第39話:パンドラの学園祭! 出し物は『リアルお化け屋敷(本物の魔王出演中)』!?
学園中が浮き足立っていた。
あちこちで模擬店の準備が進み、色とりどりの装飾が廊下を彩る中、パンドラのクラスは深刻な問題に直面していた。
「……ダメだよ、これじゃ全然怖くないよ。段ボールの骨組みが見えてるし、こんにゃくを吊るすだけなんて古臭いよ!」
クラスの文化祭実行委員に選ばれたパンドラが、試作品の「お化け屋敷」を見て溜息をつく。
10歳の彼女にとって、家(垂直都市)には「夜歩く鎧」も「壁に溶け込む怨霊」も「視界に入っただけで発狂する異形の怪物」も日常茶飯事なのだ。彼女の恐怖の基準は、一般生徒とは天と地ほどの差があった。
「パンドラちゃん、そう言われても……。予算もないし、本物の幽霊なんて呼べないし」
「……ううん。本物なら、心当たりがあるよ!」
パンドラがニッコリと笑った瞬間、学園の影が不自然に伸びた。
文化祭当日。パンドラのクラスの出し物『深淵への片道切符』の前には、なぜか開門前から長蛇の列ができていた。
「いいか、貴公ら。これはパンドラの『学業の成果(?)』を披露する場だ。手加減など不要。この部屋に足を踏み入れた人間に、宇宙の理が崩壊するほどの『真の絶望』を味わわせてやるのだ」
教室の隅で、黒いボロボロのローブを纏ったルシファー様が、指先から禍々しい闇の霧(※演出用と本人の主張)を漏らしている。
「ほっほっほ。わしはこのクローゼットの中から、入ってきた者の過去のトラウマを具現化して見せようかのう。……ああ、久しぶりに魂の震えが楽しみじゃ」
上皇様は、本物の「呪いの日本人形」を小脇に抱え、肖像画の裏でスタンバイしている。
「……皆さん、何度も言いますが、心臓麻痺だけは出さないでくださいね。あと、お客様が絶望しても『セーブポイント』は作らないように。学園がダンジョン化してしまいます」
私は管理用タブレットを片手に、教室内の魔力濃度を「死なない程度」に調整するのに必死だった。
開園:地獄の門が開く
最初に入ってきたのは、調子に乗った上級生の男子グループだった。
「へっ、お化け屋敷なんてガキの遊びだろ? さっさと通り抜けてパンドラちゃんに――」
彼らが一歩踏み出した瞬間、教室内は「無限に続く血の回廊(空間拡張魔法)」へと変貌した。
『……いらっしゃい。……お肉、置いていって。……ルル、お腹、ペコペコ』
天井から逆さまに吊るされたルルが、顔半分を影の触手に変えて微笑む。
「ぎゃあああああ!? なにこれ、本物!? 本物のモンスターだあああ!」
さらに奥へ進むと、暗闇の中に鎮座するルシファー様が、ゆっくりとサングラスを外して琥珀色の瞳を光らせた。
「……愚かな。貴様の魂の色、泥のようだな。ここで永遠に、私の足元の影を数え続けるがいい」
放たれる『傲慢』のプレッシャー。男子生徒たちは腰を抜かし、涙と鼻水を流しながら出口へと這いずり回った。
お化け屋敷の出口では、魔女のコスプレをしたパンドラが、震える客たちを笑顔で迎えていた。
「お疲れ様でした! 怖かった? でもね、最後はおじちゃんたちがちゃんと魔法で『嫌な気持ち』を消してくれるから大丈夫だよ!」
パンドラが杖を振ると、彼女の権能である『希望』の光が客を包み込む。
恐怖のどん底に落とされた客たちは、その瞬間に得も言われぬ多幸感に包まれ、「怖かったけど、なんだか人生観が変わった!」「もう一度あの絶望を味わいたい!」と、中毒者のような顔をしてリピートし始めた。
「……管理人。なぜだ。なぜ、私が本気で絶望させた人間たちが、笑顔で戻ってくるのだ。私の魔王としてのアイデンティティが……」
「ルシファー様、それがパンドラの『箱』の力ですよ。絶望の後に来る希望は、何よりも輝くんです」
パンドラのクラスは、学園祭の展示部門で圧倒的な一位を獲得した。
【ログ:学園祭お化け屋敷、大盛況。】
【獲得ポイント:+25,000,000P(客が味わった『ガチの死の恐怖』と『強制的な多幸感』の反復横跳びより)】
【パンドラのステータス:称号『地獄のプロデューサー』を習得。】
【管理者コメント:魔王たちが『演技指導』と称して、後片付けの時間まで本気で怖がらせる練習をしていました。……ルシファー様、来客の半分が『あの黒服のお兄さんに罵倒されたい』という特殊なファンに変わっていましたが、よろしいのですか?】
「パパ! 今日はとっても楽しかったね! 明日は、ルルちゃんと一緒に『わたあめ』を食べ歩こうね!」
『……ルル、わたあめ、百個、食べる。……おじちゃんたち、食べないように、見張る』
魔王たちの本気の恐怖演出と、パンドラの絶対的な癒やし。
垂直都市の住人たちが作り上げた文化祭は、学園の歴史に(そして一部の生徒の精神に)消えない刻印を残したのだった。
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