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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第4章:深淵の女王・新生編

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第35話:パンドラの休日! 勇者アレックス、初めての『お家デート』の護衛任務!?

 それは、嵐の前の静けさのような土曜日の朝だった。

 パンドラが、お気に入りのリボンを鏡の前で整えながら、弾んだ声で宣言した。

「パパ! 今日ね、クラスメイトの男の子……じゃなくて、お友達の家に遊びに行ってくるね! 午後のティータイムに招待されちゃった!」

 その瞬間、管理事務所の空気が「物理的に」凍りついた。

 ルシファー様の持つティーカップがピキリと亀裂を上げ、上皇様の周囲には禍々しい鬼火がボウ、と灯る。

「……管理人。今、パンドラは何と言った? 『男の家』と言わなかったか? 私の耳が天界の呪いで腐ったのでなければ、そう聞こえたのだが」

「落ち着いてくださいルル……じゃなかった、ルシファー様。ただのクラスメイトですよ。宿題を一緒にやるだけです」

「認めん! どこの馬の骨とも知れぬ人間の雄が、パンドラの純潔なる午後に触れるなど、世界の終焉ラグナロクでも起きぬ限り許されん!」

「ほっほっほ、堕天使よ。ならば、その『宿題相手』とやらを今すぐこの世の因果からログアウトさせてやれば済む話じゃ……」

「させませんよ!!」

 魔王たちの暴走を止めるため、私は妥協案を提示した。

 それは、学園で「庭師」として働く元勇者候補・アレックスを公式な護衛として同行させることだった。

「いいか、アレックス。これは『聖剣の試練』より過酷な任務だ」

 呼び出されたアレックスは、ルシファー様と上皇様の間に挟まれ、顔面を蒼白にしていた。

「パンドラがその男と手を触れ合えば、貴様の首を飛ばす。パンドラがその男に微笑みかければ、貴様の魂を百回磨り潰す。……だが、パンドラに『監視されている』と気づかれたら……その時は、この宇宙から貴様の存在を抹消する」

「……あ、あの、ルシファー様……。それ、どうやっても僕の死は確定してませんか……?」

「泣き言を言うな勇者! ほれ、これを持て。パンドラに危険が迫れば(具体的には男が半径一メートル以内に近づけば)即座に爆発する『身代わり呪符』じゃ」

「それ、ただの爆弾じゃないですか!?」


 パンドラと、その影に潜むルル。そして、その後ろを必死の形相で追うアレックス。

 さらにその数百メートル後方から、ステルス魔法をかけた私と魔王たちが尾行するという、異様な大行列が出来上がった。

 パンドラが訪れたのは、穏やかな商人の息子、ピーター君の家だった。

「ピーター君、お待たせ! これ、パパが作ったクッキーだよ」

「わぁ、ありがとうパンドラちゃん! さあ入って、お母さんがお茶を用意してくれてるんだ」

 家の中へ入っていく二人。

 アレックスは屋根裏に張り付き、魔王たちは隣家の木に擬態して、血走った目で窓の中を監視していた。

「……管理人、見ろ。あの男、パンドラの椅子を引いたぞ。……手に触れたか? 今、手に触れたのではないか!? 上皇、今すぐあの家に隕石を落とせ!」

「待て堕天使、まずはあの男の家系を七代前まで呪って、家運を絶つのが先決じゃ……」

「二人とも、静かにしてください! ほら、ルルちゃんも呆れて……って、ルルちゃん、何食べてるの!?」

『……パパ。……あの家の、壁に住んでた、シロアリ。……おいしくない。……それより、お姉ちゃんの、隣の男……食べてもいい?』

「ダメに決まってるでしょ!!」


 ティータイムは穏やかに進んでいたが、突然、小さなハプニングが起きた。

 ピーター君が差し出したジャムの瓶が滑り、パンドラの服に飛び散りそうになったのだ。

「あぶない!」

 ピーター君がパンドラの肩を支えようと手を伸ばした瞬間――。

因果抹殺ギガ・デリート!!!」

「九字護身法・絶!!」

 屋根裏のアレックスが動くより早く、後方の木から凄まじい魔圧が放たれた。

 だが、その攻撃がピーター君を直撃する寸前。

「――めっ!!!」

 パンドラの鋭い声が響き、虹色の波動が家全体を包み込んだ。

 ルシファー様の闇の炎は「温かいココア」に変わり、上皇様の呪符は「色とりどりの紙吹雪」へと書き換えられた。


 窓を開け、仁王立ちになったパンドラが、隣の木をビシッと指差した。

「おじちゃんたち! それに、屋根裏でガタガタしてるアレックス君も! パパも……パパは信じてたのに!」

「……っ。パ、パンドラ、これは……」

「お散歩してたら、偶然、本当に偶然ここに行き着いただけじゃ……」

「嘘ばっかり! せっかくピーター君と新しい絵本を読んでたのに、紙吹雪だらけになっちゃったじゃない! もう、みんななんて大嫌い!」

 『大嫌い』

 その一言で、ルシファー様と上皇様は、まるで石化したかのように灰白色になり、その場に崩れ落ちた。アレックスにいたっては、ショックのあまり屋根から転げ落ちて白目を剥いていた。

【ログ:パンドラの休日監視作戦、大失敗。魔王たちが精神的致命傷を負いました。】

【獲得ポイント:+12,000,000P(魔王たちが味わった『愛娘に嫌われるという、宇宙崩壊級の絶望』より)】

【パンドラのステータス:スキル『断絶の拒絶(パパ不信)』の兆し。】

【管理者コメント:パンドラを怒らせると、天界の軍勢よりも恐ろしいことを魔王たちは学ぶべきでした。……さて、私はこれから一週間、パンドラのご機嫌取りのために特製プリンを作り続ける日々が始まりそうです】

「パパのプリンなら、一口だけ許してあげる。……でも、おじちゃんたちは、あと三日は絶交だからね!」

「……パンドラ……。頼む、絶交だけは……! 魂を半分差し出すから……!」

 泣きつく魔王たちを尻目に、パンドラはぷいっと顔を背けた。

 深淵の平和(?)を取り戻すための代償は、あまりにも大きかったのである。

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