防衛力よりもホスピタリティが大幅に上昇中」と書き込み、いよいよ魔王ルシファーの待つ第6階層、そしてアザトースの眠る最下層へと足を進めるのだった。

更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ