第33話:学園の七不思議!? 夜の理科室に潜む、魔王たちの『抜き打ち家庭訪問』
学園には古くから「七不思議」というものが存在する。
夜中に動き出す人体模型、勝手に鳴り出すピアノ、そして……「誰もいないはずの廊下から聞こえる、重々しいため息」。
「……はぁ。パンドラは本当に学校を楽しんでいるのだろうか。私の見ていないところで、不潔な人間にいじめられたり、変な虫(男子)に声をかけられたりしていないだろうか」
深夜の理科室。窓から差し込む月光を浴びて、ルシファー様が人体模型の隣で深刻な顔をして座っていた。
「堕天使よ、案ずるな。わしが既に教室の机一つ一つに『悪意を検知する呪い』を仕込んでおいた。もしパンドラに嫌がらせをする者がいれば、その者の筆箱から一生、消しゴムのカスしか出てこぬようになる」
上皇様は、肖像画の額縁の中に器用に収まりながら(物理的に絵の中に入っている)、扇子をパタパタと仰いでいる。
「……皆さん、いい加減にしてください。ここは私の管理区域内ですが、一応『公共の教育施設』なんです。魔王が二人して夜の学校に不法侵入して、何をやっているんですか」
私は管理用ランタンを手に、頭を抱えていた。この二人、パンドラが学校の話を少し控えただけで「いじめだ!」「緊急事態だ!」と騒ぎ出し、ついに「夜の学校を視察する」という暴挙に出たのだ。
その時、廊下からパタパタと小さな足音が近づいてきた。
「あ、パパ! やっぱりここにいたんだね!」
扉が開くと、そこにはパジャマ姿のパンドラと、その影からひょっこり顔を出したルルが立っていた。
「パンドラ!? なぜこんな時間に……」
「ルルちゃんがね、『学校にお菓子忘れた、お腹空いた』って泣くから……。そしたら、理科室からおじちゃんたちの嫌な予感(魔力)がしたから見に来たの」
『……パパ。……人体模型、おいしそう。……ルシファーおじちゃん、何してるの? ……それ、新しい、コスプレ?』
ルルが人体模型のふりをしていたルシファー様の足をツンツンと突っつく。
「……っ。パ、パンドラ……これには深い訳が……。私は、その、学園の防犯設備に不備がないか、抜き打ちで調査を……」
「おじちゃん、メッだよ! 夜の学校に勝手に入っちゃダメって、パパも言ってたでしょ!」
パンドラの鋭い「メッ!」が理科室に響き渡る。
数千の天使を屠ってきた傲慢の魔王が、10歳の少女の叱責にビクゥッ! と肩を震わせ、人体模型のフリを解いて膝をついた。
「ほっほっほ、ルシファーは相変わらず詰めが甘いのう。パンドラや、わしはこうして絵画を守っておっただけ――」
「じーじも! 絵の中から出てきて! 肖像画のおじいさんが泣いてるよ!」
パンドラが指差すと、上皇様に居座られた元々の肖像画の人物(かつての学園長)が、恐怖のあまり絵の中でガタガタと震え、涙を流していた。
「……もう、みんなして……。明日、学校で『理科室に謎の美形幽霊が出る』って噂になっちゃったらどうするの!」
『……お姉ちゃん。……ピアノの部屋からも、変な音……する。……フェンリル、いる』
ルルの言葉に私たちが音楽室へ駆け込むと、そこでは大型犬サイズのフェンリルが、鍵盤の上に前足を置いて「ド、レ、ミ……」と、必死にパンドラが練習していた曲を復習(?)していた。
「……グルゥ(あ、パンドラ様……いや、これは……音響の確認を……)」
「フェンリルまで! もう、みんなまとめてお家に帰るよ!」
結局、深夜の学校探索は、パンドラによる「過保護な大人たちへのお説教大会」へと変貌した。
翌朝、学園では「昨日の夜、理科室と音楽室から少女の怒鳴り声と、それを平謝りする男たちの声が聞こえた」という、七不思議よりも質の悪い新手の怪談が広まることになった。
【ログ:夜の学校視察(不審者活動)、パンドラに現行犯逮捕される。】
【獲得ポイント:+3,500,000P(魔王たちが味わった『愛娘に叱られるという、至福の絶望』より)】
【パンドラのステータス:スキル『風紀委員長(魔王特効)』を習得。】
【管理者コメント:魔王たちの教育熱心なのは結構ですが、人体模型になりきるのは流石にどうかと思います。ルシファー様、ポーズが完璧すぎて逆に怖かったですよ】
「パパ。明日から、おじちゃんたちには『学校半径100メートル以内接近禁止』の呪いをかけてもいい?」
「……気持ちはわかるけど、彼らが泣いてダンジョンを沈没させるから、ほどほどにしてあげてね」
親の心、子知らず。そして、魔王の愛、常識知らず。
垂直都市の平穏は、今日も娘の「叱り声」によって辛うじて保たれている。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




