第38話:パンドラ、ついに『魔法』を習う!? 鬼教師ルシファーのスパルタ教育!
垂直都市の管理事務所。最近のパンドラの悩みは、自分の「非力さ」だった。
「おじちゃんたちは、指パッチン一つでお掃除したり、空を飛んだりできるのに……私だけ、踏み台がないと高いところの書類が取れないの。これじゃ、パパの立派な助手になれないよ!」
10歳の少女の切実な訴えに、事務所の影で聞き耳を立てていた「彼」が、音速を超えて目の前に現れた。
「……聞いたぞ、パンドラ! ついに我が至高の魔導を継承する決意を固めたか! よろしい、このルシファーが直々に、天界を三秒で灰にする『終焉魔法』を叩き込んでやろう!」
「ルシファー様、落ち着いてください。彼女がやりたいのは生活魔法の延長であって、大量破壊兵器の習得じゃありません」
「黙れ管理人! 才能とは爆発だ! パンドラ、今すぐ第2階層の特設訓練場へ向かうぞ!」
ルシファー様はいつになく真剣な表情で、巨大な黒板(魔力製)の前に立っていた。
「いいかパンドラ。魔法とは、己の意志で世界の理を書き換える行為だ。まずは基本中の基本、『深淵の黒炎』からだ。イメージしろ。すべてを焼き尽くし、無に還す絶対的な闇を……!」
ルシファー様の指先に、宇宙の終わりを予感させるような禍々しい黒い炎が灯る。
「わぁ……! 綺麗だけど、ちょっと怖そう。……えいっ!」
パンドラが小さな手をかざし、ルシファー様の教え通りに魔力を練り上げる。
彼女の胸の奥、封印された「パンドラの箱」から、純白の光が漏れ出した。
シュボッ!!
パンドラの指先に現れたのは、黒い炎ではなく……。
パチパチと音を立てて弾ける、イチゴの香りがする「ピンク色の花火」だった。
「……ん? パンドラ、それは……火力の調整ミスか?」
「ううん、おじちゃん! これ、見てて!」
パンドラがその花火を荒野に投げると、着弾した地点から禍々しい闇が消え、色とりどりの「綿あめの木」がニョキニョキと生えてきた。
『……パパ。……お姉ちゃん、すごい。……死の荒野が、お菓子の国に、書き換わってる。……ルル、忙しい。……食べなきゃ』
ルルが変異した地形をムシャムシャと食べ始める中、ルシファー様は呆然と立ち尽くしていた。
「バカな……。私の『破壊の術式』を完璧になぞったはずなのに、なぜ『幸福の創造』に変換されるのだ!? パンドラ、次は『空間切断』だ! 世界の境界を切り裂くイメージで――」
「わかった! えいっ!」
パンドラが手刀を振るう。
空間が裂ける音の代わりに、パッパカパーン! という景気のいいファンファーレが鳴り響いた。
裂けた空間からは、大量の「洗濯済みのシーツ」と「焼きたてのパン」が溢れ出してきた。
「パパ! 見て見て、空間からパンが出てきたよ! これでお買い物に行かなくて済むね!」
「……パンドラ。それは魔法というより、もはや『奇跡』の領域だよ」
「ぬぅ……。私の教える『絶望の呪文』が、ことごとく『主婦に嬉しい便利機能』に浄化されていく……。これでは魔王の継承者ではなく、聖女の修行ではないか……!」
ルシファー様は、パンドラが作り出した「自動で肩を叩いてくれるゴーレム(元・殺戮兵器)」に肩を叩かれながら、ガックリと膝をついた。
「おじちゃん、どうしたの? 私、上手にできたでしょ?」
「……ああ。上手すぎて、私のこれまでの数万年の魔導探求が、ただの『お掃除スキルの練習』に思えてきたよ……」
最強の魔王が味わう、かつてない敗北感。
だが、嬉々としてパンを配り歩くパンドラの笑顔を見て、彼は深く溜息をつき、微笑んだ。
「……まあよい。貴様が望むなら、私は世界で唯一の『家事手伝い魔法』を教える魔王として、その名を汚すとしよう」
その日の夕方。
管理事務所の書類は、パンドラの放つ「整理整頓の波動」によって一瞬で片付き、ルルは空間の裂け目から出てくるおやつで満腹になり、事務所はかつてないほど清々しい空気(と花の香り)に包まれていた。
【ログ:パンドラ、魔法習得。ただし属性が『破壊』から『超・家庭力』に全振りされました。】
【獲得ポイント:+15,000,000P(ルシファー様が味わった『自分の最強魔法を家事に使われるというクリエイティブな絶望』より)】
【パンドラのステータス:称号『深淵のお掃除聖女』を習得。】
【管理者コメント:ルシファー様がその後、こっそり『美味しい紅茶を淹れるための闇魔法』を研究し始めました。パンドラの影響力は、魔王のアイデンティティすらも書き換えてしまうようです】
「パパ! 明日はね、おじちゃんに『空飛ぶお布団干し』を教えてもらうんだ!」
「……ルシファー様、だんだんパンドラの便利使いに慣れてきましたね」
地獄の魔法特訓は、いつの間にか「パパを楽にするための便利術開発」へとシフトしていくのであった。
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