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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第5章『天界逆侵攻編』

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第47話:慈悲の雨! 第六の使徒、聖母の『やり直し』の誘惑

 天界の第六の丘、『忘却の慈雨マーシー・レイン』。

 そこは、これまでの激戦が嘘のように静かで、温かい雨がしとしとと降り続く場所だった。その雨に濡れると、不思議と心の中の怒りや焦りが消え、ただ「眠りたい」という穏やかな多幸感に包まれていく。

「……ぬぅ、体が重い。魔力が霧散していくようだ。この雨、ただの浄化ではないな……」

 ルシファー様が、重い瞼をこすりながら大剣を杖代わりにする。

「ほっほっほ、これは『慈悲』という名の麻薬じゃ。過去を忘れ、今を捨て、ただ安らぎの中に沈めようとする……老いぼれには少々効くわい」

 上皇様もまた、戦意を削がれ、その場に座り込みそうになっていた。

 雨のカーテンを割り、一人の女性が姿を現す。

 天界十二使徒・第六の騎士、聖母ガブリエラ。

 彼女は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、パンドラの前で優しく膝をついた。

「かわいそうな子。世界に拒絶され、箱に閉じ込められ、魔王たちの血なまぐさい世界で育たなければならなかった、悲劇の申し子よ」

「……おばさん、だれ?」

「私は貴女の味方です。……パンドラ、貴女は『やり直したい』と思ったことはありませんか? 厄災の力など持たず、実の両親に愛され、日だまりの中でパンを焼く……そんな『普通の少女』としての人生を」

 ガブリエラが手をかざすと、雨粒が空中で光り輝き、一つの「光の扉」を作り出した。

 その向こうに見えるのは、今の「垂直都市」とは正反対の世界。

 そこには、パンドラによく似た面影を持つ人間の男女がいた。

 彼らは、生まれたばかりの赤んパンドラを愛おしそうに抱きしめ、名前を呼んでいる。

「あの扉をくぐれば、貴女の運命は書き換えられます。魔王たちの記憶も、パパ(管理人)との日々も消えますが……代わりに、貴女は『本当のパパとママ』の元へ帰れるのです。……さあ、肩の荷をおろして、お行きなさい」

「本当の……パパと、ママ……」

 パンドラの足が、ふらふらと扉へ向かう。

 ルシファー様も上皇様も、止めることができなかった。それがパンドラにとっての「究極の幸福」であるならば、自分たちが引き止めるのはエゴではないか――その「慈悲」の毒が、彼らの動きを封じていたのだ。

 扉の直前で、パンドラは足を止めた。

 光の向こうの「ママ」が、パンドラに向かって手を広げている。

「……ねえ、おばさん。一つだけ教えて?」

「おば……何かしら、愛しい子」

「あの扉の向こうのパパは……私が悪いことをしたら、ちゃんと叱ってくれる? 私がプリンを隠れて食べたら、『めっ!』って言ってくれる? ……私が寂しくて泣いた時、自分の仕事を放り出して、真っ先に抱っこしてくれる?」

 ガブリエラは戸惑ったように目を瞬かせた。

「……そこは完璧な世界です。貴女が泣くことも、叱られることもありません。永遠に穏やかな愛だけがあるのです」

「――じゃあ、いらない」

 パンドラは、きっぱりと言い放ち、扉に背を向けた。

「あのね、私を産んでくれた人は、私を箱に捨てたの。……でも、今のパパは、箱を開けて、私を見つけてくれた。……おじちゃんたちは、私が『厄災』だって知ってても、一緒に遊んでくれた。ルルちゃんは、私の家族いもうとになってくれた」

 パンドラが胸の『箱』をぎゅっと抱きしめる。

 そこから溢れ出したのは、これまでの日々で積み重ねた「騒がしくて、怒られて、笑い転げた」記憶の輝き。

「血が繋がってるとか、やり直せるとか、そんなのどうでもいいもん! 私にとっての『本当のパパ』は、今あそこで意地悪な神様に捕まってる、あの真面目で心配性な管理人さんだけだもん! 『めっっっ!!!』」

 パンドラの拒絶の意志が、虹色の衝撃波となって「忘却の慈雨」を蒸発させた。

 温かいだけの偽りの幸福を、彼女の「今を愛する強さ」が力づくで否定したのだ。

「そんな……! 完璧な過去よりも、魔王たちとの歪な現在を選ぶというのですか……!?」

「歪じゃないよ! 最高の毎日だもん! ……おばさんの慈悲は、ちょっとお節介すぎるよ!」

 虹色の光がガブリエラを包み込む。それは彼女の「聖母としての未熟さ」を優しく、しかし容赦なく突き刺した。

 ガブリエラはパンドラの瞳の中に、天界の誰よりも深い「真実の愛」を見て、戦意を喪失した。

「……負けました。……貴女を育てたのは、神の慈悲などではなく……もっと強く、泥臭い、絆だったのですね」

 雨は上がり、空にはパンドラの魔力による巨大な七色の虹が架かった。

【ログ:天界第六の丘を突破。聖母ガブリエラ、パンドラの『家族愛』に感服し降参。】

【獲得ポイント:+200,000,000P(聖母が自らの慈愛の浅さを思い知らされた絶望より)】

【パンドラのステータス:スキル『不変の絆』を習得。】

【管理者コメント(自動返信):パンドラ……。君がそこまで言ってくれるなら、パパ、もう一生このダンジョンから出られなくても……いえ、やっぱり今すぐ助けに来て! 感動で画面が見えません!】

「パパ、待ってて! あと一つ、最後の丘を越えたら……絶対に助けてあげるから!」

 ついに見えてきた、天界最上層。

 そこには、十二使徒の最強にして最後の一人――そして、この事件の黒幕である「神の代行者」が待ち構えていた。

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