第48話:神の法廷! 第七の使徒、審判者の『究極の二択』とパパの逆襲
天界の頂、第七の丘――『神の法廷』。
そこは、雲さえも存在しない無の空間に、ただ巨大な黄金の天秤だけが浮遊する、冷徹な静寂の地だった。
「パパ……!!」
パンドラの叫びが響く。
天秤の右側、光の檻に閉じ込められていた私は、娘の姿を見て目を見開いた。
「パンドラ! 来ちゃダメだと言ったのに……でも、よく頑張ったね。……そしてルシファー様、うちの娘をこんな危ないところに連れてこないでください!」
「ふん、止めて止まるような娘ではないわ。……それより管理人、貴様のその情けない姿は何だ。さっさとその檻を破壊して出てこい!」
ルシファー様が毒づくが、その視線は私の無事を確認して安堵に揺れている。しかし、私たちの間に、一人の男が舞い降りた。
天界十二使徒・第七の騎士、審判者ミカエル。
彼は六枚の輝く翼を広げ、手にした『真理の書』を開く。
「……ここまで来るとは、予想外だ。だが、法廷の幕は既に上がっている。厄災の器よ、貴女に最後の『審判』を下そう」
ミカエルが指を鳴らすと、黄金の天秤が大きく揺れ動いた。
「この天秤の左側には、貴女という『存在そのもの』を載せる。右側には、その『管理人の命』だ」
天秤の左側に、パンドラの姿を模した虹色の光が具現化される。
「今この瞬間も、管理人の魂は少しずつ霧散している。……彼を救う方法はただ一つ。貴女が自ら『パンドラの箱』の奥底に永遠に引きこもり、その存在をこの世界から抹消することだ。……管理人の命か、貴女の存在か。選ぶがいい」
「そんな……パパを助けるには、私が消えなきゃいけないの……?」
パンドラの手が震える。ルシファー様たちが飛びかかろうとするが、ミカエルの展開した『絶対法』の壁に阻まれ、一歩も近づけない。
「さあ、決断を。管理人の魂が完全に霧散されるまで、あと十秒だ」
パンドラが、涙を浮かべながら天秤の左側へ歩み出そうとした。
その時。
「――はい、そこまで。そのガバガバな論理、訂正させてもらうよ」
檻の中にいたはずの私の声が、法廷全体に響き渡った。
ミカエルが驚愕して私を振り返る。
「な……!? 貴様の魂は既に凍結されているはず――」
「言ったでしょ。私は『管理人』だって。……禁じ手だけどね。……ルルちゃん、悪いけど私の影にある『予備電源』、食べてくれるかな?」
『……パパ、了解。……もぐもぐ。……これ、おいしい。……神様の、パスワードの味』
影の中にいたルルが、法廷の床そのものを一口囓った。
その瞬間、黄金の天秤が不協和音を立てて停止する。
私は檻をすり抜け、パンドラの前に立った。
驚くパンドラの頭を一度だけ優しく撫で、私はミカエルに向けて、予備の管理用端末を掲げる。
「ミカエルさん。君は『パンドラの存在』と『私の命』を等価値だと言ったね。……それは大きな間違いだ。……彼女は私の『娘』だ。親にとって、子供の存在価値は『無限』なんだよ」
「そもそも成り立たないんだよ、最初から。……だから、天秤ごと書き換えさせてもらう」
私が画面をスワイプした瞬間、法廷の黄金色が、管理事務所でお馴染みの「セピア色の落ち着いた空間」へと上書きされていく。
「な……神の法廷が……ただの事務所の応接室に書き換えられていくというのか!? 貴様、何者だ!?」
「ただの、心配性なパパだよ。……ルシファー様、上皇様! お待たせしました、あとは『物理的』な処理をお願いします!」
「――待っていたぞ、この時を!!」
「ほっほっほ、管理人が道を空けたぞ! 暴れる時間じゃ!」
法廷のルールが崩壊した瞬間、溜まりに溜まった魔王たちの怒りが爆発した。
ルシファー様の闇がミカエルの翼を毟り、上皇様の呪符が神の理を縛り上げる。
そして、パンドラが私の胸に飛び込んできた。
「パパぁ! よかった……本当によかったぁ!!」
「ごめんね、パンドラ。……さあ、最後は一緒にお願いできるかな? この意地悪な神様たちに、とびきりのやつを」
パンドラは涙を拭き、私と一緒にミカエルをビシッと指差した。
「『めっっっっっっっっっ!!!』」
カァァァァァァッ!!!
パンドラの虹色の光と、管理人のシステム介入が合わさり、天界の最上層は目も眩むような「希望」の光に飲み込まれた。
【ログ:神の法廷、強制終了。第七の使徒ミカエル、管理人の『論理ハック』により職務放棄(再起不能)。】
【獲得ポイント:+500,000,000P(神の理が『親バカの愛情』という非論理的な力に粉砕された絶望より)】
【管理人のステータス:称号『神を論破せしパパ』を習得。】
【パンドラのステータス:スキル『存在の肯定(パパ大好き)』がカンストしました。】
「さあ、みんな。天界の宝物庫をちょっとだけ『整理』したら、垂直都市に帰ってパーティーの続きをしようか!」
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