第49話:おうちに帰るまでが遠足です! 天界からの略奪……いえ、お土産確保作戦!
神の法廷が崩壊し、静寂が戻った天界の最上層。
私は、腕の中で安心しきって眠るパンドラの温もりを感じながら、改めて周囲を見渡した。黄金の柱は砕け、かつての威厳は見る影もない。
「さて、管理人。パンドラも無事に取り戻したことだ。……ただで帰るつもりはあるまいな?」
ルシファー様が、不敵な笑みを浮かべながら漆黒の翼を羽ばたかせた。その手には、いつの間にか天界の門を守っていた「聖なる燭台」が握られている。
「ルシファー様、それは立派な窃盗ですよ。……と言いたいところですが、今回ばかりは私も散々な目に遭いましたからね。少しばかりの『慰謝料』は頂いてもバチは当たらないでしょう」
私は懐から、垂直都市の管理権限を記した管理用端末を取り出した。そして、現在の状況を記していく。
「ほっほっほ。あそこに見えるは、万病を癒やすとされる『生命の滴』の噴水ではないか。管理事務所の中庭に置けば、パンドラが転んでもすぐに治せるのう」
上皇様が杖を一振りすると、巨大な大理石の噴水が丸ごと浮き上がり、次元の裂け目へと吸い込まれていった。
「あ、じーじ! あっちのキラキラしたお星様みたいなランプも欲しい! パパが夜にお仕事する時、暗いと目が痛くなっちゃうもん!」
目を覚ましたパンドラが、無邪気に天を指差す。それは天界の夜を照らす『永劫の輝石』――地上の王国一つが買えるほどの国宝級の魔石だ。
「よかろう、パンドラ。……あのような石ころ、私がまとめて収穫してきてやろう」
ルシファー様が空へ舞い上がり、魔法の鎖で次々と輝石を絡め取っていく。天界の住人たちが遠巻きにそれを見て絶望していたが、今の彼らには止める術などなかった。
『……パパ。……あの白いカーテン。……おいしそう。……ルル、あれで、ハンモック作りたい』
ルルが指差したのは、神の玉座を覆っていた『純潔の天糸』。神話の時代から伝わる、あらゆる呪いを跳ね返す伝説の布だ。
「ルルちゃん、それは食べちゃダメだよ? ハンモックにするなら、パパがしっかり縫ってあげるからね」
『……わかった。……じゃあ、ルル、袋になる。……みんなが持ってきたやつ、全部、お腹に隠す』
ルルが大きな口を開けると、その影が広がり、魔王たちが持ち寄った天界の至宝を次々と飲み込んでいった。彼女の体内は深淵の胃袋であり、無限の収納空間でもあるのだ。
天界の頂から、住み慣れた垂直都市へと続く次元の道が開かれる。
私たちは、奪った……ではなく「譲り受けた」数々の土産と共に、ゆっくりと降下を始めた。
「パパ、見て! 私たちの街が見えてきたよ!」
雲を突き抜け、眼下に広がる巨大な塔――私たちが守り、育ててきた場所。そこには、管理人不在の間、不安に耐えていた魔物たちや住人たちが、私たちの帰還を待ちわびて集まっていた。
「……ようやく帰ってきたな。やはり、この澱んだ魔力とカビ臭い空気こそが、私に相応しい」
ルシファー様が満足げに頷く。
【ログ:神の法廷を制圧し、垂直都市へ帰還。天界の財宝の約三割を『接収』しました。】
【秘められた成果:パンドラが『神の理』に触れたことで、その魔力に慈愛の色が混じり始めました。】
【管理人のメモ:天界の噴水を持ち帰ったはいいものの、設置場所を考えなければなりません。あと、ルシファー様が持ち帰った『天使の羽根の枕』が思いのほかフカフカだったので、今夜はパンドラとルルと一緒に、久しぶりにぐっすり眠れそうです。】
「パパ! 明日はね、みんなで『お土産パーティー』しようね! 私、エプロンして準備するから!」
「ああ、楽しみだね。……でもその前に、パパは溜まった書類を片付けなきゃいけないかな……」
私の言葉に、魔王たちが一斉に顔を背けた。
平和な、いつもの騒がしい日常が、ようやく戻ってきたのだ。
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