第42話:管理人の行方! 天界の最上層『神の法廷』に囚われたパパ
天界の正門『エリュシオン・ゲート』。
そこは、罪なき魂のみが通過を許される、純白と黄金に彩られた神聖なる領域。だが今日、その静寂は「物理的な暴力」によって完膚なきまでに打ち砕かれた。
「……眩しい。悪趣味なほどに真っ白だな。私のセンスなら、この門柱にはもっと上品なドクロの彫刻を施し、空は永劫の夜に変えてやるのだが」
漆黒の十二枚翼を広げ、天界の空気を汚染しながら降り立ったのはルシファー様だ。その隣では、上皇様が不快そうに鼻を鳴らしている。
「ほっほっほ。酒の味が落ちるほどの清らかさじゃ。パンドラや、あまりこの空気は吸わぬ方がよい。肺が洗脳されてしまうぞ」
「大丈夫だよ、じーじ。……それより、あそこに誰かいる!」
パンドラが指差す先。門を守護するのは、白銀の甲冑に身を包んだ天界十二使徒・第一の騎士ラファエルと、千人の天使兵団だった。
「止まれ、穢れた深淵の住人ども。ここは神の庭。災厄の器と堕天使が踏み入ってよい場所ではない。……管理人の男は、今ごろ『神の法廷』にて存在の消去を審議されている最中だ。貴様らもここで塵に還してやろう!」
「……今、パパを『消去』するって言った?」
パンドラの声が、低く冷たく響いた。
彼女の足元から、虹色の波紋が広がっていく。それは優しさではなく、大切なものを奪われた者が放つ「静かなる威圧」だった。
「ルシファーおじちゃん。……あの人たち、邪魔」
「承った。……パンドラ、目をつぶっていなさい。少々、景色が『赤く』染まる」
ルシファー様が指を鳴らした瞬間、天界の空がひび割れた。
降り注ぐのは、神の加護を無効化する『堕天の劫火』。
「な、なんだこの威力は!? 以前の戦いとは比べものにならない……!?」
「当たり前だ。これまではパンドラの教育に悪いからと手加減していたのだ。……今の私は、愛娘の休日を台無しにされた、ただの機嫌の悪い魔王だぞ」
ルシファー様の圧倒的な魔力が、一瞬にして天使兵団を蹂躙していく。
『……お空の人。……パパを、隠した。……許さない。……全部、食べる』
ルルが影の巨獣へと姿を変え、ラファエルが放つ『神聖なる雷』を、まるでポップコーンでも食べるかのように一口で飲み込んだ。
「ば、馬鹿な! 神の雷を……食べたのか!?」
『……おいしくない。……パパのプリンの方が、百倍、おいしい。……お返し』
ルルが口を開くと、先ほど飲み込んだ雷が「漆黒の崩壊光線」へと変換され、ラファエルの盾を粉砕した。
膝をつくラファエルの前に、パンドラが静かに歩み寄る。
彼女は腰に手を当て、逃げ惑う天使たちと、震える騎士を真っ直ぐに見据えた。
「みんな、聞いて! 私は、喧嘩をしに来たんじゃないの。……パパを返してくれれば、これ以上は痛いことしないよ。でも――」
パンドラが空を仰ぐ。その背後には、ルシファー様と上皇様、そして数万の魔王軍が控えている。
「――もしパパに何かあったら、この白いところ、全部私の『箱』の中に閉じ込めちゃうからね。……メッ、だよ!」
ドォォォォォォン!!
パンドラの「メッ!」に合わせて、天界の門が黄金の輝きを失い、ドロドロの飴細工のように溶け始めた。
それは彼女の権能――『世界の書き換え』。彼女の怒りに呼応して、天界の法則そのものが崩壊し始めたのだ。
「ひ、ひぃぃ……! 災厄だ……予言通り、あの娘が天界を滅ぼす……!」
ラファエルたち守備隊は戦意を喪失し、パンドラの一睨みでクモの子を散らすように逃げ去った。
「パパのところまで、あとどれくらい?」
「……この先に、天界の七つの丘がある。その頂が『神の法廷』だ。管理人め……今ごろ、神々の説教を鼻くそをほじりながら聞いているといいのだがな」
ルシファー様は軽口を叩くが、その瞳には焦りがあった。神の法廷――そこは時間の流れが地上とは異なり、一度「判決」が下れば、過去から未来まで管理人の存在が抹消されてしまう場所なのだ。
【ログ:天界正門を突破。天界十二使徒・第一の騎士を撃破(戦意喪失)。】
【獲得ポイント:+30,000,000P(天使たちが味わった『慈悲深いはずの少女に法則を書き換えられるという、根源的な恐怖』より)】
【パンドラのステータス:スキル『天界逆侵攻の旗手』を習得。】
【管理者コメント(自動返信):パンドラ……門を壊すのはいいけど、怪我だけはしないでね。……あと、ルシファー様。私のデスクにある『お土産の饅頭』、勝手に食べないでくださいよ。……まだ、生きてますから】
「パパのメッセージだ! ……待ってて、パパ。今すぐ助けに行くから!」
パンドラの12歳の誕生日は、神話の終焉と、新たな支配者の誕生を告げる戦いへと加速していく。
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